第98話:ヨルムンガンド
(※レヴィアタン→ヨルムンガンドに変更致しました。すみません)
現在俺は、偶然流れ着いた敵戦艦の破片の上に乗り、海中の様子を窺っている。ヨルムンガンドの頭をぶん殴ったはいいモノの、ビビッて海面付近に浮上して来なくなってしまったのだ。深海ニートである。
もちろん『光探知』を起動しているが、空気中と違い、海中には光が届きにくい。
水深七十メートルに届く光量は、地上の約千分の一。水深二百メートル以下になると、もう真っ暗である。
そのため、光探知はほとんど役に立たない。
俺は痺れる右手に回復薬をぶっかけながら呟く。
「どうしたもんか……」
これは以前にも説明したが、高ランク魔物は総じて賢い。ましてやSSランクともなれば、言うまでもないだろう。
要するに海龍は俺の攻撃を受けて、『これはちょっとヤバそうだから、あの人間が帰るまで深海に潜ってやり過ごしたろ~』と考えている訳である。まぁ何かを企んでいる可能性も微レ存だが。
今海は荒れ狂っており、いかにも最終決戦みたいな雰囲気を醸し出している。だから、殺り合うなら絶対今が良い。
生憎、沢山時間をくれたおかげで、こちらの準備は整った。
そろそろ出てきて貰おう。
【破滅の光雨】
空から破壊の光が降り注ぎ、次々と海へ落ちていく。前回とは違い、光雨一粒一粒の大きさも威力も違う。
しかし今更ヨルムンガンドに、シンプルな範囲攻撃なんて効かない。では何のために放ったのかと言うと……。
「見つけた」
【天叢雲剣、十重展開】
十の終焉級魔法が海水を蒸発させながら、深海まで突き進んでいく。
恐らく海龍は、まだ俺が海面にいることに気付いている。そのため、全て当たることは無いだろう。龍は世界で最も五感が優れている生き物だからな。
「だが、いくつかは当たる」
その直後。
「グォォォォォォォ!!!!!!」
ヨルムンガンドが猛々しい咆哮を上げながら、海面から飛び出た。
その姿、まるで天に昇る神龍の如く。
「よし、それでいい」
想像より効いている。もしや氷耐性が高い分、熱耐性がそこまで高くないのでは?幸か不幸か、≪光≫魔法は熱寄りだからな。
また完全にブチ切れているあの海龍さんは、俺を殺すまでもう止まらないだろう。しかし、それは俺も一緒だ。アイツを殺すまで帰る気はない。
「第二ラウンド開幕だ」
俺は海面を走り出す。海龍はかなりの特大ジャンプをかましたので、現在落下中である。
ヨルムンガンドがこちらに睨みを利かせた。
すると、海面から俺目掛けて数百、いや数千の水柱が放たれた。
『光速思考』と『光鎧』を起動し、全て避ける。
超圧縮された海水が、音速を超えたスピードで放出されているので、まともに食らうのはマズい。貫通はしないまでも、上空に撃ち上げられてしまう。俺は空を飛べるわけでは無いので、それは避けたい。足場が無ければ良い的になってしまうからな。
だが避け続けても埒が明かないので、天空に突き出した水柱の横部分を上手く蹴り、光が反射するようにジグザグに空へ駆けていく。
上から降ってくるヨルムンガンドと、下から昇っていく俺。
海龍は頭突きで俺を海に叩き落すつもりのようだ。もしそれが実現すれば、深海に引きずり込まれてジ・エンド。
対する俺は、もちろん……。
「いくぞ、【星斬り】」
俺は星斬りに【閃光】の魔力を纏わせ、最後の水柱を思いっきり蹴る。いつもの居合斬りの構えをしながら、距離を縮める。
そして。
キィィィン!!!
二つの膨大な魔力がぶつかり合い、空中で拮抗する。
「グォォ…」
「くっ…」
前世の北欧神話を知るものであれば、これを大蛇ヨルムンガンドと神トールの戦いと表現するに違いない。
なんちゅう魔力を纏ってやがる……。本当に小学生が考えたみたいな、最強の生物じゃないか。地龍なんて比じゃない。
バチッ!!!
という音と共に均衡が崩れ、轟音が辺りに響き渡る。
また俺は体勢を崩してしまった。一番懸念していた、空中で、だ。
海龍がその隙を見逃す筈も無く、柔軟な体を一回転させ、その遠心力を活かして尻尾を叩きつけてきた。
当たる直前に何とか【閃光鎧】を起動し、防御力を高める。
しかし初めて攻撃を受け、分かった。
「普通に死ぬわ、コレ」
衝撃で吹き飛ばされた俺は、何度も何度も海面をバウンドし、軽く一キロは移動した。まるで水切りのように。
「久しぶりに血を流したな。地龍ぶりか?」
額から血が流れ、視界がぼやける。
一歩間違えれば問答無用で死に至る、危険な戦い。
相手は海の…いや、魔物の王。戦う場所も圧倒的不利。
しかも敵は暴走列車の如く、もう止まらない(※自分のせい)。
「くっくっく」
最高じゃないか。
〈俺は今、生を謳歌している。〉
「は?」
気が付けば目の前に、五体のヨルムンガンドがいた。分身したわけでは無く、海水で造った魔法体。
五体とも大口を開け、ブレスを放った。
四本を天叢雲剣で相殺し、残りの一本は星斬りで両断する。
そのまま一体ずつ【星芒拳(グリッターインパクト)】で沈めていく。利き手は温存するため、左手で打つ。
殲滅後、再び静寂が訪れた。
たぶん海中のどこかから俺を狙っているんだろう。
深呼吸して息を整えていると、俺から見て三百六十度、全方位の海面が上昇し、超高波になって俺を飲み込もうとした。
いつもの俺なら上へ逃げるのだが……。
「どう考えても罠なんだよなぁ」
【ロンギヌスの槍】を三本同じ場所へ撃ち、高波に風穴を開ける。そこへ飛び込み、外へ脱出した。
瞬間、半径五百メートルはある巨大な水柱が深海から上がってくるのを察知し、全力で退避する。
「どこまで続くんだ、あの水柱は…。ん?よく見れば、中にヨルムンガンドがいるじゃないか」
なるほど、あのまま俺を水柱に引きずり込んで無力化する予定だったのか。良い性格をしているな。
「アイデアは良いが、その魔法のせいで空に穴が開いているぞ」
『超新星拳』をぶっ放した影響で、この海域には雷雲がたち込み、先ほどまで空に黒いカーテンが掛かっていた。だが、水柱が雲を貫通したので、その部分だけ日光が燦々と差し込んでいる。
【天照(アマテラス)】
「ガァァァァァァァァ!!!」
水柱が全て消滅し、空中にヨルムンガンドが取り残された。
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