第104話:レイの入学式④

「……共に、素晴らしい学園生活を送りましょう。新入生代表、レイ・フォン・アインズベルク」


パチパチパチ。

「あんなに小さかった妹が……。大きくなったな、レイ……」

「レイちゃんはしっかりしているわよね。どこかの誰かさんと違って」

「アルテと本当に血が繋がっているのか、怪しく思えてきたぜ!」


まだレイがおチビの頃から面倒を見てきた俺にとって、この新入生代表挨拶は非常に心に刺さるモノであった。さすがの俺も涙ちょちょぎれだ。


レイはステージから下り俺達の方へトコトコ戻ってきた。可愛い。天使である。

彼女は漸く肩の荷が下りた様で、大きく息を吐いた。

「ふーっ。緊張したぁ」

「良かったぞ、レイ。控えめに言って大感動した」

「頑張って練習した甲斐があったよ!」

「内容が記してある、その紙は家宝にしよう」

「恥ずかしいからやめてよぉ……」


「レイちゃんの事が絡むと頭が正常に回らなくなる病気、まだ治らないのかしら」

「シスコンっていう自覚が無いってのが、これまたヤバい」

「ある意味本物よね。逆に清々しいわ」

「イケメンだから良かったけど、そうじゃなかったら結構痛いよな」

「痛いとかそういうレベルじゃないわ。激キモよ、激キモ」

「親友の俺でも、これだけは擁護できない……」


リリーとルーカスが横で何か言っているが、まぁいいだろう。

ちなみに俺はシスコンではない。←(※本当に自覚無し)


この後レイがお茶会メンバーと共に一年のSS-1クラスに向かうため、俺達は会場の入り口付近で別れた。

レイが新入生代表挨拶をした時点で察したかもしれんが、彼女は入学試験で一位だった。帝立魔法騎士学園は毎年三万人が受験し、上位千名が入学できる。要するに、三万人のトップに輝いたのである。俺大歓喜。

また頭脳明晰なだけでなく、容姿・性格・魔法・家柄・お兄・名声の全てがトップオブトップなのだ。もはや才色兼備という言葉では収まりきらない存在である。確実に帝国の歴史に名を残すだろう。


「あんたニヤニヤしている場合じゃないでしょ」

「そうそう。さっき龍王国第一王子をメッタ打ちにしたんだぞ?忘れてそうだけど」

「ああ、あったなそんなこと。でも大丈夫だ。きっと陛下がどうにかしてくれる」

「皇帝陛下は何でも屋さんじゃないのよ……」

「確かにアルテの生い立ちを考えれば、叔父さん的なポジションだもんな。皇帝陛下」

「ああ。泥酔面白オジサンだ」


俺はずっと気になっていたことを二人に問いかける。

「なぁ、それよりも何で“火龍の”卵だってわかったんだろうな。まだ孵化してないのに」

「あー、言われてみれば。何故分かったのかしらね」

「シンプルに卵が赤いからとかじゃないのか?」

「……絶対それだわ」

「……絶対それね」


そもそも龍自体が非常に貴重な存在であり、その生態の多くは今も謎に包まれている。なのにも拘わらず、何故火龍のモノだと断定できたのか、ずっと不思議に思っていたのだ。

SSランクの龍が赤ん坊の頃から異次元な魔力量を誇るであろうことは、想像に難くない。恐らく現在も件の卵から多大な魔力が漏れ出していることだろう。だから龍だと断定するのは理解できるが、さすがに属性までは分からないはず。


まずどこで手に入れたのか考えてみよう。

ダンジョン内に住まう親火龍から奪ったという線は薄い。てか絶対にない。強奪した場合、ダンジョンをぶっ壊して地の果てまで追いかけてくるからな。地上に住まう龍なら尚更だ。


以前俺はダンジョンで手に入れた可能性が高いと説明したが、実はそれは龍から奪ったのではなく『魔宝箱』から出てきたという意味で言ったのだ。


魔宝箱とはこの世界恒例の、おとぎ話に出てくるアレだ。

宝箱の上位互換であるアイテムボックス型の宝箱のことである。

俺はまだダンジョンで宝箱自体拾ったことが無いが、拾った経験のある冒険者をチラホラ知っている。


中身は主に古代の武器や魔導具、ポーションなどだ。通常の宝箱でこうなのだから、伝説の魔宝箱であれば、龍の卵くらい入ってそうだろう?


え?伝説を信じるのなんて馬鹿らしいって?


念のため言っておくが、星斬りだって伝説の魔剣だし、エクスだって伝説の魔物『スレイプニル』だ。俺の行使する神話級魔法や、光の精霊的なチー君だって近い未来、どうせ伝説として語り継がれることになる。もちろんレイだって女神として……(長いので省略)。


以上の見解を二人にまとめて説明した。

「……って思わないか?」

「『魔宝箱』ねぇ。一応話の辻褄は合うけど、ぶっちゃけ信じがたいわ。でも……」

「ああ。近くにもっと信じがたい奴がいるからなぁ」

「卒業したら、皆でSSランクダンジョンに行くか」

「行かないわよ!馬鹿!」

「俺も遠慮するぜ!」


長くなったが、俺の言いたいことはただ一つ。

レイにプレゼントする卵は、ワンチャン火龍のモノじゃない可能性がある。



その頃、帝城では。


「陛下。少しお耳に挟んで頂きたい事がありまして」

「おお、ニコラスか。どうかしたのか?」

「またアルテ様がやらかしました」

「……具体的には?」

「龍王国第一王子【ジークフリート・ノア・ドラゴニア】の四肢、角、翼、尻尾を切断後、腹部を蹴り飛ばしたそうです」

「えぇ……。生きているのか?」

「一応一命は取り留めたそうです。四肢と尻尾は繋がった様ですが、角と翼は残念ながら……」

「龍人族的に、最も駄目なタイプの取り留め方ではないか……」

「はい。例の魔物と類似してしまう形のアレですね」


「しかしだな、【閃光】が激情に駆られるなど普通では考えられんぞ。何をしでかしたのだ、その馬鹿王子は」

「妹君の入学式に出席するため学園へ足を運んだアルテ様に、決闘を申し込んだらしいです」

「内容は?」

「王子が勝利した場合、妹君を妾に寄越せと」

「【閃光】が憤慨するわけだ。奴は稀代のシスコンとして有名だからな」

「アインズベルク卿の耳に届く前に、どうにか事態を収拾しなければ……。あの御方もかなりの親バカですので」

「ニコラス。この事案を頼んでもよいか?何かあれば余が出よう」

「はっ。お任せを」






「そういえば、王子は何を賭けたのだ?【閃光】は『龍紋』を持っている故、もう冗談では済ませられんぞ」

「最近龍王国で話題沸騰中の“火龍の卵”だそうです」

「………………は?」

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