第111話:魔人族と天使族

 翌日の昼。帝立魔法騎士学園にある喫茶店にて、俺達“七人”は珈琲を片手に特製サンドイッチを頬張っていた。

いつもは大食堂で飯を食うのだが、偶には喫茶店のサンドイッチを食べようという話になり、四限終了後すぐここを訪れた。


今日は生徒会メンバー以外に、留学生が二人混ざっている。

「やっぱこっちの大陸の野菜はウメェな」

と言いながら、サンドイッチをムシャムシャ食っているこの男子生徒は【ブリトラ・チェルノボルグ】。

フィオレント大陸にある魔王国からやって来た留学生だ。

全然関係ないが、大分悪そうな名前だよな。


魔王国は主に魔人族が住んでいる国で、トップに魔王が君臨している。

念のため説明しておくが、ランパード公爵家当主(キングコング)とは別の人物である。

また魔人族には角と黒い翼が生えており、悪役のような姿をしている。


そんな名前と見た目をしているブリトラ君は、チェルノボルグ公爵家長男で、何を隠そう魔王直々の推薦でこの学校へ留学をしに来たらしい。


俺はブリトラ君に問う。

「魔王国の野菜は微妙なのか?」

「そうなんだよ。うちは魔物が多いから、野菜を育てるのがすげー難しいんだ。だから競争率が低くて、そんなに美味しくない。一丁前に値段だけは高いけどな」

「なるほど。その分肉は美味いって聞くもんな」

「美味いっていうか、種類が豊富なんだわ。毎日新種が発見されるくらい魔物で溢れてるからな、うちの国」


もう一人の留学生がやれやれと言った感じで口を開いた。

「魔人族が皆野蛮なのは、きっとそれが原因なのでしょうね」

まるで汚い物を見るような視線をブリトラに向けているこの女子生徒は【ヘル・コーネリアス】。

フィオレント大陸にあるサミュエル聖王朝からやって来た留学生だ。

全然関係ないが、言葉に棘がある。


サミュエル聖王朝は天使族が治める国で、トップに聖王が君臨している。

また天使族の背中には白くてフワフワしている翼が生えている。

だが魔人族や龍人族のような角は生えていない。

ちなみに天使の輪も付いてない。ちょっと残念。


そんな名前や見た目に反し意外とチクチクしているヘルは、コーネリアス侯爵家長女で、何を隠そう聖王直々の推薦でこの学校へ留学をしに来たらしい。


要するに二人とも自国の留学生代表なのだ。


「うるせえぞ、糞鳥の分際で」

「そちらこそ、馬鹿鳥そっくりですね。うふふふ」

「てんめぇ……」

「あまり近づかないで下さい。馬鹿がうつります」

ヘルが片手でシッシッと追い払う仕草をした。


一触即発な雰囲気を壊すように、エドワードが間に入った。

「はいはい、そこまで。二人共仲良くしてね~」

「ちっ。命拾いしたな糞鳥」

「こちらのセリフですよ。お馬鹿さん」


余談だが、糞鳥と馬鹿鳥はEランクの魔物である。

前者は逃げる際に糞を撒き散らすことから、この名が付けられた。

後者は天敵の多い森の中で馬鹿みたいに鳴き散らし、すぐに捕食されてしまうことから、その名が付けられた。


もちろん糞鳥は白色で、馬鹿鳥は黒色だ。

魔人族と天使族がバチクソに煽り合う際、名を頻繁に使われてしまう何とも可哀そうな魔物達である。


その時ルーカスが、空気が読めない発言をしてしまった。

「魔王と聖王ってどっちが強いんだろうな」

「!?」

「!?」


リリーとオリビアが額に手を当て、溜息を吐いた。

「あんた、今それはダメでしょ……」

「貴方、少しは空気を読みなさいよ」

「ごめん!やっぱ今の無し!」


ルーカスのアホ発言は、二人の耳に全く届いていないようで……。

「聖王なんて、魔王様の足元にも及ばないだろ」

「あら、逆では無くて?」

「あん?ちょっと表でろや糞鳥」

「うふふふ。馬鹿鳥のくせに口が達者ですねぇ。いいでしょう、受けて立ちますわ」


色んな意味で白黒付けようとしているので、さすがに止めた方が良さそうだ。喫茶店中の視線が集まってしまっているし。てか俺一応生徒会だしな。


「おい。決闘は帝王祭までとっておけ。留学先で問題を起こせば、魔王と聖王に迷惑を掛けることになるぞ」

「確かに……」

「それだけはいけませんね……」


これだから戦闘民族は困る。龍人族然り、この手の種族は喧嘩っ早いのが玉に瑕だ。

あとこの二人は割と普通だが、この三種族はナチュラルに人間を見下している。


不意にエドワードが立ち上がった。

「そろそろ訓練場へ行こう」

「そうだな。ほら早く立てブリブリ」

「おい、それやめろ!めっちゃ恥ずい!」


というわけで俺達は訓練場へ向かった。

決闘を行うのではなく、実技の講義を受けるためである。


道中、ブリトラが呟いた。

「今思い出したんだけどよ。そういえば魔王様が一度アルテに会ってみたいって言ってたわ。それもニッコニコで」

それを聞いたヘルも、何かを思い出したかのように言った。

「聖王様も同じ事を仰っていましたよ」


俺は嫌そうな表情で言った。

「絶対に行かん」

「魔王様に直接会うってのは、魔王国民全員のあこがれだぜ?」

「聖王様の尊い御姿を直接拝見できるのですよ?」


「両者の事は余り知らんが、どうせ戦闘狂なんだろ?」

「そんなの当たり前だ」

「無論です」


「じゃあ会った時、戦えって言われるだろ。それが面倒臭すぎて無理」

「魔王様に勝てれば褒美を貰えるのに……。もったいねえな」

「これが国民性の違いですか……」


「その“戦わせて頂く”、っていうスタンスもなんかムカつくわ」

「……」

「……」


「俺が戦ってやるんだよ。魔王だか聖王だか知らんが、お前らがこっちに来て、俺に頭を下げろ」

「おぉ、随分言うねえ」

「これがエルドレアのSSランク冒険者、【閃光】ですか……」

本当は二人共反論したいのだろう。顔を見ればわかる。

だが視線で黙らせた。


「『もし舐めた事ほざいたら、ガチで国ごと消滅させるからな。普通に人間を見下しているみたいだが、お前らなんて所詮その程度だぞ』って今度王に会った時に伝えといてくれ」

ブリトラとヘルは良い奴だ。しかし聞いた話では三種族共にジークフリートみたいな奴の方が多いらしいからな。







「なんかムカついてきたから、二人とも週末無人島に付いて来い。タダ働きだ」

「「えぇ」」

労働力ゲットだぜ。

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