第120話:魔王と聖王

 急だが、エクスが進化して良かったことがいくつかある。

一つ目は総魔力量が増えたこと。

二つ目は見た目が以前よりもカッコよくなったこと。

三つ目はシンプルに強くなったこと。

四つ目は果樹園の果物が美味しくなったこと。

五つ目はカミラ(恋馬)の受けがいいこと。

六つ目は痩せたこと。

以上だ。


「なぁエクス。あの雑草見たことあるか?」

「ブルル」

「だよな」


なんか見たことない雑草が増えた気がする。

しかもエクスの身体から自然と放出される魔力の影響で、めっちゃイキイキしている。

今目を離せば、踊り始めるのではないかと思うほどに。


「今度雑草に詳しい奴でも呼んでみるか」

「ブルル」


その後、果樹園で薬草を栽培してくれている薬師に聞いたところ、『たぶん新種っすね~』と言っていた。やはり、その手の研究者を呼んだ方が良さそうだな。


エクスの進化と言えば、まだ宝箱の話をしてなかったな。

今回手に入れた宝箱は計三つだ。

開けた結果、一つ目が大剣で、二つ目が状態異常無効の指輪、三つ目が魔力を貯めるアクセサリーだった。


大剣はそもそもルーカスにしか使えないのでルーカスに。

状態異常無効の指輪はさすがに次期皇帝のエドワードに。

魔力を貯めるアクセサリーに関しては、その二人以外でじゃんけんをしたところ、オリビアの手に渡った。

そんな感じだ。


あとダンジョンコアを破壊する前に、念のためギルド長や陛下に相談した方が良かったのでは?という意見が挙がった。主に彼らから。


「それじゃダメなんだよ。な、エクス」

「ブルルル」


もちろん初めは相談する予定だった。

しかし祠のメッセージを解析して、計画が変わった。


俺達としては進化のためにコアを破壊することが決定しているのに、わざわざお偉いさん達の判断を仰いでいたら、それができなくなる可能性が高い。


陛下やギルマスは良い。

でも高確率で他の連中が口を出してくるんだよな。

いろんな研究機関の奴らに話が伝わってみろ。絶対に面倒くさい。


だからあの時に俺の判断で壊すのが一番良かったんだ。

一応、無人島の環境を整えるっていう大義名分もあったし。


と言い訳を並べ、己の行為を無理やり正当化し、満足していると。

「アル様。やんごとなき方々から、先ほど書簡が届きました」

「おお、ケイルか。ありがとな」

ケイルが二つの書簡を持って来た。


陛下という名の泥酔面白オジサンの場合は、書簡を送るのではなく通話を掛けてくるか、それかニッコニコで直接公爵邸にやってくるので、恐らく陛下ではない。

何か嫌な予感がしてきたぞ。


とりあえず送り主を確認すると……。

「よりにもよって魔王と聖王かよ」

「お二方の書簡が同時に届くなんて、そんなことがあるんですね」

「仲良すぎだろ」

「ですな」


その内容はというと。

『俺様が直々に魔王城に招待してやる。感謝しろ』

『神聖なる我が城に招待してあげます。光栄に思いなさい』


俺は無言で書簡を破り、《光》魔法で証拠隠滅した。

「良かったのですか?」

「ああ」


「御当主様に軽くお伝えするので、内容を伺っても?」

「魔王城と聖王城に招待された」

「ほうほう。それで?」

「それ以降は読んでない。ムカついたから」


「了解です。アル様らしいですね」

「やかましいわ」

ケイルは『ほっほっほ』と笑いながら、屋敷に戻って行った。


そんな所へ赴くくらいなら、エクスのお腹をポヨポヨして遊んでいた方が百倍マシである。


ポヨポヨポヨ。

「ブルル……」



その頃、魔王城では。

「魔王様、そろそろ書簡が届くはずです」

「そうか。この俺が招待状を送るなど、いつぶりだ?」

「確か最後に送られたのは、およそ百年前ですね」

「【閃光】に会うのが楽しみで仕方がない……」


「客人に問答無用で殴りかかるのだけはお止めくださいね」

「くっくっく。それは相手次第だ」

「力加減を誤って怪我をさせてしまえば、国際問題に発展してしまいますよ?」

「仮にもSSランク冒険者なのだ。大丈夫だろう」



同じ時刻、聖王城では。

「聖王様、書簡に掛けていた追跡魔法が途切れました」

「場所はどこですか?」

「バルクッドのアインズベルク公爵邸付近です」

「そうですか。では無事に届いたようですね」

「はい。内容を確認した後、暖炉にでも捨てたのでしょう」


「【閃光】が待ち遠しいです。彼は一体どの程度の実力を持っているのでしょうか……」

「“人間が多い”あちらの大陸で騒がれる程度ですから、聖王様には遠く及びませんよ」

「でも期待して損はないでしょう?」

「だと良いのですが……」



その日の夜。

「ねぇねぇ、アル兄様」

「ん、どうしたんだ?」

「今月野外実習があるんだけど……」

「もちろん参加するぞ。引率の冒険者枠でな」

「やったー!!!」


レイは本当に天使である。

彼女の頭の上にいるチー君と目が合ったので、『これからも頼んだぞ』とアイコンタクトをした。


「でもクラスの友達から、招待状が~みたいな話を聞いたんだけど、本当に大丈夫?」

「ああ、大丈夫だぞ。その話をしたのは留学生か?」

「うん!」


どうやら魔王と聖王が俺を招待したことが、すでに魔人族と天使族の中で話題になっているらしい。

絶対に行かないけどな。


「実習頑張ろうな」

「頑張る!!!絶対お兄様にカッコいい所見せるんだ~♪」

「そうか」







「おお、アルじゃないか。なんでずっと壺を撫でているんだ……?」

「よう親父。今レイの頭をヨシヨシする練習をしてる最中だ。実習が近いからな」

「そ、そうか……」


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