第124話:温泉の怒り

 フィオレント大陸にある魔王城にて。

「いつになったら【閃光】はここへ来るのだ!」

「魔王様に返事の書簡すら送ってこないとは……」

「そもそも本当に届いているのか?」

「はい。恐らく」


「ではなぜ奴は来ない。その件について皇帝は何と言っている?」

「数日前帝国の皇帝に問い合わせたところ、『余は何も知らん』という返事が送られてきました」

「クソッ!これだから人間は!」

「さようでございますな」


「おい。洋紙とペンを持ってこい」

「承知致しました」

「【閃光】め!目に物を見せてやる……!」


同刻、フィオレント大陸にある聖王城にて。

「【閃光】はまだ来ないのですか?」

「報告によれば、まだ帝国すら出ていないようです」

「舐められたものですね……!」

「はい。人間風情が聖王様に逆らうなど、絶対にあってはならないことです」


「少々身の程をわからせてあげましょうか」

「さすがは聖王様です!」

「アインズベルクに警告の封書を送ります。今すぐ便箋と筆をここへ持ってきなさい」

「はっ」



ちょうどその頃、バルクッドでは。

俺は今エクスの腹に背を預け、果実を齧っている。

そこへケイルがやって来た。

「アルテ様。大変です」

「ん?おお、ケイルか。どうしたんだ?」

「現在有名な地質学者様が来訪して下さっていることは御存じですか?」


確か今うちの地盤を調査しているんだったな。

「ああ。もちろん知ってるぞ」

「先ほど敷地の地下深くに源泉が眠っていることが判明しました」

「なに!?」

「!?」

エクスが驚いて顔を上げた。急に大きな声を出してすまん。


「現場へ向かうぞ」

「了解です」

「ブルル……」

「なんだ、エクスはあまり乗り気じゃないのか」

エクスはコクコクと頷いた。


「エクスよ。温泉に入れば基礎代謝が高まり、汗と一緒に老廃物が排出される」

「……」

「要するに、温泉はダイエットにめっちゃ効果的なんだ」

「!?」


「行くぞ」

「ブルルル!!!」

伝説の魔物グルファクシは黄金の鬣を靡かせ、迅雷の如く大地を駆けた。


到着後、地質学者に色々と聞いた。

「どのくらいかかると思う?」

「最低でも一ヵ月は掛かると思います。辺りを露天風呂に仕上げてから岩盤を掘りますので」

「詳しく説明してくれ」


「はい。源泉から湯を噴出させてから工事作業を行うのは非常に効率が悪いので、通常全てを終わらせた後、最後に温泉を採掘するのです」

「説明しろと言っておいて何だが、地質学者なのに詳しすぎないか?」


と言った瞬間、学者の目が死んだ。

「はい。私は年中様々な場所の地質を調査しておりまして。今回のような場面に出くわすことが多々あるのです」

「もしや、毎回手伝わされているのか?『お前が発見したんだから最後まで手伝え』的な感じで」


「その通りです。おかげさまで大体覚えました。不本意ですが」

「可哀そうに」

「そういっていただけるだけで、私は救われます……」

学者は涙を流した。


「じゃあ今回も頼むぞ」

「えっ」

有名な地質学者は膝から崩れ落ちた。

ドンマイ。


その後、母ちゃんに話を通してすぐに作業を開始した。

うちの最高権力者は親父ではなく母ちゃんなので、今回は中間報告を省かせてもらった。


次週の土曜日。

俺達は最後の作業に取り掛かろうとしていた。

「やっと俺の出番だな」

「随分早かったですね」

学者は感心した。


アインズベルクには優秀な魔法師が揃っているので、露天風呂の工事は丁度一週間で終わったのだ(今回はガチなので白龍魔法師団を動員した)。


俺は《光》魔法でドリルを創り出す。

「おぉ。これが噂に聞く《光》魔法ですか。なんと美しい……」

「何メートルくらい掘ればいいんだ?」

「最低でも千メートルほどですかね。慎重に掘っていきましょう」

「わかった」


数百メートルの地点まで掘り進めた時、ケイルがやって来た。

「アルテ様。お忙しいところすみません」

「全然大丈夫だ。どうしたんだ?」

「非常に言いにくいのですが、また届きました」


ケイルの手には見覚えのある二つの書簡が握られていた。

「はぁ……。一回中断させてくれ、すまんな」

「いえいえ」

俺は学者に謝り、一度魔法を解除した。


ケイルから書簡を受け取り、内容を確認する。

「……」


数秒後。

「チッ」

両方の書簡を破り捨てた。


俺は光速思考を起動。

世界地図は頭に入っているので、ここから魔王城までの正確な距離を計算する。


次にロンギヌスの槍を生成。


「エクス。魔力を少し分けてくれ」

「ブルルル」

近くでゴロゴロしているエクスから《雷》の魔力を少しばかり頂戴し、槍に纏わせる。

いつも一緒にいる相棒だからこそできる芸当である。


俺はその槍を“握りしめた”。

空気が震える。


座標、角度、そして力。

その全てを一瞬で導き出す。


《光》×《雷》という前代未聞の魔法。

俺とエクスの合わせ技である、その光雷槍の名は……。


【テルメ・ディ・ラヴィア(温泉の怒り)】


俺が投じた光雷槍は天を裂き、フィオレント大陸の方へ消えた。


「あまりアインズベルクを舐めるなよ……?」


そのあと聖王城にも同じ槍をぶん投げ、何事もなかったかのようにボーリング作業を再開した。

「いいんですか?」

「ああ。魔王城と聖王城は都から離れた山の頂上に建っているからな」

「では関係のない民間人に被害は出ませんね」

「そういうことだ」


その日、うちの敷地内に露天風呂が完成した。







「アル兄様!」

「おお、どうしたんだ?レイ」

「一緒に露天風呂に入ろー!!!」

「!?」


このあと、エクスのダイエットがめちゃくちゃ捗った。



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