第114話:無人島探索開始

俺達が森に足を踏み入れから数分後。

「早速お出ましだぞ」

大木の影から、Dランクのマンイーターが顔を出した。

マンイーターを簡単に説明すると、大きな動く肉食植物である。


ヘルが俺達の前に躍り出た。

「ここは私が」

片手を突き出し、〈水〉魔法を放つ。

【アクアブレード】

水の刃はマンイーターを真っ二つにした後、隣の大木も切断した。


ブリトラが叫んだ。

「ヤバい!倒れるぞ、気をつけろ!」

「エクス」

「ブルル」

エクスは、幹の太さが一メートル以上ある大木を、後ろ足で軽々と蹴り飛ばした。

ドシィン。

音は森に響き渡り、驚いた鳥達が一斉に飛び立った。


「ナイスだ」

「開始早々、死ぬかと思ったわ」

「すみません。不注意でした」

エクスのダイエットにも丁度良かったから、次から気を付けてくれれば大丈夫だ。

と声に出して言ってしまうと、エクスがシュンとしてしまうので、ダイエット中なのは秘密にしておこう。


「次から気を付けてくれれば大丈夫だ。それよりも見事な魔法だった」

「俺だって上級魔法くらい使える」

何かと張り合ってくるブリトラを、ヘルは冷静に受け流す。

「はいはい」

「てめぇ!」


そして、エクスを撫でながら礼を言った。律儀である。

「エクスちゃん、ありがとうございます」

「ブルル」


小腹が空いたので、果樹園で採れた果物をマジックバッグから取り出し、四人で食べながら探索を続ける。もちろん光探知は常に起動しているので、安心して欲しい。

「奥からゴブリンの群れがやってくるぞ」

「マジ?まだ何も見えねえんだけど」

「ゴブリンはFランクですが、群れになれば実質E~Dランクですので、油断は禁物です」

「その通りだ」


今度はブリトラが一歩前に出た。

「今度は俺がやる!」

約十秒後、茂みの向こうからゴブリンの群れが現れた。

すぐ俺達に気が付き、涎を垂らしながら突っ込んできた。

ちなみに、ムーたんに御馳走をチラつかせた時も、あんな感じで突っ込んでくる。


ブリトラは地に両手をつき、呟いた。

【ソイルランサー】

地面からいくつもの土槍が飛び出し、次々とゴブリンを貫いていく。


「おぉ。魔法の制御が上手いな」

「だろ~?めっちゃ練習したんだわ、この魔法」

「悔しいですが、魔力操作に関しては私と同等みたいですね」

「俺の方が上手い」

「厳密に言えば、私の方が少し上手です」


龍人族がフィジカル特化なのに対し、魔人族と天使族は主に魔法特化である。

ナチュラルに人間を見下すくらいには得意なのだ。

そんな両国の学生代表として、帝国へ留学に来たということは、もしや……。


俺はいがみ合っている二人に問う。

「そういえば、二人とも何級まで使えるんだ?」

「そら超級よ」

「私も超級まで使えますよ」

「ほう。凄いじゃないか」


今年の帝王祭は大盛り上がりになるだろうな。

リリー、ヘル、ブリトラ。そしてレイ(女神)。

この四人はどんな戦いを見せてくれるのか。

非常に楽しみである。


ブリトラはえっへんと胸を張り、ヘルは照れくさそうに言った。

「こう見えても魔王国の同年代ではトップなんだぜ?」

「同じく。伊達に聖王様の推薦を受けていませんよ」

「そうか」


するとヘルが何かを思い出したようで、少し顔を暗くした。

「本当は、ここにジークフリート王子もいたはずなのですが……」

「アイツは性格に難ありだったからなぁ」

二人共、同じ留学生として何か思うところがあるのだろう。


「でも代わりに彼奴は火龍の卵を置いていってくれたぞ」

「お前空気読めよ……」


そんなこんなで俺達は探索を続ける。

「私、《光》魔法見たいです」

「あ、俺も見てえな!大陸中で謳われるレベルの魔法なんだろ?」

「それは知らんが、ちょっとだけならいいぞ」


数分後、前からCランクのオウルベアが姿を現した。

オウルベアは頭がフクロウの巨大熊さんである。一応夜行性だった気がするのだが、昼間から堂々と練り歩いている。

この島ではほぼ生態系の頂点に近い存在だということを、自分でも理解しているのだろう。


「ちょうどいいな。アイツにしよう」

以前レイと共に創った、見栄え重視の魔法を放つ。

【金翅鳥(こんじちょう)】

黄金に輝く光鳥は風を切りながら突き進み、オウルベアの片足を吹き飛ばした。


梟熊はバランスを崩し、地に倒れた。

「エクス」

「ブルルル」

エクスは漆黒の角に魔力を貯め、《雷》魔法を放つ。

密度の高い雷は、紫色に変わり、宙を駆けた。

紫電ってやつだな。

紫電がオウルベアに直撃し、跡形も無く吹き飛ばした。


「ナイスだ、エクス」

「ブルル」

魔法に名前を付けるのであれば、【雷龍の咆哮】ってところだな。


ブリトラとヘルが目を丸くした。

「これ、俺達いらなくね?」

「なんで呼んだのですか……」

「そんなの、嫌がらせに決まってるだろ」

「「えぇ」」


その時、丁度セレナから通話が掛かってきた。

「アルテ様。セレナです~」

「どうしたんだ?」

「今ダンジョンに到着したところなんですけど、想像よりもランクが高そうです」

「目算どのくらいだと思う?」

「詳しくはわかりませんが、Bランク以上なのは確定かと。ちなみにフィールド型です」

まさかのBランク以上だった。


たぶん現在の島のボスは、そのダンジョンから偶々出て来ちゃった奴だろうな。

「なるほど、わかった。セレナがいれば攻略するのは余裕だと思うが、念のためそこで待機しててくれ。いや、やっぱり一度入って、入り口付近を軽く調査してくれるか?」

「了解です~。暇つぶしに調査しておきますね~」

「頼んだぞ」


二人にも軽く説明した。

「えっ。Bランクを討伐した後、ランク不明のダンジョンに行くのか?」

「しかもBランク以上が確定している……」

「おう」

「帰りてぇ」


とりあえず、俺達は直行でボスを倒しに行くことにした。

残った雑魚達は、後でテキトーに《光》魔法で一網打尽にすればいいだろう。







「なぁ、アルテ。そういえば魔王様が『閃光は終焉級魔法を操る』って言ってたんだけど、それマジ?」

「あっ。私も吟遊詩人が謳っているのを耳にしたことがあります。『終焉の魔術師』って。まさか本当に使えるんですか?」

「さぁな」



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