第88話:アホ皇子

俺は戦時中、常にフルスロットルで任務を遂行していた。そのため、一日だけだったがしっかりと休暇を取ることができた。まぁレイのお茶会に顔を出したり、セレナと共にバルクッドの冒険者ギルド支部を訪れたりしたので、休んだというよりかは気分転換をしたわけだが。


今日は早めに寝ようと思い、夕食後にすぐシャワー(監視付き)を済ませ、現在パジャマ姿でベッドに腰を掛けている。


「一応寝る前に、諜報部から送られてきた最新の資料に目を通しておくか」


俺は早速資料をめくり、順次目を通していく。

ほう。まずは陛下の言っていた通り、今アルメリア連邦は革命の真っ最中なのか。この革命を簡単に説明すると、俺のせいで弱体化した強硬派VS息を潜め、革命の準備を進めていた穏健派、ってところだ。穏健派筆頭の名前なんだっけ?確かダント・バスターだっけか。うちの属国になったら遊びに行こう。


次は教皇国についてだ。あの頭のおかしな連中は、現在国中から戦力という戦力を集め、同盟国にも声をかけまくっているらしい。三つ巴の戦争をしている筈なのに、なぜか帝国にしか矛先が向いていないという謎の状況である。

連邦はそもそも国土が広い上に、人口も教皇国の約二倍はいるので、攻めるのに時間が掛かる。そのため、まず帝国を落としてから、内乱で弱り切った連邦を攻める計画なのだろう。っていうのは表の理由で、普通に亜人が嫌いなだけだと思う。人間そんなもんだ。


「ふむふむ。今回の海戦は同盟国と共に大艦隊を発して攻めてくるのか、教皇国は」


これについては良いと思う。以前は同盟国艦隊がちょっとずつ攻めてきたが、そんなの帝国からすれば煩い蠅が飛んでいるのと変わらん。だから今回は一点突破を狙っているんだろう。


「それに相対するのは...まぁそうだよな」


陛下もランパード公爵海軍率いる帝国大艦隊を発し、敵艦隊を真っ向から叩き潰すつもりのようだ。戦艦六百隻VS戦艦六百隻の殴り合いは、さぞ見ごたえがあるだろう。


「で、元帥はもちろんあの人だよな」


俺はランパード公爵家当主【フレイヤ・フォン・ランパード】(魔王)を頭に思い浮かべた。次のページをめくり、元帥を確認するとやはり魔王本人だった。怖い。

また元帥補佐は他の貴族家当主か、ランパード公爵家の次期当主だろう。それ以外であれば...帝都軍魔法師団の大将あたりか?

とりあえず確認しよう。


「ん?」


俺は目を擦る。そして元帥の下の『元帥補佐』をもう一度確認する。

そこには【エドワード・ブレア・ルーク・カナン】と記してあった。


「よし。見なかったことにしよう」


俺は資料をテーブルに豪快に放り投げ、布団に潜った。

だがそこで、『プルプル、プルプル】と通信の魔導具が鳴った。

一応、家族達やセレナかもしれないのでマジックバッグの中を覗き込む。


〈通信魔導具:エドワード用〉『プルプル、プルプル』


「…」


『プルプル』


「はぁ...。俺だ、エドワード」ガチャ


「アルテ!ちょっと聞いてよ、また父上が戦争に参加しろって言うんだよ!」


「ああ。資料で確認したから知ってる。まぁ別にいいんじゃないか?帝国の戦争はどちらかと言えば海戦がメインだからな。海上戦は陸上戦とは戦術も環境も、ルールも全部違う。だから皇太子になる前に一度経験しておくのもアリだと思うぞ。そこまで男気を見せれば、さすがにお前に文句を言ってる奴等も黙るだろ」


「それは分かってるんだけどさぁ。実は僕海が苦手なんだよ...。考えただけでゾワってする」


「でも元帥は天下のフレイヤさんだぞ?勝ち戦の元帥補佐ほど、楽に実績を稼げるモノは無いだろ」


「だよねぇ。父上にも同じこと言われたよ」


「未来の皇帝は、このビッグチャンスをふいにするほど馬鹿なのか?」


「…」


「何十万という兵士達がカナン大帝国のために戦うんだぞ?」


「よし、決めたよ。僕も戦う!」


「それでこそエドワードだ」


「じゃあ、アルテも来てくれるよね?僕と一緒に」


「ん?」


「だって前回も来てくれたじゃん?転移の魔法陣もあるんだしさ。本当に僕の事が心配なr」ブチッ


「最後に何か言っていた気もするが、別にいっか。頑張れよエドワード」


俺は再び布団に潜りこんだ。

エドワードは陸上戦の時、諸葛孔明並みの戦術眼を発揮していたからな。今回もどうにかなるだろう。まず元帥が優秀だから、もし船酔いで寝込んでしまっても、起きた時にはすべてが終わっているだろう。


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 翌朝、俺は腹の上に重みを感じて起きた。


「アル兄様おはよー!」


「ああ、おはようレイ。チー君もおはよう」


「実はね、今日も特別ゲストが来てるの!」


「そうか。では急がないとな」


「うん!」


一度レイに降りてもらい、身支度を整える。今日も天使に監視されながら着替え、顔を洗った。最後に櫛で髪型を直せば完了だ。


「いこ!」


「おう」


レイに手を引っ張られ、ほぼ小走りで廊下を進む。少しずつ目が覚めてきた。そういえば今日のゲストは誰なんだろうな。昨日は陛下だったが...。

我が家のダイニングに近づくにつれて、賑やかな声が聞こえてきた。


「おお、今日は兄貴もいるのか」


「そうだよ!」


良かった。ゲストは戦争帰りの兄貴だったのか。そりゃレイも喜ぶ筈である。

久しぶりに家族水入らずで朝食を楽しめそうだ(死亡フラグ)。

到着後扉を開けると、そこにはうちの家族と...。








「やあアルテ。朝からお邪魔してるよ~」ニヤニヤ


「城に帰れアホ皇子」


エドワード元帥補佐がいた。



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