第94話:最終戦開幕

ランパード公爵家当主【フレイヤ・フォン・ランパード】が元帥を務める、カナン大帝国の海軍艦隊が領都ネレウスを出港してから数日後の昼頃。

予定通りエルドレア大陸の南側海域で、帝国海軍VS教皇国&同盟国連合海軍の大海戦が勃発した。


「放てぇ!!!一ミリも近づかせるな!!!」


ドドドドドドォン!


フレイヤさんの読み通り敵艦隊は、こちらの放った数多の魔導弾と魔法を被弾しながら、スピードを落とさず接近してきた。

もちろん、アイツ等も無事ではない。何十隻もの戦艦から煙が上がり、すでに何隻も沈んでいる。だが敵は沈みゆく味方の戦艦に見向きもせず、時にはそれを押し潰して特攻を仕掛けてきた。絶対に止まらないという意思をビシビシと感じる。

あと少しでぶつかるだろう。


その直後、こちらの大将(名前は知らない)が声を荒げた。


「おいお前ら近くの物に掴まれ!衝撃に備えろ!」


「「「「はっ!」」」」


ドォンッ


何百隻もの軍艦がぶつかり合い、その衝撃音が海域全体に響く。

ふと天を見上げれば、ここら一帯の上空だけ雲が存在していなかった。まるで誰かが用意した戦場だと言わんばかりに。


「敵兵が乗りこんできたぞ!叩き潰せぇぇぇ!!!」


「帝国の犬共を海に叩き落せぇぇぇ!!!」


両軍の海兵達が声を上げ、互いに剣を交わらせた。この距離で魔法を使おうとしても、魔力を練ってから発動するまでの間に剣でぶった斬られる可能性が高い。

兵士達もそれが分かっているので、身体強化を起動し、肉弾戦に持ち込んでいる。

これはそういうレベルの戦いである。


「なんか良いな。この戦いは」


「何言ってんのアルテ。別にここまでは予想通りじゃん」


「今あそこの甲板で戦ってるのは、噂の神聖騎士とやらだろ?」


「うん」


「ぶっちゃけ、先陣きって突進してくるとは思わなかった」


今回の敵軍は、教皇国と同盟国の連合艦隊である。諜報員の話によると、同盟国と言っても、ほぼ教皇国の属国のような扱いらしい。

そのため、まずは同盟国艦隊を突撃させ、教皇国軍はその陰に隠れて接近してくると思っていた。言い方を変えれば、教皇国は同盟国を囮にして集中砲火を浴びさせ、自分達だけピンピンした状態で乗り込んでくるかと予想していた。


だが、蓋を開けてみれば...。


「自ら先陣をきり、そのまま乗りこんでくるなんて、中々骨のある奴等じゃないか」


「あー、そういうの好きだもんね。アルテは」


「ギャップ萌えってやつだ。教皇国みたいなクソ国家にも男気のある連中がいたから、ちょっと熱くなった」


「ふーん。じゃあ敵が降伏してきたらどうする?」


「そんなの決まってるだろう」


この世界でも、戦争とは残酷なモノである。どちらがどんな正当性を主張しようが、どんな大義名分を掲げようが、結局は勝った方が正義。

負けた方は蹂躙され、搾取される。勝った方の奴隷に成り下がるのだ。

要するに、この戦いで帝国側が負ければ大陸中の亜人達が奴隷になってしまう。


「尋問用の数人を残して、後は全員皆殺しだ」


「相変わらず容赦ないね」


「味方に甘く、敵に厳しくが俺のモットーだからな」


現在俺とエドワードは一番大きな戦艦である、リヴァイアサンの艦橋(一番高いとこ)で全体の戦況を見守っている。もちろん、エドワードの後ろには専属騎士オーロラも控えている。

俺達は呑気に会話しているが、下の甲板ではランパード兵と神聖騎士団がドンパチやり合っている最中だ。


「見た感じ、うちが押してるね」


「ああ。であれば、他の戦艦でも大丈夫そうだな」


「うん」


神聖騎士団が乗っていた戦艦数隻は、全てリヴァイアサンに突進してきた。その後、梯子やロープをかけてワラワラよじ登ってきたのだ。虫みたいに。

ちなみに、リヴァイアサンは体当たりされた時ビクリともしなかった。さすが世界ナンバーワンである。


ここでエドワードが、俺がずっと懸念していたことを聞いてきた。


「ねぇアルテ。敵に覚醒者いないの?人数的に、一人や二人は混ざってそうじゃない?」


「現在絶賛【光探知】で探してるんだが、ちょっとわからない。はぁ...こんな時セレナがいれば楽なんだよな」


「セレナさんって、前言ってた≪影≫の覚醒者の人だよね」


「おう。実力はSSランク級で、隠密・索敵に関しては世界でもトップクラスだ」


「アインズベルクってヤバいね...。ただえさえ陸軍最強なのに、アルテ、エクス、セレナさん、それに噂の八岐大蛇がいるんだよね。もう、ズルじゃん」


「ああ、そうかもな」


なんて話している最中も光探知を起動し、随時探し回っているのだが、中々見つからない。街中で探す時は大きな魔力を持つものが目立つため、比較的探しやすい。

しかし、ここには一定以上の猛者しかいないので、見分けが付け辛いのである。


感覚で説明させてもらうと、激しく移動を繰り返す数千の鳩の中から、一羽のカラスを見つけるような感じだ。

フレイヤさんや、エリザなど知っている魔力は別だが。


と、その時。


「見つけた」


【光の矢、五重展開】


俺は二隻先にある戦艦の艦橋目掛けて魔法を放った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る