第85話:戦時中でも

「やはり日向ぼっこは最高だ。な、エクス」


「ブルルル」


「確かにちょっと寒い」


もう雪が降らないシーズンに突入したので、ギリ外で日向ぼっこができる。あと今日は晴れで当たりの日なのだ。

先ほど陛下が帝都に(転移で)帰り、両親は公爵軍基地へ行った。

またレイは今日お茶会を開くらしく、専属メイドを連れて服選びへ。

なぜ戦時中にお茶会を開いているのかというと、それは俺が許可したからである。

この間レイに『最近お茶会開いてなくないか?』と聞いたら『戦時中だし...』と言ったので、別に良いんじゃないか?と勝手にOKしたのである。


俺が言うのも何だが、この時期のお茶会は重要なのだ。うちと絡むような貴族子女達は基本的に帝立魔法騎士学園の入試を受ける。そのため、最後の情報交換やら励まし合いやらを行うためにも開いた方がいいと思う。そっちの方が頑張れるからな。


ぶっちゃけ、この戦争は海戦メインなので内陸に領地を持つ貴族達にはあまり関係ない。その領地の冒険者や領民も『へぇ~、戦争始まったんだ。でもいつもみたいにアインズベルクとランパードがどうにかしてくれるっしょ』くらいの考えだろう。


逆に言えば、領地が沿岸部に位置している貴族家は今常にピリピリしている状態だな。レイ曰く、皆内陸側だからお茶会に誘っても大丈夫らしい。


「アルテ様、おはようございます~、エクスもねー」


「チュー」


「ブルブル」


「おお、セレナとムーたんにカミラじゃないか。おはよう」


「ブルルル」


おはようっていう時間でもないけどな。あと少しで昼食の時間だし。相変わらずマイペースだな、うちの用心棒は。あとムーたんはよく見るが、カミラは久しぶりに見た。

ちなみに最近カミラを見かけなかった大きな理由が一つある。それはカミラはエクスと違って、圧倒的インドア派だということだ。大体厩舎にいる。


エクスとカミラは所謂カップルだが、結構別々で動くことが多い。まぁディナーは毎日イチャイチャしながら食ってるけど。あれだな、いい距離感を保ってるってやつだ。二人はこれから共に長く過ごすことになるので、初めから飛ばしててもしょうがないと互いに思ってるんだろう。妙に人間臭い馬達である。早く俺に仔馬を見せてくれ。


「三人は最近何をしていたんだ?」


「約五日前に本格的に戦争が始まったので、現在は屋敷で警戒待機してますよ」


「ほう、その前は?」


「カミラとムーたんを連れて冒険者活動をしてました」


「さすが元Sランク冒険者」


「もう復帰したので現役ですけど...」


やはり冒険者はそうでないとな。セレナは器用だし、要領が良い。だからシンプルに金稼ぎが目的なのであれば、もっと安全な別の道が存在したはず。しかし、昔わざわざ冒険者になったということは、まぁそういうことなのだろう。俺と一緒だ。


「じゃあ俺もたまにはバルクッドの冒険者ギルド支部に顔を出すかな」


「皆で一緒に行きましょう!」


「おう」


俺はエクスに跨り、セレナはカミラに跨った。ムーたんはセレナの肩に乗っている。


「そういえば知り合いはできたのか?」


ふん。俺はバルクッド支部には六人も友人がいるんだ。多少先輩風を吹かせてもバチは当たらんだろう。


「はい!アルテ様の知ってそうな所だと、ギルド長の『メリル』さん、受付嬢の『アンジェ』さん、あと『獅子王の爪』の四人でしょうか」


「え、もしかしてもっと知り合いがいるのか?」


「はい。だって普通に活動してたら自然と増えません?知り合い」


「増えん」


「増えますよ」


セレナってもしやコミュ力お化けだったのか?確かにいつも明るいし、話しかけやすいような雰囲気を纏っている。俺は四年間の冒険者活動で上記の六名しか友人が作れなかったのに...。ちょっと恥ずかしくなってきた。


「ショボンとしているアルテ様も可愛いですね」


「やめてくれ」


これ以上俺をイジメないでくれ、頼むから。

と、ここで


「アル兄様ーーー!!!」


「おお、レイか」


「私達は先に行ってますね!」


「すまんな、気を使って貰って」


「いえいえ、ではまた~」


俺とエクスはそのままレイの方へ。セレナ達は冒険者ギルドへ向かった。

これは別にレイが意地悪しているわけではない。いくらセレナと言えど、複数の貴族家が集うお茶会に入ることはできんからな。別に貴族側が良くても、知らん貴族に囲まれるのはセレナも気まずいだろうし。だからレイは『あえて』俺だけ呼んだというわけだ。普段レイとセレナは超仲良しだから安心してくれ。


以前にも紹介したが、うちにはお茶会用の外テーブルがある。

レイは椅子から立ち上がり、こちらへ向かって手をブンブン振っている。まごうことなき天使である。

ある程度の距離まで近づくとレイがこちらへ走ってきたので、俺もエクスから降りる。そのまま突進してくるレイを受け止めた。


「えへへ~」


ナデリコナデリコ。まごうことなき大天使である。

自分で言うのも何だが、俺はカナン大帝国における重鎮の一人なので、レイのお友達も立ち上がってこちらに頭を下げた。何をそんなにビビっているんだ?あ、エクスにビビッてんのか。今は魔力も闘気も抑えているが、見た目は一応Sランクモンスターだしな。まぁいっか。


三人でテーブルに向かう。レイのお茶会メンバーは女子二人と男子一人の計三人だ。女子のうちの一人がちょっとルーカスに似ている。妹か?

それと俺の予想だと、あの男子はレイに惚れてるな。目で分かる。






後で泣かしてやろう(さすがに冗談...たぶん)。

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