第123話:レイの実力
俺の相棒をヴァレンティアに預けるのは何か癪なので、エクスを連れてレイの方へ向かう。
だが彼女の居場所がイマイチわからない。
ということで、近くの一年生に聞くことにした。
「そこの君、少しいいか」
「わ、わわわわたくしですか?」
「そうだ」
「ええええええ!!!」
なんかめっちゃ元気な女子に聞いてしまった。
「SS-1クラスの位置が知りたいんだが」
「SS-1クラスですか!ちょっと待ってくださいね!ふぅーっ。ふぅーっ」
SS-1の場所を尋ねただけなのに、目をバキバキにして腹式呼吸を始めてしまった。
なぜか周りの女子達が応援している。
「頑張れ、ミミちゃん!」
「落ちついて、深呼吸、深呼吸!」
「目が逝ってるよ!帰ってきて、ミミちゃん!」
俺は大人しくミミちゃんを待つことにした。
数十秒後。
「あっちです!」
「そうか。ありがとな、ミミ」
「えっ。ミ、ミミミミ……」
「キャーッ!ミミちゃん名前を呼んでもらってるー!」
「あのアルテ様に……。いいなぁ!いいなぁ!」
「私もお近づきになりたいわ!」
セミになってしまったミミちゃんを置いて、俺は教えてもらった方へ歩みを進めた。
「アル兄様ー!こっち、こっちー!」
ぴょんぴょんしながら手を振るレイを発見。
近付くと、レイが走って俺の胸に飛び込んできた。
「よしよし」
「えへへ~」
俺はレイの頭をヨシヨシする。
ナデリコナデリコ。
だがレイの抱擁が少しずつ強くなっていった。
よく見れば彼女はおでこに怒り筋を浮かべており、瞳のハイライトも消えていた。
「レ、レイ……どうしたんだ?」
「お兄様さっきは楽しそうだったね。美人の冒険者の人とか、一年生の女子とかとおしゃべりして……ブツブツ」
「あ、あれは違うんだ。前者はエクスを見に来ただけで、後者は俺が道を尋ねただけ……」
「……」
ググググ。
「レイ。このままでは死んでしま……グハッ」
レイの抱擁が限界突破し、俺は盛大に命を落とした。
我が人生に一片の悔いなし。
「ブルル……」
現在俺はレイの所属する組を率いて森の中を進んでいる。
俺とエクスは極限まで魔力と闘気を抑えているので、魔物達が逃げることはない。
「私、頑張る!」
「私もレイを見習わなくちゃね」
「魔物なんてやっつけてやるんだから!」
「僕も【閃光】様に認めてもらえるくらいには……」
俺が一年生の時は十人一組だったが、あの時の事件を踏まえて、去年から四人一組になった。
これは非常に良い改革だと思う。
帝都には冒険者が沢山いるから、牽引役が不足することもないしな。
またこの組はレイと、以前登場した彼女の友人達で構成されている。
ルーカスの妹である【ステラ・パリギス】と、リリーの妹である【エア・カムリア】。そしてレイに粘着する薄汚いクソ虫君こと、【オスロ・グリマドール】だ。
ちなみにクソ虫はGランクのフンコロガシみたいな魔物である。
「皆。五十メートル先にオークがいる。戦闘態勢を整えろ」
「オークって確かDランクだったよね」
「よく知っているな。さすがはレイだ」
「お兄様に褒めて貰っちゃった~♪」
「またイチャイチャしてるわ……」
「アルテ様のシスコンは筋金入りだからね!」
「噂によると、陛下公認らしいよ」
「陛下公認ということは、帝国どころか大陸公認ってことよね?」
「今回参加するSSランク冒険者のヴァレンティア様もちょっとズレてるらしいし、そういうものなのかもね!」
「魔物研究家であるノーマン博士の自伝にも『天才と変態は紙一重だ』と書いてあったよ」
「ほら。ごちゃごちゃ言ってないで、誰がやるか決めろ」
「「「「はーい」」」」
レイが前に躍り出た。
「ここは私が出るね!」
三人はコクコクと頷いた。
オークがこちらに気付き、涎を垂らしながら突進してきた。
「ブオォォォォォ!!!」
レイは世界樹の杖に魔力を溜め、“三つの”上級魔法に変換した。
【ファイアランス】
【ストーンバレット】
【ウォータージャベリン】
三種の属性魔法が放たれた。
ドドドン!
「ブ、ブォォ……」
それらはオークに見事直撃し、命を刈り取った。
前に倒れ込み、ドシーンという音が森に響く。
驚いた鳥達がバサバサと飛び立って行った。
レイはこちらへ向き。
「イェイ!」
と可愛らしくピースをした。
天使である。
「よくやったな、レイ。最高の一撃だったぞ」
「えへへ~」
俺は女神をヨシヨシする。
今日二回目である。ごちそうさまです。
今の魔法攻撃はゴッデス・ストライク(女神の一撃)と名付けよう。
「相変わらず凄いわね、レイちゃんの多重展開」
「三属性の上級魔法を同時に放つなんて、もう人間を超えちゃってるよね!」
「この前魔法の先生が目をひん剥いてたよ」
レイがどのくらい凄いのかと言うと、両手と片足を使って三台のパソコンを超高速タイピングしているくらいヤバいのである。
さらっとやってのけてるが、恐らく彼女は脳内でとんでもない量の情報を処理している。
彼女が超級魔法を使えるようになる日は近いだろう。
その後も野外実習は続いた。
「レイが超級魔法を習得したら、公爵家総出でパーティを開こう」
「恥ずかしいからやめてよぉ」
「ブルル……」
陛下を脅して帝城を貸し切ろうか。
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