第95話:久しぶりの...

 俺は二隻先にある戦艦の艦橋目掛けて【光の矢】を五本放った。

同時に【光速思考】を起動し、俺以外が停止した世界で状況を整理する。


通常、覚醒者の保有する魔力量は、一般の魔法師の約十倍程だ。

しかし、あの艦橋からこちらを窺っている覚醒者の魔力量は推定三十倍以上はある。それだけでアイツの実力が他とは一線を画していることが分かる。

問題は奴がどんな魔法を使うのか、だ。


近距離型ならフレイヤさんに丸投げすればいいし、遠距離型であればエリザが相手をすればいい。と思いきや、現在二人は神聖騎士団の団長と副団長と戦っていて忙しそうなので、しゃあなし俺が出てやろう。


光速思考を解除後、光の矢は件の覚醒者に向かっていったが、見事に回避された。

少しはやるじゃないか。


「エドワード、俺はちょっとアイツを...」


と呟いた直後、奴が俺を指さした。

すると、リヴァイアサンに搭載されている全ての魔導大砲が俺とエドワード、オーロラの方へ向いた。そして。


ドドドドドドォン!!!!!


ノンタイムで数百の魔導大砲が放たれた。

俺は一瞬で【星斬り】を抜刀し、光速思考を起動しつつ、エドワードとオーロラを近くに寄せた。

この巨大戦艦に積んである魔導大砲は最新の超高性能型だ。だから光速思考を起動している今でも、少しずつ魔導弾は近づいてきている。


魔法で魔導弾を破壊すれば大爆発し、リヴァイアサンの甲板上が地獄と化す。かといって、この二人を抱えて回避すれば艦橋が破壊され、破片が甲板上に降り注いでしまう。

そこで俺の導き出した最適解は...。


魔導弾一つずつ、丁寧に星斬りの切っ先で弾き、進む方向を変えればいい。

集中力を研ぎ澄まし、力加減を間違えないようにこなしていく。

もちろん【光鎧】は使わない。今「力」は必要ないから。

「柔の剣」を使うのなんて久しぶりである。


これは以前、ゲルガー公爵率いる反乱軍討伐戦で、近衛騎士団長のレオーネが駆使していた方法である。俺は知っていたから今できているが、この方法をその場で考えついた彼女は本物の天才だと思う。


始めてから肌感覚で一分後。


「あ、あれ?今弾が当たるところだったと思うんだけど...」


「私も死を覚悟しました」


全弾、遠い空や海面に飛んで行き、俺達とリヴァイアサンは無事だった。


「なにがあったの?アルテ」


「たぶん、あそこで驚いた顔している≪遠隔操作≫の覚醒者が、リヴァイアサンの魔導大砲を操作して俺達に放ったんだ」


「でも当たらなかったよ。もしかしてアルテが何かしたの?」


「ちょっとな」


【三日月】


と会話しながら星斬りで斬撃を放ち、油断している≪遠隔操作≫持ちの片足を切断する。


「ギャァァァ!俺の右足が!今何が飛んで...」


刹那、俺は【光鎧】を起動し、奴の真横まで跳躍した。


ドンッ


「よっ」


「え...。なぜここに『閃光』が!?」


「じゃあな」


俺は強引に覚醒者の顔面を掴み、東の方へ思いっきりぶん投げた。

現在、東側の海には、残りの戦艦が一列になって待機している。戦艦の形が違うので、恐らく同盟国の艦隊だろう。

第二陣として待機しているのか、それとも教皇国を裏切り、漁夫の利を狙っているのかは知らないが、それはぶっちゃけどうでもいい。逃げていれば見逃したが、まだここにいるということは何かを企んでいる可能性が高いからな。


俺はタイミングを見計らい、艦橋に罅が入るほど強く踏み込んだ。

そして、再び東の空へ跳ぶ。


「壮観だな」


現在俺の眼下には≪遠隔操作≫持ちがおり、その下には数十隻の敵艦が綺麗に並んでいる。


俺は宙に浮いたまま居合斬りの姿勢をとる。

星斬りの柄を握りしめ、≪光≫の魔力を流し込む。

再び集中力を高め、五感を研ぎ澄ます。

心地いい潮風と陽を浴びながら、その時を待つ。

すると、星斬りから静かな魔力が流れ込んできた。


俺も星斬りも、久しぶりの感覚をしばし楽しむ。

静かだが、爆発的なエネルギーを感じさせる不思議な魔力。


「ふぅ...」


...............今だ。


【次元斬り】


光の速さで抜刀し、眼下に佇む全てを断ち斬る。

覚醒者や艦隊だけでなく、海ごと真っ二つに。


ザバァン


一瞬だけ海が割れ、覚醒者と艦隊はその中に飲み込まれていった。

すぐに海面は閉じ、再び静かな海域に戻った。

各戦艦の甲板上で戦っている兵士達が気付く間もなく、世界最高峰の斬撃は海の底へ消えた。


「今海底まで見えなかった。ってことは、この海域の下には深海が広がってるってことだな」


今俺は腕を組み、ふむふむと考えている。

もちろん逆さまのまま海面に落下中である。

このままでは海にドボンだが、心配はいらない。


姿勢を正し、上手く勢いを殺した後、足から着水する。両足が海に沈む前に、片足で前に踏み込んだ。そして、その足が沈む前に逆足を踏み込む。これを連続で続ければ...。


「海面くらい走れる」


【光鎧】を起動しないとできない芸当なので、誰でも可能なわけではない。この世界で数人のみが使用を許された荒技である(たぶん)。


数秒後。


「戻るの早かったね。何してきたの?」


「色々」


「もうちょい詳しく」


「海斬ってきた」


「えぇ。なんか、あっちで待機してた敵艦隊が急に大分減ったけど、もしかしてあれも斬っちゃったの?」


「一応な」


ここでオーロラが溜息を吐きながら、エドワードに言った。


「はぁ...。噂には聞いていましたが、本当にめちゃくちゃですね。【閃光】は」


「物理法則ガン無視男だからね!」


「そんなに褒めるなよ。照れる」


「「別に褒めてない(よ)...」」


あと、いくら俺でも一応物理法則くらいは考えて行動している。失敬だな。

なんて会話していると。


「はぁ~い。ねんねしましょ~ね~」


ボキッ


キングコングが神聖騎士団長と思われる男の首をへし折り、海へポイっと投げ捨てていた。

という一連の流れを見て、エドワードは思わず呟く。


「うわぁ...フレイヤさん怖っ」


「こりゃ勝負決まったな」


「さすがお母様」


魔王はステゴロで神聖騎士団長とやり合ったのに、無傷でピンピンしている。恐ろしい人物である。

ちなみにエリザはとっくに別の戦艦に移動し、他の覚醒者とやり合っているっぽい。【光探知】で様子を窺ったところ、こちらも問題は無さそうなので、俺も少し休憩しようと思う。







「次は長剣を粘土みたいに折り曲げてるよ...」


「今度は魔導大砲を片手で持ち上げて、敵兵をぶっ潰してるぞ」


「あー。そのまま敵艦にぶん投げて、大穴開けましたね。さすがお母様」


どんだけ身体強化を極めたら、そうなるんだか。

まだまだ世界は広いのかもしれない。


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