第108話:兄貴

暇潰しに海龍素材のトリミングを手伝っていた時、兄貴が急に姿を現した。

「やぁ皆、今日もお疲れ様。アインズベルクのためにありがとう」

優男風イケメンスマイルを披露した。

造船所に爽やかな風が吹く。


それに気が付いた職人達は、すかさず挨拶をしに行く。

「常に多忙なロイド様に比べりゃぁ、大したことねぇっすよ!」

「俺らの仕事が遅くて申し訳ねぇくれぇだぜ!」

「思わぬ助っ人様のおかげで、絶賛捗り中だけどな!がはは!」


兄貴は首を傾げた。

「あれ?助っ人が来るなんて情報、報告書に書いてあったっけ……?」

なんて呟きながら職人たちに導かれ、素材加工場に足を運んだ。


するとそこには……。

刀を持った不審人物こと、俺がいた。空いている方の手を上げ、挨拶をする。

「よっ」

「いや、『よっ』じゃなくて。なんでいるのさ」

「暇だから何となく来てみた」

「なるほど、何となく来てみたんだね。助かるよ」

「おう」


兄貴は近くのベンチに座った。

「ちょっと休憩させてもらうから、各々持ち場に戻っていいよ。悪いね、集めちゃって」

「了解だぜ!おめぇら、さっさと散れぃ!」

親方が指示を出し、職人達はバラバラに散った。


たぶんアレだな。報告書に『海龍素材の加工に手間取っている』と書いてあったから、兄貴は直接様子を見に来たんだろう。

公爵家海軍の一番偉い奴がするような仕事ではないが、そこは兄貴だから、ということにしておこう。そこ兄だ、そこ兄。


「細かい箇所までランパードにやって貰えばよかったね」

「そうだな。でも、設計図が完成したのは最近だから、仕方ないと思うぞ」

「だね~」


「そういえば、飯は食ったのか?」

「それがね、まだなんだよ。実はさっきまで陛下と通話していてね。お腹ペコペコだよ」

「ほい」

俺はアイテムバッグから海鮮お好み焼きを取り出し、ベンチでだらける兄貴に手渡した。


「ハフハフ」

「熱いって言っただろ」

「香ばしい匂いを漂わせるもんだから、ついね」


兄貴がある程度食べ進めた所で、俺は問う。

「で、陛下と何を話したんだ?」

「今朝アルと話したって陛下が言っていたから、もう知っているものだと思っていたよ」

「龍王国と決闘する件か?」

「一応その関係なんだけどね。ちょっと違うよ」

「じゃあなんだよ……」


兄貴は語る。

「今までの帝龍祭は帝都にあるコロッセオで行っていたでしょ?」

「おう」

「でも今年からはオストルフ近海に浮かぶ無人島で開催することが決定したんだ」

「無理だろ」

「どうしてだい?」

「有人島ではなく無人島の時点で、コロッセオを新しく作るのではなく、島全体を戦闘フィールドにする計画なんだろ?」

「よくわかったね、流石アル」


俺は続ける。

「観客席については船を大量に集めれば解決するだろうが、それじゃ肝心の戦闘が見えないだろ。山や森が邪魔で」

「ふっふっふっふ!」

兄貴は徐に立ち上がり、怪しい笑声を上げた。


「アルよ。現在、帝都の魔導具開発チームが何を研究しているのか知っているかい?」

「知らん。また何かやってんのかアイツ等」


帝都の開発チームは転移のアクセサリーや通信の魔導具の量産を手伝ってくれた、超優秀なエリート達だ。又は俺の無茶ぶりを叶えてくれた人たち。ナイスである。

今何を研究しているのかは知らないが、魔導具狂いの集団なので、どうせ現在進行形で面白いモノでも作っているのだろう。


兄貴は満を持して言った。

「《映像》の魔導具だよ」

「映像の魔導具って…………。マジ?」

「マジマジ」


俺は一瞬焦ったが、すぐに冷静を取り戻し、口を開いた。

「なんか最近、魔法技術がハイパーインフレを引き起こしていないか?」

「その根幹にあるのは、アルの努力だけどね」

「ああ。転移の魔法陣を解析した時のやつか」

「そうだよ~」


これは開発チームから直接聞いたのだが、今までは“覚醒魔法”の魔法陣を解析し、それを再び魔導具に刻み込む技術が足りていなかったらしい。

だが俺が転移の魔法陣を解析し、魔導具に刻む用の新たな魔法陣を創る方法(というか理論)を確立したため、《通信》や《映像》の魔導具をスムーズに作成、又は量産することが可能になったらしい。


「今まで方法が分からずに足踏みしていた開発チームが、ハッスルしてるって訳か」

「そうそう。まるで水を得た魚のようにね」

「帝国の飛竜部隊を借りて上空から撮り、それをデカいスクリーンに映すんだろ?」

「アルは天才だね!その通りだよ」


そりゃ前世の記憶があるからな。


「確かにそれならいけそうだな」

「うん。でも、ここで問題が発生したんだ」

「無人島の魔物を間引きしないとだよな」

「そんな~、悪いって~」

「いや、まだやるって言ってないんだが」

「休日に友人を連れて無人島探索すればいいんじゃない?きっと楽しいよ?」

「……アリだな」


無人島探検というパワーワードは、無事俺の青春魂を揺さぶった。

「で、期限は?」

「んー。魔物の間引きをした後は、森林を削ったりしてフィールドを整えるだけだから……。一ヵ月とか?」

「わかった」

「だけど間引きしすぎると島の環境が狂うっちゃうから、ほどほどにね?」


俺は溜息を吐きながら言った。

「兄貴。決闘は俺vs黒龍のヴァレンティアだぞ?環境云々って話はひとまず置いておいた方がいい」

「……島の原型が無くなったりはしないよね?」








俺は一度星斬りを鞘にしまい、兄貴の方を見る。

「それは相手による」


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