第93話:ゴリラ集団

帝国海軍がランパード公爵領の領都ネレウスを出港した翌日。

俺はエドワード、オーロラと共に果実を齧っていた。


「昨日から会議ばかりで大変そうだな」モグモグ


「一応ナンバーツーだからね。仕方ないよ」モグモグ


「美味しいですねコレ。アインズベルク公爵邸の果樹園産でしたっけ?」モグモグ


「確かそうだよね?アルテ」モグモグ


「そうだな」モグモグ


果実を平らげた後、俺は件の会議内で共有された情報をエドワードに詳しく聞いた。

まず元帥であるフレイヤさんは、カリオス教皇国海軍&同盟国海軍の連合艦隊が積極的に白兵戦を仕掛けてくると読んでいるらしい。まぁ魔王が言うのであれば、その通りになるだろうな。


諜報員によると、今回教皇国の抱える三大戦力のうちの一つである神聖騎士団とやらが出張ってくる。念のため説明しておくと、教皇国の三大戦力は『六聖』、『ハウゼン艦隊』、『神聖騎士団』の三つである。


六聖は連邦で俺が返り討ちにした超精鋭部隊で、覚醒者だけで構成されている。あの≪音≫持ちがいた部隊だな。


ハウゼン艦隊はハウゼン大将が率いる海軍艦隊だ。兄貴率いるアインズベルク公爵海軍にフルボッコにされた連中である。しかもその後Sランクモンスターのクラーケンに食い荒らされ、文字通り海の藻屑になったらしい。自業自得である。


最後が噂の神聖騎士団だ。その大半が魔法騎士で、簡単に言えば魔法と剣術が両方イケる猛者達の集まりである。そんな感じ。


本来であれば魔法と魔導大砲の合戦から始まるが、うちの戦艦には≪反射≫の魔法陣があるし、何なら覚醒者本人もいる。だが反射の魔法陣はハウゼン隊と戦った時に多数使用しているので、恐らくバレているだろう。


魔王は上記の理由で、敵艦隊は白兵戦に持ち込むと読んでいるって訳だ。俺もそう思う。


「なぁオーロラ。ランパード公爵家次女として一つ教えて欲しい。ランパード公爵軍って近距離戦得意なのか?まお...フレイヤさんがゴリゴリの近距離ウーマンなのは知っている。でも軍全体はどちらかと言うと魔法を駆使した中~遠距離を得意としているイメージなんだが」


「ふっ」


オーロラは不敵に笑った。そのまま立ち上がり、リヴァイアサンの横端にある柵に手をかける。そして周りを走る戦艦を指さした。


「あれを見てみろ」


俺は【拡大鏡】を起動し、魔導大砲をせっせと運ぶ海兵達を見た。

すると。


「マジかよ...」


その全員がゴリラと見間違うほどの腕をしていた。いくら何でも太すぎる。以前にも説明したが、今回中核を担うランパード公爵軍の騎士と魔法師のほとんどは女性である。ちなみにアインズベルク公爵軍は男女半々。


「もしかして、他の連中も筋骨隆々なのか?」


「ああ」


「とんだ化け物集団じゃないか...」


「アルテ知らなかったの?ランパードは皆ああだよ」


「俺ランパード見たの昨日が初めてなんだよ」


「あーね」


そんな狂暴なゴリラ集団のテッペンに君臨しているのが、破壊の魔王ことフレイヤさんだ。控えめに言ってキングコングである。なんと恐ろしい人物であろうか。


「また異名が増えてしまったな...」


「誰の?」


「内緒だ。お前絶対フザけてチクるだろ、エドワード」


「ケチ」


「それよりも圧巻だな。六百隻の大艦隊は」


「そうだね。帝国の歴史においても、かなり珍しいんじゃないかな?」


「じゃあ結構凄い戦いに参加してるんだな、俺達は」


「だね」


確か敵軍も六百隻で攻めてくるので、六百隻VS六百隻の海上大戦争が勃発する。恐らく敵はこちらの魔法と魔導大砲を潜り抜け、戦艦ごと体当たりしてくる。そのまま強引に乗艦してくる計画だろう。もちろん、そんな衝撃で壊れるほど互いの戦艦は脆くないので安心してほしい。


どうせ奴等は、神聖騎士団がこちらに乗艦した時点で勝ち確だと考えている。俺も初めてそれを聞いたとき、ぶっちゃけマズいと思った。

だがしかし、それこそランパードの思う壺だったのである。


連中は悉くゴリラ集団にリンチされ、海へ放り投げられるだろうな。さらに、キングコング含めた将校達に戦艦ごと叩き潰され、海の魔物の栄養になる未来まで見えた。南無。


と、ここでエドワードが。


「ねぇアルテ。聞いた話だと、お兄さんが教皇国海軍と戦った時Sランクのクラーケンが襲来したんだよね?沢山の魔力に刺激されて」


「そうだな」


「その時の規模ってどのくらいだったんだっけ?」


「正確な数は分からんが数十隻VS数十隻だったから、両軍合わせて百隻にも及ばないくらいの規模だと思うぞ」


「ふむふむ。で、今回は?」


「六百隻VS六百隻の計千二百隻だ。しかも全部軍艦」


「...なんかSランクのクラーケンより、もっとヤバい奴が寄ってきそうじゃない?」


「...めんどくさ」


それを聞いていたオーロラが。


「ですが殿下。開戦予定の場所は、確かモンスターの少ない静かな海域だと聞いてますよ」


「じゃあ安心だね!」


俺は安堵の息を吐くエドワードの肩にポンと手を置いた。


「その海域がなぜ静かなのか、一冒険者として教えてやろうか?」


「えっ、うん」


「他のモンスターが近づかない程の高ランク魔物が、そこを縄張りにしてるからだ」


「...それほんと?」


「アインズベルク公爵領に『魔の森』ってあるだろ?」


「Sランクモンスターがゴロゴロいる超危険地帯だね」


「魔の森に棲んでいる魔物達は、絶対に『天龍山脈』には近づかないんだ。なぜだと思う?」


「...SSランクの龍が住んでるから」


「その通りだ」


「...」


「SSランクの魔物は、下手な人間よりもよっぽど賢い。そいつらが自分の庭に侵入した数千の食糧を易々見逃すとは到底思えん。なんせ数百年に一度のチャンスだからな」


「アルテ的にはどのくらいの確率で現れると思う?」


「半径百キロ以内にいた場合、七、八割の確率でコンニチワするだろうな」


「その時はどうするのさ」


「どのモンスターの縄張りなのか知らんが、海龍なら蒲焼にして食うし、クラーケンならタコ焼きにして食う」


「それ本気で言ってるの?」


「残念ながら大マジだ」


冗談はさておき、本当に現れたら久しぶりに熱い戦いができるかもしれんな。









「ちなみにお前が料理担当で、俺が食う担当な」


「えぇ。じゃあフレイヤさんが食べたいって言ったら?」


「...渋々俺が焼く」


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