第103話:レイの入学式③
「てなわけで、そろそろ始めようか。国同士の威信を賭けた戦いを」
俺が龍王国の宝である“火龍の卵”と【龍紋】の話を切り出してから、奴は急激に焦り始めた。だが少しずつ冷静を取り戻し、ようやく口を開いた。
「我が敗北する事など、万に一つも無い。手加減はできないからな。もし死んでも恨んでくれるなよ?」
「わかったから、さっさと始めるぞ。お前が動き出したら開始な」
「き、貴様……!」
その言葉に被せる様に、レイや友人達から黄色い声援が飛ぶ。
「アル兄様頑張れー!!!」
「アルテ、相手殺しちゃダメだぞー!」
「あんた、【星斬り】もちゃんと使って上げなさいよー!」
俺達は広場の真ん中で睨み合う。通常は審判が必要なのだが、もしいた場合、途中でストップを掛けそうだから、あえて審判無しで進めることにした(天才)。
王子は背中に掛けていたハルバードを手に取り構えた。怪力を売りにしている龍人族達に割とポピュラーな武器である。
しかし俺はまだ星斬りを抜刀しない。
「いくぞ」
ジークフリートは前傾姿勢のまま身体強化を起動し、地を蹴った。
〈風〉魔法を自身の背に放ち、翼を大きく広げ、地面を滑るように突進してきた。よく見れば足が浮いているから、あれはほぼ低空飛行だな。
俺はまだ一歩も動いていない。それを確認した王子は、俺が反応できていないと思い込んでいるようで、ニヤリと笑う。
王子はハルバードを振りかぶり、大層な名前の技を放ってきた。
「喰らえ!【王伝:翔龍覇斬(ショウリュウハザン)】!」
俺はそれを片手で軽く掴み取った。衝撃で砂埃が舞う。
王子は驚愕し、両目を見開いた。
「な、なに!?」
しかしすぐに表情を切り替えた。
「くっ……」
力任せに押し込もうとしてくるが、俺はビクリともしない。
そして……。
バリィンッ。
そのままハルバードの斧刃を、握力だけで割った。
「は?」
王子は一度後退し、焦りつつも体勢を整える。
「貴様ぁ!一体何の魔法を使ったのだ!」
「別に魔法は使ってないぞ」
「この我に虚言を吐くつもりか……!」
俺は今まで数多の強者を屠ってきた。
その中には《音》魔法の覚醒者や剣仙ローガンなど、人の枠組みを超えた本物の実力者達も混ざっている。
さらには彼女等を軽く超えるSSランクの地龍タイラントや、実質SSSランクともいえる海龍ヨルムンガンドとも死闘を繰り返し、全て勝利を収めてきた。
何が言いたいのかというと、要するに俺は魔法を使わなくても、結構強いのである。
素の状態でも、生物の枠組みを超えた化け物達と十分渡り合えるくらいの実力を備えている。魔法や剣術と共に、俺の肉体も日々進化を続けているのだ。
ちなみに目の前の王子は、俺が今まで殺り合ってきた者達の足元にも及ばない、ただのカスである。まぁ態度だけはデカいがな。
「ああ。そういえば龍人にとって、角とか羽は重要らしいな」
「その通りだ。この美しく強靭な角や翼は、古くから我らの誇りとして……」
俺は一瞬で接近し、二本の角と羽をもぎ取る。そして、元の位置まで戻った。やはり視認できていないようだな。魔法すら使っていないこの俺を。
王子は頭と背に激痛が走ったようで、みっともなく叫ぶ。
「……え?ウワァァァアア!!!」
また痛みに悶えつつも、気が付いたようだ。
「そ、それは我の……!」
俺は優しく微笑み、龍人族が最も嫌がる誹謗をする。
「その姿、まるでリザードマンだな」
尻尾を残した理由がそれだ。
「は?リ、リザードマン?……き、貴様ぁあぁぁあああぁあぁぁ!!!」
「井の中の蜥蜴」
「もう許さんぞ!!!絶対に殺してやる!!!」
王子はそのままギャラリーの方へ顔を向け、唾を汚く飛ばしながら叫んだ。
「これが終われば、貴様らも皆殺しだ!!!醜い人間どもめ!!!」
もう激痛と怒りで頭がおかしくなっているようだな。
まぁそれよりも……。
「今レイ達の事を醜いって言ったな?」
「五月蠅いぞ、さっさと死ねぇ!」
「本物の技を見せてやる」
俺は文字通り、ジークフリートの目にも止まらぬ速さで接近する。
星斬りを抜刀し、呟いた。
【真閃流奥義-彗星斬り】
鋭い太刀筋でハルバードを縦に真っ二つにした。
それだけでは終わらない。
尻尾と四肢を切断する。
「ギャァァァァァ!!!」
「第一王子様!」
「ジークフリート様!」
「もう終了だ!殿下が死んでしまう!」
ここで取り巻き連中が騒ぎながら試合に乱入しようとしたが、ひと睨みで黙らせ、足を動けなくさせた。海龍ヨルムンガンドの魔眼の如く。
そのまま、地に転がる蜥蜴を片足で蹴り飛ばす。
すると血を撒き散らしながら広場の壁に激突した。
そして縦半分に割れたハルバードを拾い上げ、投擲の構えをとった刹那。
「お兄ちゃん!!!ストップ!!!!!」
俺はハルバードを地面に突き刺し、そこで追撃を止めた。
「……レイが優しくて良かったな。試合終了だ」
その言葉を聞いた取り巻き連中が必死に王子に駆け寄る。
また騒ぎを聞きつけた教師があらかじめ呼んでいた医療班も、少し遅れて王子の下へ向かった。
「医療班急げ!もし治療が遅れれば、マズいことになるぞ!」
俺は血濡れた姿のまま、皆の側まで歩みを進める。
皆空気を読み黙っているのか、それとも普通にビビっているのかはわからんが、非常に重い空気が流れる。
ゴクリ……。
現場が戦々恐々とする中、俺はようやく口を開いた。
「レイ……。もう一度“お兄ちゃん”って呼んでくれないか?」
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