第3部〈青春の物語〉

第8章【留学生編】

第101話:レイの入学式①

(※書籍化に合わせ、101話から書式を若干変更致します。申し訳ございません)

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 帝立魔法騎士学園の正門に、一台の巨大な馬車が停まった。その馬車が掲げるのは、世界中にその名を轟かせるアインズベルク公爵家の紋章。また、それを引くのは伝説の黒馬。門付近がザワザワと騒がしくなる。


停車後すぐ扉が開き、地に天使が舞い降りた。


春の爽やかな風が彼女の黒髪を揺らす。同時に優しい日差しが煌びやかに反射する。比較的童顔で、人々には天真爛漫な印象を与える。だがその瞳はどこか儚げで、華奢で、守ってあげたくなるように感じさせる、絶世の美少女(大天使)。


一歩歩けば生徒たちの視線を釘付けにし、さらにもう一歩歩けば、モーセの十戒の如く道が開ける。


彼女の名は【レイ・フォン・アインズベルク】。アインズベルク公爵家長女で、世にも珍しい全属性魔法の使い手である。

地位・名声・実力もさることながら、その美しさで周囲を魅了し続ける、まさに傾国の美少女(女神)。


文字通り彼女の声一つで、国の一つや二つくらい瞬く間に地図から消滅するだろう(誰がやるとは言ってない)。

そんな彼女は今日、記念すべき入学式を迎える。

そしてレイの隣には、ある男が立っていた。


彼女の立派なお兄ちゃんこと、俺である。


「チッ。うちのレイをジロジロと見やがって……」

「皆アル兄様を見てるんだと思うよ?今回の戦争でも大活躍だったし!」

「いや、皆きっとレイに見惚れている」

「いやいや、絶対お兄様に……」


仲良く会話しながら会場まで向かっていると、とある五人組がこちらに手を振っていることに気が付いた。

「レイー!こっち、こっちー!」


レイも気が付き、手を振り返す。

「みんなー!久しぶりー!」


レイのお茶会仲間たちである。

一人目がパリギス子爵家長女の【ステラ・パリギス】で、二人目がカムリア男爵家三女の【エア・カムリア】。もちろん、ルーカスとリリーも同伴している。

そして三人目は……誰だ、コイツは。まぁいいか。お茶会メンバーAと呼ぼう。


レイはお茶会のメンバー達と挨拶を交わした。

「レイ久しぶり!待ってたわよ!」

「貴方、今日張りきっているわね。いつも以上に美しいわ」

「やあ。僕は君とずっと会えるのを楽しみにしていたんだ」

「三人とも久しぶり!待っててくれてありがと~」


俺もルーカスとリリーと会うのは久しぶりなので、会話に花を咲かせる。

「アルテ久しぶりだな!聞いたぜ、戦争の事」

「アンタ凄い活躍したんだってね!今度話聞かせてよ!」

「おう。俺今年はちゃんと通学する予定だからな。じっくり聞かせてやる」


その後、レイがこの二人に挨拶をし、ステラとエアも俺に挨拶をした。一応俺達は先輩だからな。


そしてお茶会メンバーAの挨拶が始まった。

「【閃光】様、お久しぶりです。あの時は不躾に手合わせを懇請して申し訳ありませんでした。あれからも研鑽を続けていますが、僕の実力はまだ若輩の域を出ておりません。しかし、いつかは貴方様の領域に達してみせます!あと、両親伝手に戦争でのご活躍を聞きました。やはり僕の目指す……」

「……」

「ど、どうなされました?」

「長々と語ってくれている途中に悪いんだが、お前誰だっけ」

「えっ」


俺以外の六人が、ポカーンとした表情をした。


お茶会メンバーAが恥ずかしさで顔を赤く染めながら、再び口を開く。

「グリマドール伯爵家長男の【オスロ・グリマドール】ですよ!本当に僕を覚えていないなんて……」

「まぁよろしく。そろそろ行こう皆」

「えぇ……」


すると二人が、コソコソと話しかけてきた。

「なぁアルテ、流石に可哀想じゃないか?」

「アンタ相変わらず物覚えが悪いわね……」

「でも魔物の種類には結構詳しいぞ」(ドヤ)


リリーが呆れつつ、額に手を当てながら呟いた。

「そういうことじゃないんだけどね……」


全員で会場に向かっていると、チラホラと珍しい種族の生徒を見かけた。

「アル兄様。陛下の仰っていた通り、別の大陸から留学生が来てるね」

「ああ。あれが龍人族の生徒で、あっちが魔人族の生徒だな」

「皆角と羽が生えてるね。あっ、尻尾も生えてる!可愛い~」

「そうだな」


今紹介した二種族は、基本的に角と羽が生えている。それに加え、龍人族には尻尾が生えており、いかにも龍って感じの見た目だ。

魔人族は鳥のような翼を生やしており、龍人族はワイバーンっぽい羽を生やしている。本人たちに聞かれたら怒られそうだけど、まぁそんな感じ。


レイは彼等に興味津々な様子。

「空とか飛べるのかなぁ」

「いや、身体の構造上飛べないらしいぞ。でも滑空くらいならできそうだよな?」

「だね~。お友達になりたいな」

「陛下曰く、学年ごとに三、四十人は留学してくるらしいからな。きっと友達になれるさ」


そういえば、皆に言い忘れたことがある。

龍人族は主にフィジカルに長けており、肉弾戦に強い。

魔人族はエルフと同じくらい魔力量が多く、魔法戦に向いている。

また両者長寿なので、種族としてはかなり完成されている。


だがこの二種族は他種族と比べ、大きく異なる点が一つだけある。それは実力重視ということだ。要するに強い方が偉いという、単純にして明快なルールを重んじている。


そしてここからが問題なのだが、困った事にこいつ等は……。


「おい。そこのお前、待つがいい。貴様が噂に聞く【閃光】だな?」

「そうだが、どうした」

「人間にしては、ちょっとはやるようだな。だが龍王国の第一王子である、この【ジークフリート・ノア・ドラゴニア】の敵ではない。我が少々揉んでやろう。どうやらこの大陸で持て囃されているようだが、貴様が井の中の蛙だということを教えてやる」


このように、めちゃくちゃ好戦的なのである。



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