第110話:黒龍のヴァレンティア

別邸接客室にて。

現在目の前にフィオレント大陸のSSランク冒険者、黒龍のヴァレンティアがいる。実際に見たことは無いが特徴は知っていたので、部屋に入った瞬間わかった。

龍人希少種(黒)×覚醒者とかいうチート盛り盛りな奴なんて、この世界に一人しかいない。


ヴァレンティアは優雅に紅茶を飲む。

「ふぅ……美味いな。さすがはアインズベルクだ。大帝国の陸運を一手に担っているだけはある」

「よく知っているじゃないか」

「言うまでも無いが、冒険者にとって情報は命だからな。いつの間にか、あらゆる分野の情報を収集するのが癖になってしまったのだ」

「なるほど、職業病ってやつか」

「ああ」


その会話を皮切りに、何故か部屋に重い雰囲気が漂った。

変な空気をぶち壊すために俺は問う。

「なんで来たんだ?決闘は数ヵ月先だぞ?」

「見極めに来たのだ。お前という男をな……」

「己が戦うに値するか否か、自分の目で直接確かめに来たってわけか」

「その通りだ」


「……」

「……」


「我慢できずに来ちゃった。というわけでは無いんだな?」

「……それもある」

「まさか龍王(龍王国の王)に決闘の話を持ち掛けられた日から、ずっとソワソワしてたのか?」

「……ああ」

「そうか」


なんかグダグダ理由を並べていたが、結局我慢できずに来ちゃっただけらしい。とりあえず悪い奴じゃなくて良かった。


気まずくなってきたので、俺は話を変えた。

「そういえば龍王国の第一王子はどうなったんだ?」

「ジークフリート元王子か。奴は廃嫡され、現在牢に幽閉されている」

「廃嫡されるまでが早いな」

「奴は以前から横暴で、沢山の人々に迷惑をかけていたからな」

「前科があったのか。そりゃもう駄目だな」

「雲行きが怪しくなった途端、第一王子派閥の貴族達が一斉に第二王子派閥に鞍替えしたと聞いた」

「明らかに人望無いもんな、アイツ」

「ああ」


この世界にも悪のカリスマってのがいる。性格は終わっているが、そのカリスマ性と実力で謎に人々を魅了し、トップに成り上がる奴がな。

しかしジークなんちゃらは、残念ながらそれには当てはまらなかったようだ。


ヴァレンティアは紅茶を全て飲み干した。

「二つ聞きたいことがある」

「いいぞ」

「一つ目は転移の魔法陣についてだ。カナン大帝国では、皇族や大貴族達を中心に普及し始めていると噂で聞いたのだが、本当なのか?」


俺は転移の魔法陣を百年以内に帝国中で普及させるつもりだ。もちろん貴族だけではなく、全国民に利用してもらいたい。すでに陛下にも話をつけてある。

だから教えるくらいなら大丈夫だろう。


「本当だ。めっちゃ便利だぞ、転移は」

「ほう。単刀直入に言うが、私にも分けてもらいたい」

「ダメだ」

「そこを何とか」

「絶対駄目だ。生憎どこぞの王子のおかげで、龍王国のイメージは最悪だからな」

「別に私が個人的に使うだけだぞ?」

「お前はちょっと抜けてる所があるから失格」

「……ケチだな」


帝国内に普及させるとは言ったが、それは厳重な管理下のもとでの話だ。解析阻害の魔法陣と組み合わせ、他者に技術を奪われないようにする予定である。


「転移に関してはこれ以上議論しても意味は無い。次に移ってくれ」

「残念だが諦めよう。二つ目は“九尾”についてだ」

「最近活発に動き始めたと話題の裏組織か」

「そうだ。未だその多くが謎に包まれている組織だが、【閃光】の考えを聞きたい。それぞれの大陸の守護者としてな」


二つ目は思ったよりも真面目な話で感心した。


「そもそもどちらの大陸に本拠地を構えているのか不明だが、エルドレア大陸に構えている場合、十中八九フロレンティ連合国にあると思う」

「ふむ……。一応理由を聞いてもいいか?」

「フロレンティは簡単に説明すれば、ただの小国群だからな。それも数えるのが億劫になるほどの」

「確かに基地を隠すのにはピッタリだな」


「次は九尾の幹部についてだが、そのうちの一人は《転移》の覚醒者だと考えている。転移の魔法陣の生みの親だ」

「ほほう。組織が世界中を股に掛けている理由は、それだったか」

「そうだな」


その後ヴァレンティアの意見も色々と聞き、この話題は終了した。

メイドが菓子を持ってきてくれたので、食べながらもう少しだけ雑談することにした。


「ところでSSランクダンジョンで“火龍の卵”を回収したのは、ヴァレンティアなのか?」

「もちろん私だ。だが火龍を育てられる自信が無かった上に、王族にはいくつか借りがあったため、半ば押し付ける形で卵を献上した」

「いい判断だ」


言っちゃなんだが、ヴァレンティアは恐らく生き物を育てられるようなタイプじゃない。ましてや龍なんて絶対に無理だろう。


「その話で思い出したのだが、お前は深淵馬を手懐けているらしいな。良ければ見せてもらいたい」


一瞬だけ光探知を起動したが、エクスの反応は無かった。たぶん実家でゴロゴロしているのだろう。そのため会いに行くには、転移の魔法陣を使わなければならない。


「申し訳ないが、今日は無理だ」

「そうか……。私はしばらく帝都で活動する予定だから、また来よう」

「もう来んなよ」

「今日は世話になった。そろそろ宿屋に帰ろうと思う」


門にて。

「ではな。また来る」

「じゃあな。もう来るなよ」


実家に帰宅後、自分の部屋に向かっていると、偶然レイと出会った。

「アル兄様、お帰り~♪」

「ただいま、レイ」

「ん?」

レイは怪訝な表情をしながら俺に顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。






「どうしたんだ?」

「他の女の匂いがする!!!」

「!?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【あとがき】


いつも皆ありがと!大好きやで!

これからもよろしく!!!

\(^o^)/ \(^o^)/ \(^o^)/

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