第99話:ラグナロク

 現在遠くの海上でヨルムンガンドが無防備な体勢で浮いている。

『光速思考』でじっくりと考えよう。

最適解は、このまま【閃光鎧】で突っ込み敵の弱点を攻撃する事だ。世の中に完璧な生物など存在しない。だから相手にも弱点はあるのだ。


相手が龍なら例えば、逆鱗がそれに当たる。

それをぶん殴るか、【星斬り】で斬ることができれば、そこそこのダメージが与えられるはず。


しかし、アイツは今恐らく俺を誘い込んでいる。いくら熱に弱いと言っても、地龍に効かなかった【天照】が、それ以上の装甲を誇る海龍にそこまで効くとは思えない。

でもこのチャンスを不意にはできないので、結局はその作戦しかない。


俺は海面を走り、再び接近を試みる。

海龍も巨大水弾や水柱を放ってくるが、もう全て見切れる。

SFアクションの如く、海面を移動する。

音速を超えるスピードで距離を縮め、俺も空中に跳び出た。


あと少しで攻撃を与えることができる。接近するにつれて、己の五感が研ぎ澄まされていく。


だが……。


「!?」


猛スピードで空中を進んでいたはずなのに、途中でピタリと停止してしまった。


ふと海龍を見ると、赤く光る両目で俺を凝視していた。

俺はアレを知っている。魔剣と同様に絵本などで出てくる、もはや伝説級の魔法。動いている敵を停止させることができるチート技。


そう、魔眼である。


噂では実力差が離れていると、ひと睨みで命を奪うことができるほど強力らしい。アイツと俺は同等なので停止させられただけだが、かなりマズい。


何故なら、俺は空を飛べないからである。空中で停止させられてしまったら、もう自由落下するしかないのだ。


そして、海龍がこの一瞬を見逃す筈も無く。

今までとは明らかに威力が違う水柱が海面から放たれ、俺は盛大に上空へ打ち上げられてしまった。


雷雲の上まで飛ばされ、太陽光が俺を照らす。一応魔力を充電しておこう。


「お前かよ、魔眼持ってたの……」


魔剣も存在するのだから、魔眼も存在するとは思っていた。だが、まさかアイツが持っているとはな。一本取られた気分である。


『光速思考』を起動し、考える。

このまま転移で一度リヴァイアサンまで帰ることはできなくもないが、アイツがヘイトを戦艦に向ける可能性が高いので却下である。


雷雲の下に落下すれば、海龍は大口を開けて海面から超特大ブレスを放ってくるだろう。自由落下している俺にそれを当てるのは、赤子の手を捻るよりも簡単な事。


では冒険者らしく、正々堂々迎え撃つしかない。


前回(地龍戦)の【絢爛の光芒】は宇宙へ向けて、だったので放つことが可能だったが、今回は下に向けて放つので周りの影響を考慮しなければならない。


「また命がけで魔法を行使することになるとはな……」


実は地龍と戦った後、最強の光である『ガンマ線』をどうすれば実用的な魔法にできるのか沢山研究したのだ。

魔法とは、己と距離が離れれば離れる程、制御が難しくなるモノ。それを考慮して、俺が出した結論がコレ。


〈じゃあ、俺自身が魔法になればよくね?〉


である。

俺を中心に魔法を展開すれば、放った後にガンマ線を上手く霧散させることができるのではないかと考えた訳だな。


問題は、俺がガンマ線の圧力に耐えきれるかどうか。せめて、魔法の中心を担える、コアのような存在がもう一つあればいいのだが……。


その時、星斬りから俺に魔力が送られてきた。まるで返事をする様に。


「一緒にやってくれるのか?」

『当たり前じゃないの!この馬鹿アルテ!』


瞬間、俺は星斬りを鞘のまま握りしめ、胸に抱えた。

光速思考と閃光鎧を全力で起動し、魔法の範囲を半径二百メートルに限定させる。


俺と星斬りを中心に、巨大な光球が出来上がった。

中では【閃光】の魔力が原子レベルでぶつかり合い、少しずつガンマ線に変換されていく。


「ぐっ……」


温度が上がり、身体が端から焦げていく。圧力も徐々に高まり、押し潰されていくのが分かる。己の魔法だからギリギリ耐えきれるものの、星斬りが無かったらマジでヤバかった。


星斬りも荒い魔力を放出し始めた。きっと苦しいのだろう。すまない。


数秒間、耐えに耐え、魔法が完成した。

後は下で構えるヨルムンガンドに叩きつけるだけ。


俺と星斬りを中心に展開した巨大光球は雷雲を突き抜けた。雷が呼応し、魔法の周りにビリビリと纏わりつく。いつもエクスとじゃれているおかげで、雷との親和性が高くなっているのかもしれないな。


「グォォォォォォ!!!!!!」


叫び声と共に、ヨルムンガンドが特大ブレスを放った。それだけではなく、海面から数千、数万の水弾や水槍、水柱などが放たれる。魔法で造られた海龍の分身も十体以上突進してきている。


海龍云々ではなく、「海」そのものと戦っている気分だ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


その攻撃で魔法の制御が乱されるが、何とか耐えた。


そして。


「じゃあな。魔物の王」


雷を纏った巨大光球は、ヨルムンガンドに直撃し、その身を焼き尽くした。


ゴゴゴゴゴゴ


衝撃で世界が揺れる。


海龍の生命の息吹が途絶えたと確信した瞬間、魔法を解き、ガンマ線を深海に上手く分散させた。


「よし、成功だ」


海龍の素材には価値があるからな。消滅する前に寸止めできてよかった。


「ありがとな。星斬り」


魔法が成功したのは、紛れもなく星斬りのおかげ。

この神話級の魔法を何と名付けようか。

天から放たれ、ヨルムンガンドを沈めた、雷を纏う≪光≫魔法。これしかないな。


北欧神話でヨルムンガンドを倒した雷神トールの愛武器。


【雷閃鎚(ミョルニル)】





俺は海中に沈みながら、転移のアクセサリーを握りしめた。



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