第92話:海上にて。

カナン大帝国の南西側海域にて。


「それでヘクター先輩が卒業式の後リリーに告ったんだけど、見事玉砕したってわけだな!」


「帝王祭でリリーに燃やし尽くされたのに、まだ諦めて無かったのかよボロ雑巾先輩」


「俺あの人面白いから好きなんだよな!」


「わかる。一応ハーバート侯爵家次期当主なのに、癖になる性格してるよな」


「そうそう!今頃何やってんのかな?」


「さぁ。帝立騎士学院にでも進学したんじゃないのか?」


「確かに!俺も騎士学院に進学する予定だから、また会えるのか!やったぜ!」


「よかったな」


「アルテも一緒に進学しよーぜ!エドワードは皇太子になるし、リリーとオリビアは帝立魔法学院に進学するらしいから、俺一人になっちゃうんだよ!」


「以前にも伝えたが、俺は学園を卒業したら世界中を旅する予定なんだ。すまんな」


「それはしょうがねえな!じゃあ今のうちに進学友達増やしとくわ!」


「そうしてくれ」


今年俺達は三年生になるわけだが、今思えば仲良し五人組で学園生活を送るのは最後になってしまう。リリーやオリビアはまだしも、エドワードやルーカスは一人になる。

二人に良質な青春を味合わせるためにも、さっさとこの戦争を終わらせてやらんとな。もちろん俺も精一杯青春を味わう予定である。レイも入学してくるし。


「ところでアルテは今何やってるんだ?急に通話をかけてきたけど」


「今エドワードの付き添いで、ランパード公爵家の巨大戦艦に乗ってる」


「リヴァイアサンか!」


「知ってたのか。さすがパリギス子爵家次期当主だな」


「えへへ、照れるぜ!というかエドワードもそこにいるのか?」


「いや、今会議中だ。そのうち帰ってくると思う」


「なるほど、だから通話かけてきたのか!」


「そうだ。暇電ってやつだな」


「ん?暇電?なんだそれ」


「何でもない。それよりも会議終わったっぽいから、そろそろ切るぞ。ありがとなルーカス」


「おう!アルテならいつでも通話かけていいからな!」ブツッ


ここで通話が切れ、向こうからエドワードとオーロラが歩いてきた。

やはり持つべきはルーカスのような良い友人だな。

あと今更だが、ルーカスはビジュも良いし背も俺より高い。それに明るい性格で正義感が強い男だ。極めつけは子爵家次期当主である。これでモテないという方が無理がある。学園で狙ってる女子も多いのではなかろうか。


「アルテー。戦術会議終わったよー」


「そうか。軽く内容教えてくれ」


「えーっとね。まずは...」


俺はランパードに気を使って会議に参加しなかった。念のため説明しておくと、今の俺は元帥補佐であるエドワードの使用人という立ち位置なので、役職的に会議に参加しなくてもいいのである。

まぁ自分で言うのもなんだが、俺は帝国の最高戦力であり、ランパード公爵家と対を成すアインズベルク公爵家の次男だ。しかもSSランク冒険者な上に、【龍紋】を所持しているので陛下と同じ発言力がある。

これを使えば余裕で会議に参加し、ド真ん中の席で足を組むことができるだろう。

しかし、あえて俺が参加しないことでランパードの顔を立てることができるのだ。


「というかさっき通信の魔導具出してなかった?」


「暇だったからルーカスに通話かけてたんだ」


「あー。たまに僕にもかけてくるよね」


「リリーとオリビアにも結構かけるぞ」


「そうなんだ!じゃあ僕も後でかけちゃお」


「ほどほどにな」


「エドワード様、話し相手なら私がいるじゃないですか。男性の友人ならまだしも、女性の友人に通話をかけるなんて...ブツブツ」


「よし、そろそろ飯でも食いに行くか」


「そ、そうだね...」


頑張れエドワード。俺は応援しているからな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 巨大戦艦リヴァイアサンの艦内にある、食堂にて


「エドワード、ここの飯は絶品だな。ぶっちゃけ海鮮料理なら帝国でもトップの方じゃないか?」モグモグ


「僕もそう思うよ!特にこの刺身?っていうのヤバいね」モグモグ


ここでオーロラが


「実は数年前に、現アインズベルク公爵領のオストルフから入ってきたんですよ」


「へぇー。確か今アルテのお兄さんが統治してるとこだよね?」


「そうだな」


ほう。俺が初めて刺身を食べたのもオストルフだったが、あそこがルーツだったのか。じゃあまだ転生者本人か、その子孫が残ってる可能性が高いな。あとで濁しながら兄貴とセレナに聞いてみよう。

なんて考えていると。


「ここの料理は美味しいでしょ~。自慢の料理人達を乗せてるのよ~」


「わらわは刺身苦手じゃけどな!」


なぜかフレイヤさんとエリザがお盆を持って歩いてきた。

地味にこの空間だけ戦闘力がカンストしている。


「そういえばアルテちゃん、気を使わせちゃってごめんね~」


「ああ、会議の事ですか。マジで気にしてないので大丈夫ですよ。ざっくりエドワードに教えてもらいましたし」


「あら~。悪いわね~」


「エリザが開幕で絶級魔法をぶっ放す作戦なのは驚きましたけど」


俺は、料理を頬張るエリザを一瞥した。


「海戦っていうのは勢いが大事なのよ~。うふふふ~」


「そうじゃそうじゃ!」


フレイヤさんが言うのであれば間違いないのだろう。

するとエリザが真剣な顔で


「何かあった時は頼むぞ【閃光】」


「おう」


俺が出ることは、まぁ無いだろう。もしあるのだとすれば、不測の事態に陥った時か、それかシンプルにピンチな時なので、俺に出番が回ってこないことを祈るばかりである。








「ねぇアルテ。エリザさんって小柄な割に結構...」ボソッ


「おいエリザ。エドワードが『エリザはチビのくせに良く食う』って言ってるぞ」


「な、なにぃ!皇子と言えど許せぬ!」モグモグ


「はいはい。エリちゃんそんなに怒らないの~」


「そうだぞエリちゃん」


「わらわをエリちゃんなぞと呼ぶでないわ!!!」


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