第119話:エクス最終進化

 謎のダンジョンにて。

「では後は任せたぞ、二人とも。コアから離れすぎると危険だから、それだけは注意な」

「了解よ!」

「はい。任せてください」


俺、セレナ、エクス、カミラ、ムーたんは祭壇に残った。

あとの六名はリリーチームとヘルチームの二手に分かれ、宝箱を探しに行った。


「では早速エクスに食べてもらいましょうか」

「そうだな。ほれ、エクス」

俺はエクスに〈風〉の結晶を渡した。


「ブルルル」ボリボリ


「……」

「……」


数秒経過したが、特に変化は無かった。

「進化しませんね」

「ああ」

「ブルル……」


「まぁそんなに落ち込むなエクス。そういう時もある」

「ブルル」


ムーたんがセレナの頭をポンポン叩いた。

「チュ―」

「そうですね。とりあえず祭壇を調べてみましょうか」

「そうだな」


俺達はコアが祀られている祭壇を隅々まで調べた。

すると、祭壇の床に隠し扉がある事に気が付いた。

「早く開きましょう!」

「落ち着け」


セレナは隠し要素が大好きらしい。

恐らく彼女のような古代人が、この隠し扉を作ったんだろうな。

ノリノリで。


ゆっくり開けると、地下へ階段が続いていた。

「代表して俺が行こう」

「いいなー、アルテ様。いいなー」


さすがにこんな怪しい場所に皆を連れて行くわけにはいかないので、俺が一人で向かうことにした。


しばらく階段を下ると、広い空間に繋がっていた。

その空間の奥に小さな祠がある。

俺は祠に記してある文字を読んだ。

「進化の迷宮……?」


また文字の下に、文章が彫られていた。

『汝、其の資格有す魔に、総ての珠玉を与えるべし』


その資格ってのは、たぶん進化する資格のことだろう。

すべての珠玉は四つの結晶だな。


文章は続く。

『終に迷宮の核を……』

ここで途切れていた。


「なるほどな」

それ以外は特に何も無かったので、上へ戻ることにした。

だが俺にとってはどんなお宝よりも、祠に記してあった情報の方が価値がある。


「何かありました?」

「ああ。進化の鍵を手に入れた」

「もう少し詳しく」

「恐らくエクスは、最後にコアを食べれば進化する」

「えー!」


「ブルルル」

「大丈夫だ。俺達には転移のアクセサリーがあるだろ?」

「ブルル」


その後、宝箱探し組が帰って来た。

「二つ見つけたわ!」

「私達も一つ発見しました」

「よくやった。上出来だ」


宝箱を計三つ手に入れたらしい。ナイスである。

これも祠と同様、古代人の粋な計らいだ。ありがたく享受させて頂こうじゃないか。


「では先に行ってますね~」

「あんた、早く来なさいよ?」

「お先に失礼するわね」

「理由はわからないけど、入り口でのんびり待ってるぜ!」

「早く来ないと、宝箱開けちゃうよ~?」

「まだ無人島の雑魚魔物狩りが終わってねえんだから、早く来いよ?」

「余計な心配だとは思いますが、ダンジョン内は何が起こるかわからないので、くれぐれもご注意を」

「ブルブル」

「チュッ」


「おう」

「ブルルル」


フィールド型ダンジョンの場合、コアの側に帰還用の転移魔法陣がある。

もちろんここも例外では無いので、皆転移で帰った。


作戦はこうだ。

まずセレナに転移のアクセサリーを片方渡し、先に帰ってもらう。

エクスがコアを食べた直後にダンジョン崩壊が始まるので、二人でセレナの元に転移する。

以上だ。


「よし、エクス。食っていいぞ」

「ブルルル」

バリンッ!


エクスはコアを噛み砕き、飲み込んだ。

ダンジョンの崩壊が始まった。


エクスは瞳を閉じた。

膨大な量の魔力が全身から溢れ出す。

その魔力は一つの奔流となり、エクスを包み込んだ。

激しい雷光が辺りを駆け巡る。

その電閃は徐々に収まった。


すると、そこにはスレイプニルの最終進化先である、正真正銘のSSランクモンスター【グルファクシ】が悠々と佇んでいた。


長い鬣と瞳が美しい黄金色に変わり、内包魔力が信じられないくらい増加した。

目算、あの海龍ヨルムンガンドと同等だ。

要するにSSランク最上位である。


「またカッコよくなったな、エクス」

「ブルルル」


ゴゴゴゴゴ。


「そろそろここも危ないな。帰るか」

「ブルルル」


帰る前に転移魔法陣を確認すると、すでに消滅していた。

やはりダンジョンコアが無くなると同時に消えるみたいだな。

セレナに転移のアクセサリーを渡しておいてよかった。

俺はアクセサリーを握りしめた。



エクスがグルファクシに進化したという情報は、冒険者ギルドを通して世界中に拡散された。


その日の夜。

「あら、アルじゃない」

「おお、母ちゃんか」

俺はホクホク顔の母ちゃんに遭遇した。


また俺は“とある事”に気が付いた。

「手に握りしめている、その黄金の髪はまさか……」

「ああこれね。エクスの鬣があまりにも綺麗だったから、お願いしたら頷いてくれたのよ」

「今日進化したばかりなのに」

「それはそれ、これはこれよ。うふふふ」


進化して早々、母ちゃんに鬣を収穫されたエクスであった。

「ブルル……」







ちなみにエクスは進化する際にかなりのエネルギーを使ったので、ぽっちゃり体型から普通体型にグレードアップした。

「良かったな、エクス」

「ブルルル!!!」


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