第96話:神聖騎士団長

神聖騎士団の艦隊がリヴァイアサンに突撃する場面まで、時を遡る。


~サイド・神聖騎士団長ヴァルカン~


現在私たちの艦隊が、巨大戦艦リヴァイアサンに突撃を仕掛けている。


「怯むな、お前達!!!あれに乗艦すれば確実に勝利を掴むことができる!!!」


「「「「はっ!」」」」


我が教皇国は昔からカナン大帝国を仮想敵国としており、戦争が勃発した際に備えて様々な計画を立てている。その上で、どう頑張っても乗り越えられない大きな壁が二つある。そのうちの一つが、今遠くに堂々と聳えている世界最強の巨大戦艦、リヴァイアサンだ。


あれは海龍の素材を基に造られている上に、設備も常に最新型のモノ。そのため世界で並ぶ戦艦は文字通り存在しない。あれを相手にする時は、こちら側の被害をほぼ無視してでも特攻を仕掛けなければならないのである。


体当たり後、そのまま神聖騎士団全員でリヴァイアサンに乗艦し、ランパード軍の兵士を直接叩く。そしてあの巨大戦艦を乗っ取り、一気に形成逆転を狙う。

神聖騎士団の戦闘力は大陸最強なので、乗艦できればほぼ勝利と言ってもいいだろう。


もちろん敵軍の魔法と魔導弾を被弾しつつ突撃するので、途中で沢山の味方艦が沈むだろう。だが、勝つにはこれしかない。


「ぶつかるぞ!!!振り落とされるなよ!!!」


「「「「おぉ!」」」」


ドォン


騎士達はすぐさま梯子とロープを掛けた。


「乗りこめぇぇぇぇ!」


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」


上から魔法を撃たれるので、こちらも魔法を放ち、上手く相殺しつつ皆で登っていく。

すでにかなりの騎士たちが甲板に降り立ち、私も乗りこむことができた。

敵兵の配置を確認しつつ、神聖騎士達に指示を出す。


「甲板上では主に剣術で戦え!!!味方に被弾するから......な?」


ふと艦橋を見た時、奴と目が合った。


「な、なんでアイツが!!!ま、待て。落ち着くんだ私よ」


何故奴がここにいる?情報では、今回の戦いには参加しないはずなのに。

先ほど少し説明したが、教皇国が帝国に勝利する上で、どうしても乗り越えられない大きな壁が二つ存在する。何を隠そう、そのうちの一つが現在あそこに立っているバケモノなのである。


それは大陸に三人しかいないSSランク冒険者のうちの一人で、かのアインズベルク公爵家の次男。≪光≫魔法の覚醒者で、伝説の『スレイプニル』を従える男。

大陸中で吟遊詩人に謳われ、【終焉の魔術師】など数多の異名を持つ男。その名は...。


【閃光】の冒険者、アルテ・フォン・アインズベルク。


あの男と目が合った瞬間まるで、神話上にしか存在しないSSSランク級の魔物に睨まれたような感覚に陥ってしまった。今正気を保っている自分を褒めてあげたいレベルである。


視線が交わった刹那、私は本能で理解した。あの男は「本物」だ。

【六聖】の連中が全滅させられるのも当たり前の話。


あの怪物は、私と一瞬だけ目が合った直後、私になど全く興味が無いと言わんばかりに視線を横に向け、隣にいる帝国の第二皇子(たぶん)と雑談を始めた。

悔しいが、正直助かった。


どうしてここにいるのかを推理したところで、あそこに立っているという結果は変わらない。アイツが参戦する前に、ランパード兵達と決着をつければいいだけの話。


もし【閃光】が動いた場合、きっと≪遠隔操作≫の覚醒者が対応してくれる筈だ。上の命令を押し切って、無理して連れて来た甲斐があった。

覚醒者は同族の魔力に敏感だと聞く。だから、≪遠隔操作≫持ちもすでに【閃光】に狙いを済ませていることだろう。


覚悟を決め、長年共に戦ってきた愛剣をギュッと握る。


「よし。そろそろ私も参戦し...」


「おいたはだめよ~」


ゴンッ


意気込みを呟き終わる前に、世界が逆さになった。

何者かに後頭部を殴打され、甲板に頭から打ち付けられたのだ。


「団長!!!!!皆、団長を援護しろぉぉぉ!!!」


視界がぼやけ、意識も朦朧とする。味方が私の周囲に集まり、時間を稼いでくれているようだ。


ドドドドドドォン!


