第89話:ランパード公爵領へ

バルクッドにあるアインズベルク公爵邸ダイニングにて。

俺は朝から家族&馬鹿皇子と共に朝食をとっている。初めはエドワードもルンルンで『ここの朝食は帝城と同じくらい豪華だね!』とか言いながらパンを頬張っていた。その後も意気揚々と世間話に花を咲かせていたのだが、途中で元帥補佐の事を思い出したらしく、徐々にテンションが下がっていった。


そして現在。朝食タイムが終盤に近付いているわけだが、エドワードはテーブルに突っ伏して死んでいる。どんだけ海嫌いなんだよコイツ...。今度面白そうだから海洋フィールドのダンジョンに連れて行ってみよう。


「早く帰れ」


「えっ」


「何が『えっ』だよ。そもそも俺が行ったら、アインズベルクがランパードを信用してないと周りに思われてしまうだろうが」


「でもフレイヤさんの許可は取ったよ?」


「それマジ?」


「うん。『アルテちゃんの魔法を生で見れるのね~。楽しみだわ~。うふふふ~』って言ってた」


エドワードは両手で頬を挟み、魔王のモノマネをした。ちょっと似ているのが腹立つ。

それは置いといて、俺はある事を思い出した。


「そういえば最近、ついに専属騎士をつけたらしいじゃないか。そいつがいれば十分だろ」


そう。普通皇族というのは専属の護衛(基本的に騎士)をつけるのだが、今までエドワードはそれを拒否し続けていたのだ。ちなみにその理由は聞いていない。


「確かにそうなんだけどさ。ちょっと愛が重くて…」


「専属なのに今日ここへ連れて来なかったのは、まさかそういうことか?」


「うん…」


「まぁ別にいいじゃないか。信頼関係が築けていないよりはマシだろ」


「それは同感。というわけで来てくれるよね?アルテ」


「どういうわけだよ。意味わからんわ」


「僕は気心知れた友人と行きたいんだよ!」


「そんな連れションみたいな感覚で誘うな」


「ええー」


とここで、俺達の会話を聞いていた家族が


「エドワード第二皇子様がわざわざ足を運んでくださったんだぞ」


「そうよアル。何やら切羽詰まっていらっしゃるようだし…」


「そうそうアル。いくら仲が良くても、一応次期皇帝陛下なんだからさ」


「なんか皇子様可哀そう...」


と言った。何故か俺が悪者みたいな雰囲気になっている。解せない。


「くっ...。ちょっとだけだぞ。何かあればすぐ転移で帰るからな?」


「やったぁ!暇潰しの相手ゲットー!」


エドワードという名の元帥補佐は片手を掲げた。


「本音出てるぞ馬鹿皇子」


というわけで、俺は今日から数日間ランパード公爵海軍にお世話になることが決定した。誰かさんのせいで。


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 とりあえずエドワードを先に帰らせた後、俺は準備を整えるために自室へ向かった。

冒険者の装備に着替え、星斬りとマジックバッグを持つ。そして最後にドワーフのおっちゃん特製の黒外套を纏えば準備完了だ。

念のため説明しておくが、このマジックバッグには〈状態保存〉と〈空間拡張〉の魔法が付与されているので数年前に入れた食料でも安心して食べることができる。

まぁ食事は戦艦内の食堂でとれるので特に関係ないが。


「なぁ、エクス。一緒に海行かね?」


「ブルルル」


「そうか。じゃあアインズベルク公爵領を頼んだぞ。セレナとムーたんもな」


「了解です!」


「チュ」


エクスには断られてしまったが、ぶっちゃけアインズベルク公爵領としてはその方が戦力的に安心できるので、俺は諦めて一人で船に揺られることにした。存分にカミラとイチャついてくれ。


≪私がいるでしょ!!!≫


やっぱ二人(俺+ヤンデレソード)に訂正する。

その後、家族とケイルに別れの挨拶をし、俺は一人で転移魔法陣に乗った。


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 帝都の別邸に転移後、己の足でランパード公爵別邸へ向かう。


一応ルートをわかりやすく説明しておくと

実家(バルクッド)→別邸(帝都)→ランパード公爵別邸(帝都)→ランパード公爵邸(領都)

である。転移万歳。


本当は帝城にある転移魔法陣を使わせて貰えばショートカットできるのだが、さすがにやめておいた。あれは皇族(と専属護衛)専用だからな。


戦時中でも相変わらず賑やかな帝都の大通りをのんびりと歩く。沢山の屋台がズラッと並んでおり、常にお祭り状態である。この時期になると、帝立魔法騎士学園の入学試験のために早めに帝都入りした子供達をチラホラと見かける。是非頑張って欲しい。

こういう光景を見ると、早く転移が普及すればいいのにと思ってしまう。馬車での移動は心身ともに削れてしまうからな。


そんなこんなでランパード公爵別邸に到着。


「アルテ様でしょうか」


「おう」


「お話は閣下から伺っております。こちらへどうぞ」


大きな門が開き、俺は中に入った。というかフレイヤさん、閣下って呼ばれてるのか。軍事に長けているランパードらしいっちゃらしいな。

余談だがフレイヤさんは、あのおっとりした見た目と、ほんわかした喋り方が逆に恐ろしいのだ。逆ギャップ萌えである。


また、うちはエクスがいるので一階に転移の魔法陣を設置したが、ランパードは地下に設置していた。そこに案内されたので、早速魔法陣に乗る。すると一瞬で視界が変わり


「あれ?アルテじゃん」


「うわっ」


帝城から転移してきたエドワードと偶然タイミングが重なった。

そして


「エドワード第二皇子殿下の専属騎士を務めているランパード公爵家次女【オーロラ・フォン・ランパード】だ。よろしく頼む」


「こちらこそよろしく」


フレイヤさんの娘にして、ソフィアの姉であるオーロラが同時に転移してきた。






しかもなんか怒ってる。

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