第86話:レイのお茶会

まずは目元が若干ルーカスに似ている令嬢がドレスの両裾を上げ、優雅に


「パリギス子爵家長女の【ステラ・パリギス】です。どうぞよろしくお願いいたします」


それに続いて、もう一人の令嬢と子息が


「カムリア男爵家三女の【エア・カムリア】です。どうぞよろしくお願いいたしますね」


「グリマドール伯爵家長男で次期当主の【オスロ・グリマドール】と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


ん?ステラはルーカスの妹だろうと予想していたが、まさかもう一人の令嬢もリリーの妹だったとはな。まぁ貴族子女のお茶会ってのは基本的に、昔から親しい貴族家を集めて開催されるから当たり前と言えば当たり前だな。確か兄貴のお茶会メンバーにもリリーの姉ちゃんがいたはずだし。

それは置いといて、貴族ってのは相変わらず堅苦しい。礼儀正しいのは好きだが、やっぱり冒険者達のノリの方が自分に合ってる気がする。あいつ等いつもアホ丸出しだからマジ面白いんだよな。獅子王の爪のアレックスとか。


「ステラとエアに関しては、兄ちゃんと姉ちゃんが俺と親しいから馴染みやすいな。いつもアイツらにはお世話になってる。オスロの親父さんにもよく便宜を図って貰い感謝している。俺はアルテだ。皆よろしくな」


「アル兄様!私のお友達どう?」


「どうって...。まぁいいんじゃないか?」


令嬢二人はレイのお友達の上、アイツ等の兄妹なので最低限顔と名前を覚える努力はするが、ぶっちゃけ別に興味ないしな。レイのコミュニティなのだから、俺が深く関わるのもおかしな話である。

と、ここでオスロ君が一歩前に躍り出た。そして決意を固めた表情で


「【閃光】様、一度手合わせをお願いしたいです」


それを聞いたエアとステラが、驚きつつ


「ヒュー!やるじゃんアンタ!あの【閃光】様に挑むなんて」


「さすがオスロね。私達に良い所見せて頂戴」


え、なんか自然とそういう雰囲気になってるけど...。


「やんないぞ?俺この後用事あるし」


「「「え」」」


「ど、どうしてですか!それくらい教えて頂けないと、納得できません」


「単刀直入に言えば、お前が弱すぎるからだな。出直してこい」


場が凍り付いた。なぜかレイは勝ち誇った表情で『ふふん』と言っているが。


「じゃあどのくらい強くなれば手合わせをしてくれますか?」


「ふむ...。最低でもSランク冒険者か、うちの黒龍騎士くらいになれ。それ未満だと話にもならない。せめて相手との力量差を見分けられる領域まで成長しろ」


「そうですか、わかりました!絶対にその領域に達してみせます!」


「おう、いい心意気だ。頑張れよ少年」


「はい!最後に聞かせて欲しいのですが、ちなみに僕は今どのくらいのレベルだとお考えですか?」


皆がゴクリと生唾を飲んだ。


「ああ、俺はたぶん今日中にお前の事を忘れると思う。そんくらいのレベルだな」


そもそも俺は他人の顔と名前を覚えるのが苦手なんだ。クラスメートもまだ五人しか覚えてないし。この令嬢二人はまだしも、一伯爵家の次期当主なんて覚えられるはずがないだろう。いくらレイのお友達かつ、うちと繋がりのある伯爵家といえども。


「じゃ、またな」


「は、はい...」


「「ありがとうございました」」


「アル兄様ありがとねー!!!エクスもまた遊ぼうねー!!!」


「おう。お前らレイを頼むぞ」


「ブルル」


俺はエクスに跨り、片手を振りながらその場を後にした。


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 レイのお茶会に顔を出した後、俺はエクスと共にバルクッドの冒険者ギルド支部へ向かった。俺は一応領主の息子として一定の人気を誇るので、道を歩けば色んな人に声を掛けられる。子供達も手を振ってくれる。微笑ましい。


「なぁエクス。前々から気になってたんだが、Sランクの『スレイプニル』って最終進化形態なのか?世界魔物大全典にはその先が載ってないからイマイチわからん。この前、巨大スライムが落とした青い結晶を食べた時少しハッスルしてたから、勝手に次があると思ってたんだが」


「ブルルル」


「そうか」


そのまま歩みを進めること約数分。ようやく目的地に到着した。

厩舎嫌いで有名なエクスだが、カミラと一緒であれば満更でもないだろう。存分にイチャついてこい。バカップルめ(ちょっと悔しい)。

久しぶりに支部に足を踏み入れれば、沢山の視線が俺に刺さる。別に嫌な視線じゃないから全然いいけど。


「おい。【閃光】が来たぞ」ザワザワ


「久しぶりに御尊顔を拝見できて、私感激」


「お前今年でもう三十だろ。ちょっとイタいぞ?」


「ふんッ」


「グハァッ」


なんか第二の自分んちに帰ってきたみたいで安心するな。ここにはガキの頃から入り浸ってるが、その時から皆優しく色々教えてくれたのだ。こう見えて結構感謝してる。懐かしい。

高ランク冒険者の受付は二階にあるので、とりあえず階段を上る。

二階に到着後、周りを見渡しセレナを探していると人だかりを発見した。たぶんあの中にいる気がする。ゆっくり近づくと


「あ、アルテ様!待ってましたよー!」


「おう。相変わらず人気ものだな」


すると彼女の周りにいた冒険者達が


「え、姉御と【閃光】が知り合い?」


「あれ。言ってませんでしたっけ?」


「姉さん、俺達それ聞いてないっす」


「言うの忘れてました。てへ」


「「「「えぇ」」」」


うむ、セレナは通常運転だな。逆に安心した。

また、その中に友人を発見した。







「おお、久しぶりだな。アホックス」


「いや、アレックスだわ」


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