上手く頭が回らないが、どうやら≪遠隔操作≫持ちも動き出したようだな。

数秒後、私は意識をきちんと取り戻した。

顔を上げると、私の援護に入った騎士達が全員血まみれになって倒れていた。恐らく、私を一撃でダウンさせた何者かにやられたのだろう。

立ち上がり、その者を凝視すると...。


「【憤怒】......」


「こんにちわ~。うふふ~」


そこには、大量の返り血に染まった青髪の美女、【フレイヤ・フォン・ランパード】が立っていた。両手にメリケンサックを装着しており、そこから血が滴っている。


「はぁっ!!!」


私は残された力を振り絞り、教皇国一と言われている剣術で攻める。次の一撃をくらう前に、憤怒を戦闘不能にしなくてはならない。相手の破壊力は、それほど厄介なのである。


『身体強化』を全開にし、敵の間合いに入らないように立ち回る。


「ふっ!!!」


急所を狙った連続の突き、持ち前のパワーとスピードを生かした横一閃、大きく踏み込んでからの斬り上げ、その勢いでバク宙し、一旦後退。


これがカリオス流剣術である。ヒットアンドアウェイを繰り返し、徐々に敵を追い詰めていく、効率重視の戦闘法。

相手が怯むまで、これを繰り返す。


数分後。


「全て弾くなんて、一体どんな動体視力をしてるんだ」


「ほら~もっと私を楽しませて頂戴~」


「では、披露してやる。カリオス流の真骨頂。奥義【霞斬り】」


私は剣の鞘を相手に投げた。

敵はそれを軽く拳で弾く。しかし私はすでに間合いまで接近している。

相手は予想通り右ストレートを放ってきた。


「焦ったな」


剣を逆手に持ち、それを受け流す。

同時に、羽織っていたマントを相手の顔に投げた。

受け流した勢いを利用し、敵の頭上を飛ぶ。


これで、憤怒は私の事を見失った筈。周りも戦闘中なので、音でバレることもない。


後は、背後から首を斬り落とすだけ......だった。


キィンッ


「は?」


剣は、何故か生身の首に弾かれてしまった。まるで金剛石のような硬さ。


混乱する間もなく、敵はこちらに振り向いた。

今私は剣を弾かれた衝撃で体勢を崩しているので...。


「はぁ~い。ねんねしましょ~ね~」


ボキッ


片手で首をへし折られ、世界が横向きになる。

そしてそのまま海に放り投げられてしまった。


ポチャンッ


なんなんだ、あの硬さは。属性魔法を使っているわけでは無かった。ということは...。まさか純粋な身体強化のみで、あの防御力を誇るのか!?

対等だと思っていた勝負は、ただ俺が遊ばれているだけだったのか。

全然実力の次元が違うじゃないか。


教皇国では≪音≫持ちの次に最強と言われていたのに...。私は井の中の蛙だったわけか。滑稽だな。


「?」


その時、少し離れた海中に沢山の戦艦が沈んでいることに気が付いた。

なんだアレは。なぜ私と一緒に、第二陣用の艦隊が沈んでいるんだ?

しかも全て真っ二つに斬られているじゃないか。


私は朦朧とする意識の中で、最後の結論を導き出した。


「......」


そうか、教皇国如きが手を出してはいけない国だったのか...。

カナン大帝国は。



長年の活躍によって、周辺国に名を轟かせていた神聖騎士団長ヴァルカンの人生は、そこで幕を閉じた。








「ねぇアルテ。≪遠隔操作≫の覚醒者は強かった?」


「魔力量が多いだけのカスだったぞ。そういえば、神聖騎士団長はどうだったんだ?エドワードはずっと上から見てただろ?」


「んー、よくわかんなかった。フレイヤさんが圧倒的過ぎて」


「そうか」


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