第106話:火龍の卵について

レイの入学式から二日後の土曜日。今日は休日である。

昨日始業式があったのだが、特にこれといったイベントは無かった。しいて言えば、一・二年生の時同じSS-1クラスだったシャーロットが留学へ行った事が判明したくらいだな。


SS-1クラスに在籍する貴重な友人が一人減ってしまったのは少し悲しい。俺のボッチ化が順調に加速していくのをヒシヒシと感じる。


その関連話をさせてもらおう。実はリザードマン王子は三年のSS-1クラスだったらしい。だが奴は治療後、泣きべそをかきながら龍王国へ帰った。一体何をしに来たんだ、あの馬鹿は。


ちなみに、俺のクラスには他にも何名か留学生が混ざっていた。魔人族以外にも、珍しい種族の生徒を発見したので後々説明しよう。是非友人になって欲しい。そして、母国の冒険者ギルドや特産品の話をじっくり聞かせてもらおうじゃないか。


あと皆に言い忘れていたことがある。なんか俺生徒会に入ってた。

たぶんエドワード達の仕業だろう。

その身内ノリはちょっと面白いので良しとしよう。

基本レイが関わるイベントには、俺も参加する予定だからな。内側から(強制的に)環境を整えるのもアリだろう。


そして現在、公爵邸のダイニングで朝食をとっている最中なのだが……。

「なんでいるんですか、陛下」

「そんな厄介者のような言い方はやめて欲しいものだな。一応皇帝だぞ、余は」

しっかりと、近衛騎士団長のレオーネと副団長のカルロスも同行している。


「まぁそれは置いといて、恐らく龍王国の件ですよね?」

「そうだ」

「あの件については、陛下に申し訳ないと思ってます。でも反省はしてません」

「やり過ぎた部分もあるが、あれは全てジークフリートが悪いからな。全然よいぞ。それよりも問題なのは“火龍の卵”だ」

後ろに控えるレオーネ達もウンウンと頷いている。


陛下は続ける。

「まず初めに聞いておきたいのだが、“火龍の卵”を手に入れた後それをどうするつもりなのだ?」

「レイにプレゼントしようかなと」

「そうか。火龍を帝国内に留めてくれるのであれば別によい。レイの従魔にするのか?」

「はい。レイには一応八岐大蛇を付けてるんですけど、昔彼女が空を飛びたいって言っていたのを思い出しまして。それとSSランクの護衛が常に目を光らせておくことによって……ペラペラ」(饒舌)

「わ、わかった。もうよいぞ。それが確認できれば十分だ」


このタイミングで俺は陛下に重要な事を尋ねた。

「で、龍王国は卵の譲渡しを了承したんですか?」

「単刀直入に言わせてもらえば、かの国は一度首を縦に振った。しかしここで問題が発生した」

「王族は帝国と事を構えたくないので了承したが、国民から大ブーイングが起きている、と」

「その通りだ。このままでは大暴動が起き、卵云々では無くなるらしい。正直な話、ジークフリートの首一つで済めばいいのだが……」

「まぁ、そういう訳にもいきませんよね。天下のカナン大帝国だから『火龍が~』とか軽く話せてますけど、他国の場合普通に死活問題ですから」


暫し沈黙の時が流れる。

「……」

「陛下。朝一でここへ訪れたってことは、俺に何か頼みたい事があるんですよね?俺にしかできない何かが」

「話が早くて助かる。お主は龍王国の絶対的なルールを知ってるか?」

「強い方が偉い、ですよね。まさか……」

「ああ。龍王国が正式に決闘を申し込んできた。王曰く、それなら国民も納得するだろうと」


俺は溜息を吐いた。

「でも、それはあちらの都合でしょう。何か特典があれば決闘でも何でもしてやりますけど」

「余もそう考え、一度その要求を跳ねのけた。だが……」

「もしかして他に何か賞品が?」


陛下は一度息をつき、再び口を開いた。

「龍王国側が提示したモノは………………」

「!?」


数分後、陛下は立ち上がった。

「今日は急に訪問してしまい悪かったな。件の決闘が正式に決定した際は、また足を運ぼう」

「『今日は』って、いつも急に来るじゃないですか。あと普通に使いを送って下さい。ただここに遊びに来たいだけでしょ、陛下」

「はっはっは。ではさらばだ」

「ではな、【閃光】」

「また来ますね~」

「だから来んなって」


どこぞのヒーローのようなセリフを言い残し、泥酔面白オジサンこと皇帝陛下御一行は帰城した。


現在セレナ・ムーたん・カミラの三名は日課の冒険者活動に出ている。エクスの魔力反応も無いので、恐らく母ちゃんとショッピングにでも行っているのだろう。


レイも今日学園で開催されるパーティに参加するため、別邸で支度中だ。本当は護衛枠で俺も無理矢理参加したいが、レイだって一人の貴族令嬢としてパーティに臨むのである。その邪魔をするわけにはいかないので、大人しくお留守番する。

きちんと分を弁える系お兄ちゃんなのだ、俺は。


まぁチー君がいるから大丈夫だろう。あの八岐大蛇(SSランク)は、誰に似たのかは知らんが、いつもレイにベッタリだからな(※アルテ似)。


要するに、俺は今絶賛ボッチなのである。

「たまには兄貴に会いに行くか。巨大戦艦ヨルムンガンド建造の進捗も気になるし」


というわけで、久々に(転移で)やってきました。オストルフ。

大通りをボーっとしながら歩く。海鮮料理の香ばしい匂いが鼻を抜ける。


決闘は帝龍祭に併せて行うと思う。

わからない人のために説明しておくと、帝龍祭は毎年学園で開催される帝王祭とは全く別の闘技大会である。帝国、いや大陸最強の戦士を決める大会だ。

最近は戦争の影響で開催していないが、陛下曰く今年復活するらしい(この前言ってた)。


んで、決闘の相手はたぶんアイツだろうな。

『フィオレント大陸』のSSランク冒険者、【黒龍のヴァレンティア】。

彼女は龍人希少種×覚醒者というチートみたいなスペックを持っている、間違いなく別大陸最強の冒険者だ。

噂によると、過去に龍と死闘を繰り広げ、見事勝利を収めたらしい。

俺と同じドラゴンスレイヤーってわけだな。


これはもうフィオレント大陸代表vsエルドレア大陸代表みたいなもんだろう。自分で言うのもなんだが、世界中継していいレベル。


あと余談だが、火龍の卵は予想通りSSランクダンジョンの魔宝箱から手に入れたもので、現在も魔宝箱の中にて厳重に保管しているらしい。

そのため決闘が終わり、箱から出すまでは卵の時間は停止している。

いつの間にか孵化してました。みたいな事にはならないってことだ。

そもそも本当に火龍のモノなのかも怪しい。


帝龍祭は数ヶ月後なので、実は時間にはまだ大分余裕がある。

「だからといって、別に何をするわけでもないんだけどな」






「帰ったらムーたんの秘密基地でも増設するか」


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