第122話:野外実習
今日は記念すべきレイの野外実習の日だ。
彼女は今頃学園で教師の説明を受けていることだろう。
一年生にとっては初めてのイベントになるので、学園内はいつもより騒がしくなっているはず。
朝食をとった後、自室で準備を整える。
「ケイル。今日はビシッとキメてくれ」
「お安い御用です」
ケイルは手慣れた手つきで俺の髪を弄る。
「こんな感じでいかがでしょう」
「よし。完璧だ」
マジッグバッグと星斬りを身に着け、その上から外套を羽織る。
これを冒険者としての正装にすると決めてから早数年。
なんというか、やっと身に馴染んできた気がする。もちろん気持ち的な話だ。
「エクス、行くぞ」
「ブルルル」
恐らく世間の想像する【閃光】のイメージは、“この装備でエクスに跨っている俺”なのだと思う。
〈かの冒険者は【閃光】と呼ばれ、迅雷を纏う黒馬に跨る〉
と吟遊詩人に謳われているせいだろうな。知らんけど。
現在俺達は帝都の大通りを歩いている。
エクスは以前から馬鹿みたいに目立っていたが、進化してからさらに目立つようになった。
数年前に説明したが、俺とエクスは普段魔力と闘気を極限まで抑えている。
だがSSランクのグルファクシになってから、隠しきれないオーラのようなものを纏っている気がする。
エクスはきっと今回の進化で、生態系ピラミッドの頂点に君臨する魔物しか持たない……否、持てない何かを獲得したのだろう。
それっぽい言葉で例えると“王の資質”みたいな。
「まだまだ世界は謎だらけだ。な、エクス」
「ブルルル」
「そういえば最近色んな人とダイエットに勤しんでいるらしいが、上手くいってるか?」
「ブルル……」
「そうか。じゃあ今度一緒にSSランクでも荒らしに行くか」
「ブルル」
そんなわけで、帝龍祭の後の予定が決定した。
俺達は正門を潜り、野外実習が行われる森へと向かう。
「なぁ。もしやエクスって世界最速なのでは?」
「ブルル」
昔バルクッド近郊のテール草原でSランクのヴァンパイアベアを討伐した。
その時、ボロボロになったエクスを拾ったのだ。当時はまだBランクのチビ仔馬だったのに、今はSSランクだ。こんなの誰も予想してなかった。もちろん俺でさえな。
今となっては懐かしい思い出である。
ようやく目的地が視界に入った。
「エクス。そろそろスピードを緩めてくれ」
「ブルルル」
森の手前に生徒と教師、冒険者等が計千人以上は待機している。
ざっと見渡すと知っている顔を発見した。
「よう、皆。久しぶりだな」
「久しぶりだな、アルテ」
「エクスが進化した件、聞いたわよ」
「アルテもエクスも、久しぶり!」
Sランクパーティ【獅子王の爪】の面々と再会した。
彼等の拠点はバルクッドなので、偶々用事で帝都を訪れ、ついでに依頼を受けたのだろう。
メンバーのルウ(魔法師)、マチルダ(剣士)、ミラ(魔法剣士)の三名はいるのだが、肝心のパーティリーダーがいないことに気が付いた。
「あれ。アレックスは?」
「エクスが踏んでいるわよ」
下を見ると、エクスの下敷きになっていた。
「あ」
「……」
「で、今日は一体どんな流れで依頼を受注することになったんだ?」
「うぉい!俺を無視するんじゃねぇ!」
「おお、生きてたのか。久しぶりだな、アホックス」
「何事も無かったかのように話を進めやがって……」
と、そこへ。
「やっと来たか。待ちわびていたぞ」
「なんでお前がいるんだよ」
「ギルド本部長から、【閃光】が参加すると聞いてな。いてもたってもいられなくなったわけだ」
黒龍のヴァレンティアが登場した。
獅子王の爪のメンバー達も驚きである。
「まさか……黒龍のヴァレンティアか?」
「え、SSランク冒険者の?」
「アルテの反応的に、本物の様だな」
「纏っている雰囲気が別次元だね……」
彼らは最近帝都に来たばかりだから、初対面なのだろう。
またヴァレンティアが何やら御託を並べているが、その目はエクスに釘付けである。
「エクスが見たかっただけだろ、お前」
「そ、そんなことは……」
「じゃあ触らせないからな」
「SSランクのグルファクシが見たかっただけだ」
正直に白状した。
「では早速撫でさせてくれ」
「だってよ、エクス」
「ブルル」
エクスは首を横に振った。
「偉そうなのが気に食わないらしい」
「撫でさせて下さい。エクスさん」
「ブルルル」
「ギリギリセーフだそうだ」
「よし!」
ヴァレンティアは顔を綻ばせながら、エクスを撫でている。
「エクスを私にくれ」
「ぶっ飛ばすぞ、お前」
「……ケチだな」
「じゃあなんで火龍の卵を龍王国に献上したんだよ」
「人に懐いた魔物がこんなにも可愛らしいとは思わなかったんだ。あときちんと育てられる自信もなかった」
「そうか。また自分で何かの卵を取ってこい」
「そうしよう」
SSランク冒険者の活動に付いていける従魔の卵を獲得・孵化させた後、人慣れするように育てるのは至難の技だ。頑張ってくれ。
レイは大丈夫だ。彼女に懐かない生物など存在しない。
龍の一体や二体くらい余裕だろう。
現にチー君(SSランク八岐大蛇)がベッタリ懐いているし。
「そろそろレイの方へ向かうか」
「ブルル」
レイは遠くからその光景を眺めていた。
「あの女……誰?」
「レイちゃん、その顔は絶対アルテ様に見せないでね」
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