第105話:エドワードの企み

 レイ達を見送った後、俺達三人は解散する筈だった。なぜなら始業式は明日であり、今日俺はレイの付き添いで学園へ足を運んだだけだからだ。


普通に帰宅しようと考えていた時、リリーが不意に口を開いた。

「ねぇねぇ。久しぶりに三人で集まったんだし、三年生の校舎まで歩かない?」

「いいな、それ!俺は賛成だ!」

「別に明日で良くないか?」

「あんたケチね!そんなんじゃモテないわよ?」

「そうだぞ、アルテ。ノリが悪い男は嫌われるぞ!」

「……じゃあちょっとだけな」


という訳で、俺達は校舎へ向かうことになった。


帝立魔法騎士学園は大陸一の学園と言っても過言ではない。学園の所有する広大な敷地内には、様々な施設や設備が揃っている。訓練場・図書館・研究所・大食堂・学生寮はもちろんの事、喫茶店や文房具店なども存在する。

ちなみに俺が利用したことがあるのは、訓練場・図書館・大食堂の三つだ。


要するに、三人で敷地内を練り歩くだけで結構絵になるのである。

それは輝かしい青春の一ページを十分飾れる程に。


風景と雑談を楽しみながら歩みを進めていると、“偶然”オリビアに出会った。


「あら。三人とも久しぶりね」

「あ、オリビア!会えて嬉しいわ!」

「メンバーが四人も揃うなんて運が良いな、俺達は!」

「久しぶりだな」


なぜ授業の無い日に、オリビアがいるんだ。

ルーカスとリリーの反応も白々しいし、なんか嫌な予感がする。


「オリビアも一緒に歩こうぜ!」

「そうね。せっかくだし御一緒しようかしら」


前世のRPGゲーム内であるような会話を交え、俺はモヤモヤしつつ校舎へ向かった。


俺はオリビアに聞く。

「今日はいないんだな。あのシスコン君は」

「フィルはSSランク冒険者を目指して、毎日奮闘しているみたい。今日も朝から帝都の冒険者ギルドに向かったわ。これも貴方の影響よ?アルテ」

「そうか」

「あんたがシスコンって言うんじゃないわよ……」

「特大ブーメランが心臓に突き刺さってるぞ、アルテ」


和気藹々とした雰囲気のまま、目的地へ到着。

「ここが三年の校舎か。一、二年生のモノより若干大きいな」

「では中も見ましょうか」

「設備の確認をしないとね!」

「今後アルテが迷子にならないように下見しようぜ!」

「え、中は別に……」


結局俺は大人しく足を踏み入れた。

階段を上り、三階の廊下を左へ真っすぐ進む。

この先は行き止まりなのだが、三人の足は止まらない。


ついに俺は切り出した。

「なぁ、そろそろ帰らないか?」


それを聞いた三人は怪しい笑みを浮かべ、俺をガッシリと掴んだ。

「もう逃がさないわよ~」

「ここまで来たのが運の尽きよ。もう諦めなさいな」

「ほらアルテ。さっさと足を動かせ!」


無理に振り払う訳にもいかないので、俺はコアラを三匹引っ付けたまま突き当りの教室に入る。

すると、生徒会長であるエドワードが室内で待ち構えていた。

「アルテ君、ようこそ生徒会へ!!!我々一同歓迎するよ!!!」

「……」


そしてエドワードも怪しく微笑みながら、生徒会の入部届を渡してきた。

「ほら、空欄は全て僕が埋めておいたからさ。君はここにサインするだけでいいんだ」

「アルテ。早くサインなさい」

「サインするまで教室から出さないわよ!」

「俺達の物語はここから始まるんだぜ、アルテ」


袋の鼠とは、まさにこの事である。

俺は溜息を吐いた。

「はぁ。アイテムバッグからペンを出すから、ちょっと待ってくれ」

「アルテ君ならそう言ってくれると信じていたよ。ふっふっふ」


俺はアイテムバッグからペンではなく、“別のモノ”を取り出した。

それに気が付いたリリーが叫ぶ。

「エドワード!アルテを止めなさい!」


視界が教室から果樹園へ、一瞬で切り替わった。

俺は転移のアクセサリーをバッグにしまい、目の前でゴロゴロしている馬カップルに声を掛ける。

「ようエクス。今日も絶好調だな」

「ブルルル」

「カミラも、元気そうで何よりだ」

「ブルブル」


セレナとムーたんは外出しているようだな。

少し疲れたので、俺もエクスの腹に背を預け、そっと両目を閉じた。



「そういえば、アルテはいつでも転移できるんだった……」

「惜しかったわね。途中までは良かったんだけど」

「チッ。その手があったとはね」

「流石SSランク冒険者だぜ。考えることがセコい」


「もう勝手に書いちゃっていいかな?サイン」

「私は賛成よ。一応ここ(生徒会室)まで来たのだから、後はどうとでも言い訳できるわ」

「アルテがブツブツ文句言い始めたら、レイちゃんに報告しましょう。どうせすぐに黙るわよ、アイツ」

「前門の生徒会、後門のレイちゃんだな」


「確かアルテって、今年は毎日通学するんだよね?」

「去年の期末試験前にそんな感じのことを言っていた記憶があるわ」

「俺の輝かしい青春が~とか、変な事言っていたわよ。あのシスコン」

「アルテは友達が極端に少ないから、どうせずっと俺達と行動するだろ?だからもう、半分生徒会みたいなもんだよな!」


「よし、勝手にサイン書いちゃお!アルテ・フォン・アインズベルク……っと」



その日の夜、公爵邸の風呂場にて。

俺は浴槽にドップリと浸かりながら呟く。

「ふぅ。今日は災難だったな」


変な王子(名前は忘れた)には絡まれるし、エドワード達にも危うく嵌められそうになった。

だが入学式でレイのスピーチが聞けたので俺は大満足である。


「まぁ生徒会は四人で頑張ってくれ。俺は高みの見物を決めさせてもらおうじゃないか。くっくっく……」(※彼も生徒会の一員です)



ジーーーーーーーーーーー。

「ハァハァ……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る