第115話:無人島のボス

光探知を使っているので、ボスの場所は大体わかっている。

四人で歩くこと約一時間。ようやくその場所へ到着した。

森の中に空き地のような空間があり、その中心で奴が眠っていた。


ブリトラが小声で呟いた。

「おい。Bランクじゃなくて、Aランク魔物の幼体じゃねぇか……」

「はい。あれはAランクモンスター【ジャバウォック】の幼体ですね」

「まぁ実質Bランクだろう。結局討伐するんだから、何も変わらん」

「変わるわ!戦いの途中で進化なんてされたら、たまったもんじゃねえ!」

「本当ですよ……」


まずジャバウォックの説明からさせて貰おう。

ジャバウォックはAランクの赤竜で、顔から触手っぽいものがウネウネ生えており、首がとても長い、ちょいキモドラゴンだ。

鋭い鉤爪で敵を斬り裂くだけでなく、体内で生成した猛毒を飛ばしてくる。


珍しいことにアイツは魔法が使えない。だがその分フィジカルに全振りしており、素の防御力が凄まじく高い。

ある意味厄介な魔物で別名、冒険者殺しと呼ばれる。


ブリトラの『戦いの中で進化する』についてだが、魔物は追いつめられると本能で進化することが偶にある。彼はそれを恐れているわけだ。


ヘルが提案した。

「今眠っているようですし、一気に魔法で仕留めましょう」

「いや、もう起きてるぞ。意識がこちらに向いている。ただ寝てるフリで油断を誘っているだけだ」

「マジかよ……」


「とりあえず俺が魔法で時間を稼ぐから、二人は超級魔法の準備をしてくれ」

「「了解です(だ)」」


【光の矢、六重展開】

俺は光の矢を六本生成し、両腕両足そして両翼目掛けて飛ばした。

魔法は見事にクリーンヒット。


「ギャァァァァァ!!!!!」


このタイミングで、二人が超級魔法を放った。

【竜星群】

【激狼水禍】


いくつもの巨大な岩がジャバウォックに殺到し、怯んだところで巨大な水狼が距離を詰める。狼は体当たりをした後、ジャバウォックの横腹を噛み砕いて消えた。


「ふぅ……。逝ったか?」

「砂埃で何も見えませんが、さすがに……」

「まだ生きてるぞ。今絶賛進化中だ」

「早く追撃しろ、アルテ!」

「その通りです!今がチャンスですよ!」

「え、嫌なんだが」

「なんでだよ!」


「俺魔物の進化に立ち会うの初めてだから、普通に興味ある」

「「は?」」

「Sランクへの進化なんて、普段お目にかかれるものじゃないんだぞ?な、エクス」

「ブルルル」

「わかった」

エクスはSランクの魔石をご所望らしい。任せておけ。


砂煙が晴れると、そこには予想通りSランクの魔物が佇んでいた。

三つの首を動かし、大きな翼を広げる竜の名は……。


「よりによって【アジ・ダハーカ】かよ……」

「一番駄目な進化先ですね……」

アジ・ダハーカはこちらに向き、六つの目で強烈な視線を送ってきた。

その圧に耐えられず、二人はへたり込んだ。


それにしてもAランクの幼体だったくせに、よくSランクの成体に進化できたもんだ。

本当に今更なのだが、アイツの魔力は以前オストルフ近海で倒した、謎の巨大スライムに似ている。ノーマン博士の魔物大全典に記されていた“枠組みから外れたモノ”に。

進化できたのもそれが原因だろうな。


またここはオストルフに近いので、あのスライムもこの島のダンジョンから出て来たのかもしれんな。


「じゃあ、いっちょ仕留めてくる」

「「……」」

二人は冷や汗を垂らしながらコクコクと頷いた。

今までSランクに遭遇したことが無かったのだろう。盛大にビビり散らかしている。


次元斬りを使うと、島が真っ二つになってしまう。

【星芒拳】で叩き潰すのが一番なのだが、確かあのスライムはそれで倒せなかった。

じゃあどうするのか。

答えは一択。空まで吹き飛ばして、星芒拳以上の攻撃を与える。

タイラントを仕留めた時とほぼ同じ方法である。

これで島に被害は出ない。


俺は光速思考を起動し、全身に光鎧を展開。

アジ・ダハーカの下に一瞬で移動し、腹を蹴り上げる。

「グォォォ!!!」


俺も地を蹴る。地面が陥没するほどの力で。

今目の前には藻掻き苦しむ三つ首竜がいる。


右拳に閃光の魔力を込める。

原子レベルにまで圧縮し、ガンマ線に変換する。

その爆発的なエネルギーは、空気を揺らすほど。

この拳には、俺の魔法の全てが詰まっている。

身体を捻り、足から腰までの力を右腕に集約する。

そして。


【超新星拳(スーパーノヴァ)】


その衝撃はアジ・ダハーカを消し炭にするどころか、上昇気流を発生させ、天候を変えた。


軽く着地し、エクスへ魔石……ではなく赤い結晶を渡した。

「ほい」

「ブルル」

美味そうにボリボリと食べている。

スライムの時も魔石ではなく、青い結晶を落とし、エクスの胃に収まった。今回も同じである。


ジャバウォックの進化も大分ゴリ押しだったし、“枠組みから外れたモノ”達は魔物の進化に関する鍵を握っている可能性が高い。

エクスの食いつきも違うしな。


エクスがもしSSランクに進化し、カミラと子供を作ったら、ガチの最強軍団が出来上がるかもしれないな。


エクスの鬣を撫でながら声を掛ける。

「俺に早くエクスゴッドベイビーズを見せてくれてもいいんだぞ?」

「ブルル……」

「そうだな。さっさとセレナ達と合流するか」







「なぁ、俺達に言うことは何もないのか?」

「ずっと蚊帳の外でしたが……」

「すまん。(存在を)忘れてた」


俺の頭の中は相棒の事でいっぱいである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る