第9章【帝龍祭編】

第121話:帝龍祭について

 俺は今日も今日とて、学園で青春を謳歌していた。

現在食堂にて、いつものメンバーで飯を食っている。


リリーが変なことを言ってきた。

「あんたシスコンのくせに、あまりレイちゃんと一緒にいないわよね?シスコンのくせに」

「言われてみれば確かにそうだよな!シスコンのくせに」

「そんな毒兄みたいなムーブをかますわけがないだろう。あと俺はシスコンじゃない。いたって普通のお兄様だ」

「はいはい」

「わかった、わかった」

「解せぬ」


オリビアが問う。

「以前から気になっていたんだけど、アルテは偶に何もない壁を眺めているじゃない?あれは一体何なのかしら?」

「そっちの方角にレイがいるんだ。ほら、彼女のポケットに“チー君”が入っているだろう?アイツは俺の眷属みたいなもんだから、特に探知魔法を使わなくても、大体の居場所が把握できるんだ」


「で、無意識に壁を見つめているわけ?『あっちにレイがいるなぁ』みたいな感じで」

「そうだが」

「うわぁ……」


「激キモシスコン冒険者ね」

「レイちゃん、可哀想に……」

「SSランクって、(シ)スターコンプレック(ス)の略なのかなぁ」

「妹ちゃんも気の毒だな。こんな変態な兄貴を持って」

「帝国って、何かが少しズレてますよね……」


酷い言われようである。


とその時、丁度陛下から着信がきた。

「ちょっと、泥酔面白オジサンと通話してくる」

「それ絶対父上じゃん……」


俺は食堂の裏に行き、壁に背をついた。

「アルテです」

「余だ」

「昼に掛けてくるなんて珍しいですね。どうかしましたか?」

「実は帝龍祭について、少し伝えておきたいことがあってな」


一息置いて陛下は語る。

「今までは一度予選を行い、そこで勝ち上がった者だけがトーナメントに進む方針だったが、今回は予選を省かせてもらうことにした」

「もうちょい具体的に」

「各国の代表だけでトーナメントを組む予定だ」

「なるほど。名案ですね」


今回初めて《映像》魔法を駆使し、世界中で中継するのだ。

それでもし自分の国の英雄が予選で敗退してしまえば、その国での視聴率が落ち、話題性にも欠けてしまう。

そのため、初回は全ての参加国の選手をトーナメントに組み込むわけだな。


「ちなみに参加国はどのくらいですか?」

「十二か国だ」

「ん?それだとシードが四人必要ですよね?」

「その通り」


ぶっちゃけ、俺と黒龍のヴァレンティアはシード確定だろう。

自分で言うのも何だが、俺達はそれぞれの大陸代表みたいなもんだからな。


「誰にするんですか?」

「誰だと思う?」

「魔王国と聖王国は参加しますか?」

「もちろんだ」


世界に実力が示せるイベントに、あの戦闘狂いの二国が参加しないはずがない。

国で「最強」の名を冠する者が出場するということは……。


「では、そういうことになりそうですね」

「ああ。そういえば、噂の二名から書簡が届いたと聞いたぞ」

「最初の一行だけ読んで、破り捨てました」

「えぇ……」


陛下はコホンと咳をした。

「余は何も聞かなかったことにしておく」

「はい。《光》魔法で証拠隠滅させておいたので大丈夫です」

「よし」


何が『よし』なのかはわからんが、まぁいいだろう。

「最後に聞かせてほしいんですけど、その計画は誰と決めたんですか?」

「カインとフレイヤだ」

「シラフの状態で?」

「ボロ酔い状態だ」

「了解です」


ボロ酔い状態ってことは、きっとその場のノリと勢いで決定したのだろう。

『それいいな!』『私も賛成です~。うふふふ~』

的な感じで。


それでもきちんと帝国の利益になる計画を合理的に考えられている時点で、生粋の為政者だということがわかる。


泥酔オジサン二人とキングコングを心の中でヨイショしたところで、陛下は言った。

「優勝すれば龍王国から火龍の卵と“アレ”が送られてくる上に、魔王と聖王に勝利すればきっと褒美が貰えるだろうからな。是非頑張ってくれ」

「任せてください。戦闘だけが取り柄なので」

「頼りにしている」

「はい。ではまた」


ここで通話を切った。

あと全然関係ないが、黒龍のヴァレンティアはまだ帝都にいるらしい。

きっと帝国での冒険者ライフを満喫しているのだろう。

さっさと帰れアホ。お前龍王国代表だろ。


その日、学園はいつも通りで特に何も無かったので、早々に帰宅した。

レイは現在訓練場にいる。

恐らく帝王祭に向けて、友人達と訓練をしているのだろう。

彼女は努力できるタイプの天才だからな。

その調子で頑張って欲しい。


「アル様。お帰りなさいませ」

「おお、ケイルか。ただいま」

「客人が来ております」


俺の脳裏に嫌な予感が過った。

「そいつは背が高くて筋骨隆々の女か?」

「はい」

「まさか黒い翼と角、あと尻尾とか生えていないよな?」

「ばっちり生えております」

「……」


「ケイル。今すぐそいつを屋敷からつまみ出せ」

「物理的に無理です。素直に面会してください」


こうなったら、エクスと逃げるか。


「エクスは?」

「現在、アリア様と共にダイエット散歩に行っております」

「エクス……」


きっと今頃、黄金の鬣を靡かせ、バルクッド周辺を爆走しているのだろう。

後で母ちゃんに礼を言っておこう。

エクスの体型維持のためにありがとう、ってな。


「おお、待っていたぞ。【閃光】」

「もう来るなって言っただろ」

「はて、何のことやら……」


俺は渋々、ソファに腰を下ろした。

「で、何しに来たんだ?」

「聞いたか?帝龍祭のことは」

「丁度さっきな」

「そうか。今回、“九尾”は動くと思うか?」


前回も似たような話をしたが、今回ルールを変更したことで、魔王・聖王という二国の王が参加する可能性が高まったので、もう一度確認しにきたのだ。


「いや、動かんだろう」

「なぜそう言える?」

「理由はいくつかあるが、さすがに帝国を含めた十二か国を敵に回すなど、そんな愚かな事はしないと思うぞ。九尾の頭が世界の滅亡とかを企んでいる、とかであれば話は別だが」

「なるほど」


帝国と龍・魔・聖王国を敵に回すということは、エルドレア大陸とフィオレント大陸全てを敵に回すようなもんだからな。もちろんギルドも含めて。


以上の軍勢が本気を出せば、普通に考えて無事で済むはずがないのである。


「話はそれだけか?」

「そうだ」

「じゃあ早く帰れ」

「照れるなよ。同じSSランク冒険者だろう?」

「エリザの所に行けよ」


俺はエリザを売った。






「もう氷華のエリザとは何回か飲んだ」

「マジかよ……」


のじゃロリババアは、すでにマーキング済みだった。


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