第100話:終戦
ヨルムンガンドとの死闘後、俺は転移でリヴァイアサンに無事帰還できた。また海龍の死体は、沈む前にすぐにエリザが氷漬けにして、リヴァイアサンと紐で繋ぎ持って帰ることに成功したので安心してほしい。ヨルムンガンドを閉じ込めていても、氷部分の体積が大きく平均密度が小さくなるので、海水に浮くのである。
のじゃロリババア万歳。
余談だが、ランパード兵達は戦いを最後まで見届けてくれたらしい。海が大荒れだったのでそれどころではないと思っていたが、柵や魔導大砲にしがみつきながら必死に応援してくれたと聞いた。
そのため帰還後、俺は今まで以上に丁寧に扱われた。別にいいのに。
それから一週間後、俺は実家の庭で日向ぼっこしていた。もちろんエクスというクッション付きで。
「そういえば、エクスのおかげで雷との相性が抜群に良くなってたわ。サンキューな」
「ブルルル」
ヨルムンガンドはまだ氷漬けにしており、戦争が終わり次第解体を始め、素材をオストルフのアインズベルク公爵海軍本部に送ってもらう予定だ。
では戦争の話をしよう。
まずカリオス教皇国に関してだが、現在親父率いる帝国軍が端から制圧中だ。帝国軍以外にも帝国側の同盟国軍が参加しており、多方面から崩している。
教皇国側の同盟国は既に白旗を上げているのにも関わらず、あの国は一般市民を徴兵し、未だに抵抗しているようだ。
さっさと諦めて土地を寄越せアホ共。
聞いた話だと教皇国の広大な土地は、帝国と帝国の同盟国で分け合うらしいからな。
次はアルメリア連邦についてだ。
あの国は今絶賛革命中で、穏健派筆頭のダント・バスター率いる革命軍が、強硬派の貴族領を潰して回っている。ダントという男は、陛下曰く代々帝国と関わりのあるバスター公爵家(元)の当主なので、任せて大丈夫だろう。
ちなみに、帝国軍も目立たないよう裏で暗躍している。なぜ暗躍しているのかというと、連邦は教皇国と違って帝国の属国になる予定だからである。余計なヘイトを積むと、支障が出てしまうのだ。
え?ずっと警戒していた連邦の隠し玉はどうしたんだって?
それは俺が聞きたいくらいだ(逆ギレ)。
しいて言うなら、≪転移≫の覚醒者も連邦を捨てて姿を消したので、奴も関わってると考えている。
と、そこへケイルが来た。
「アル様。諜報部から資料が送られてきましたよ」
「おう。すぐ確認する」
その内容は、三つ巴の大陸戦争による混乱に乗じて、とある巨大組織が幅を利かせ始めたというもの。その組織の名は。
「犯罪組織【九尾】ねぇ……」
軍に精通した者であれば、誰もが一度は聞いたことのある名前だ。このエルドレア大陸だけでなく、別の大陸にも勢力を伸ばしている組織である。
九人の幹部を中心に活動をしていることまでは判明しているが、それ以外の情報がまったく掴めない謎の組織。構成員の数も不明で、本拠地も不明。
巨大組織と言われているのは、活動範囲が馬鹿みたいに広いから、どうせ人数も沢山いるのだろうと推測されているだけだ。
「尻尾が沢山あるなら一本ぐらい掴ませてくれてもいいのにな」
「ブルル」
≪転移≫の覚醒者が連邦を捨てたタイミングで、今まで息を潜めていた犯罪組織の動きが活発になり始めた…と。これは怪しい匂いがするぞ。
「でも犯罪組織ってのは、一概に悪とは言い切れないんだよな」
この世の中、権力と金に物を言わせ、好き勝手に振る舞う貴族ってのがわんさかいる。もちろん、被害を受けるのは一般市民達だ。
例えばの話だが、自分が一般市民だと仮定し、どこかの貴族から理不尽で残酷な仕打ちを受けたとしよう。復讐がしたくても、相手は権力で守られている。
その時に己の希望となるのが、この犯罪組織である。
犯罪組織とは言ったものの、アイツ等は金さえ払えば暗殺でもゴミ拾いでも何でもやるからな。
「このまま生活していれば、どこかで連中とぶつかる可能性も十分あるな」
俺は頭をポリポリ掻きながら、結論を出した。
「まぁ、もしそうなったら、その時考えればいいか」
とりあえず、無事に戦争が終わることを願おう。ゴロゴロしながら。
その日からさらに一ヵ月と少しが経過した。
三つ巴の大戦争は幕を閉じ、帝国上層部は現在戦後処理に奔走している。陛下が昨日、酒を飲みながら大変だと愚痴っていた。ドンマイ陛下。
九尾についてもまだ情報は集まっていないらしい。逆にそれを考えると、九尾に≪転移≫持ちが所属しているという俺の予想は合ってそうだな。アイツは情報戦のプロだし。
そんなこんなで今俺は、帝都アデルハイドにある公爵家別荘にいる。
「アル様。ついにこの日がやってきましたな」
「ああ。ソワソワしてきた」
そう。今日は待ちに待った、レイ(天使)の入学式なのである。この俺が行かない訳がないだろう。ちなみにエドワードが新生徒会長として、代表挨拶をする。
そして、ドアがゆっくりと開いた。
ガチャリ
「アル兄様……ど、どうかな。似合ってる?」
制服を着用したレイ(女神)が登場し、頬を赤く染めながら上目遣いで俺に感想を求めてきた。あまりの破壊力に悶絶しそうだが、俺は息を整え口を開いた。
「最高だぞ、レイ」
「よかったぁ」
「よしケイル。馬車を準備してくれ」
レイはきっと入学式で、数多の人々の視線を釘付けにするだろう。女子生徒は許してやる。だが男共よ、お前達はダメだ。全員の目を光で潰してやる。この世で最も有意義な固有魔法の利用方法である。
俺は魔力を貯めつつレイをエスコートし、馬車で学園へ向かった。
「駆逐してやる。レイの前から、一匹残らず……」
「お兄様、顔が怖いよ?どうしたの?」
「いや、入学式が楽しみだなって」
「私も楽しみ!!!」
さらに物語は続く。
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