第87話:バルクッド支部
冒険者ギルド、バルクッド支部にて
「おお、久しぶりだな。アホックス」
「いや、アレックスだわ」
数ヶ月ぶりにSランク冒険者パーティ【獅子王の爪】のアレックスと再会した。アホックスとか言ったが、Sランク冒険者なんて普段お目にかかれるものでは無いので、実はバルクッド支部の冒険者達の憧れの存在でもある。
ちなみに獅子王の爪の連中は俺の事を【閃光】ではなく、基本『アルテ』と呼ぶ。結構仲いいからな(ドヤ)。まぁたまにフザけて閃光閃光って言ってくるけど。
「そういえば他の三人はどうしたんだ?」
「あ~。あいつ等は今日休暇なんだ」
「そうか、残念だ」
ここでアレックスが
「それよりもセレナちゃんってアルテと知り合いだったのか。一体どんな関係なんだ?」
「アルテ様は私の雇い主です!」
俺もウンウン頷きながら
「そんな感じだ」
「いや、適当すぎだろ...。一年くらい前、アインズベルク公爵家が良い意味でとんでもない用心棒を雇ったと噂で聞いたんだが、まさかそれがセレナちゃんか?」
「たぶんそうです!えっへん!」
「正式な用心棒はセレナしか雇っていないはずだから、たぶんそうだな」
「いいなぁ。俺が冒険者引退したら雇ってくれよ」
「もちろんいいですよ!」
「なんでセレナちゃんが許可出すんだよ」
「まぁいいんじゃないか?セレナもこう言ってるし」
「いいのかよ...。はぁ、この覚醒者コンビと話してると調子狂うぜ」
「「ドンマイ(です!)」」
こんなコントみたいな会話を周りの高ランク冒険者達が困惑しながら聞いている。それもそのはずで、さっきもチョロっと話したが、人口約五億人のカナン大帝国においてSランク冒険者は四十~五十人程度しかいない。SSランク冒険者に関しては、エルドレア大陸でたったの三人しかいない。
そのため、自分で言うのも何だが俺達三人は結構凄かったりする。別に全然会話に入ってきても良いんだけどな。セレナとはワイワイ話していたくせに、俺が来た途端全員口を閉じやがって。
三人である程度雑談を楽しんだ後、Sランク以上の受付に向かった。
実は、アレックスは今日ギルド長の『メリル』に呼び出されたため、ここへ来たらしい。一人じゃ寂しいから付いてきてくれと言うので、仕方なく俺とセレナは同行することにした。
どうせ暇だしな。
「アルテさん、お久しぶりです!他のお二人も一週間ぶりですね!」
「アンジェも元気そうだな」
「アンジェちゃんもな」
「アンジェちゃん相変わらず可愛いですね!そのフワフワした耳、後で触らせてください!」
「はい、おかげさまで元気にやらせてもらってますよ!耳は後でね、セレナさん」
「そうか。アレックスがギルド長に呼び出されたらしいが、俺達も同伴して大丈夫そうか?」
「ちょっと聞いてきますね~」
アンジェはテッテッテと小走りでギルド長室へ向かった。
アレックス曰く、今は戦時中なので依頼を受けるのは控えているらしい。特にバルクッドは対連邦戦において、最前線の城郭都市なのでな。いくらアインズベルク公爵軍が常に警戒しているとはいえ、Sランクパーティがいつでも動ける状態なのは非常にありがたい。
話によれば、他の冒険者達も似たような状況らしい。現在季節が冬だということもある程度関係しているとは思うが、それでもありがたい話である。
そんな時期にアレックスを呼び出すということは、まぁそういうことだろう。
「大丈夫どころか、『絶対に連行してきなさい』だそうです!」
「「「えぇ」」」
てなわけで、俺達三人はギルドの受付を通り越し、件の部屋へ向かった。
「三人ともよく来てくれたわね。特にアルテ君は激レアだから、絶対に逃がさないわよ」
「逃げないって」
「メリルさんお久しぶりです~」
「ギルド長、アルテの確保が難しいなら、もういっそのこと書簡でも送って呼び出せばいいじゃないか」
するとメリルは手を額に当て、溜息を吐きながら
「あのねぇ...。アルテ君はただでさえ、天下のアインズベルク公爵家の次男なのよ?それに加えてSSランク冒険者、【龍紋】持ち、帝国最高戦力、皇族とズブズブ、と上げ始めたらキリがないの。要するに帝国の大重鎮ってことね。そんな人物を安易に呼び出せるわけないでしょう?まだ宰相様を呼び出す方が楽よ」
「言われてみれば確かにそうだ。アルテって凄いんだな」
「アルテ様は重度のシスコンですけどね」
「別に呼び出してくれて全然構わない。暇な時であればいつでも駆け付けるぞ、実家からそこそこ近いしな。あとセレナ、俺はシスコンじゃない。正常者だ」
「うふふ、アルテ君の言質取ったわ。重要案件の時は是非書簡を送らせてもらうわね」
「おう」
ここでこの話題が一旦終了し、アレックスとメリルが会話を始めた。
「それで、ギルド長。俺に用があるらしいが」
「そうなのよ。すでに大体想像はついてると思うんだけど、実は...」
結構長かったので、俺がまとめて説明しよう。
簡単に言えば、もし他国軍がバルクッドに攻めてきた時、獅子王の爪に冒険者達の指揮を執って欲しい。というお願いだった。
メリル曰く、公爵軍総帥の親父よりも、Sランクパーティ獅子王の爪に指揮を執らせた方が上手く行く可能性が高いらしい。ぶっちゃけ俺もそう思う。
バルクッドの冒険者達は皆アレックス達を尊敬しているし、信頼している。同時に憧れの存在として見ている。また冒険者の中にはもちろん荒くれ者も混じっているので、公爵家当主よりもアレックス兄貴の言うことを聞く、というわけである。
「まぁ、何かあったら覚醒者二名と伝説の魔物一体(エクス)、推定SSランク魔物一体(チー君)が駆け付けるから安心してくれ」
「あら、頼もしいわねぇ」
「後で通信の魔導具を送るから、緊急時はそれで連絡して欲しい」
「何から何まで感謝するわ」
アレックスが肘で俺の脇をツンツン小突き
「おい、それ俺にもくれよ」ボソボソ
「いいぞ、二個セットで白金貨千枚(日本円で十億)な」
「えッ」
その後暫く会話に花を咲かせ、打ち合わせは終了した。
そして帰宅後、ギルド長に通信の魔導具を送った。
アレックスにもパーティ全員分を無料でプレゼントした。
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