第84話:一日だけ休憩

今更なのだが、うちの大陸の細かい説明をさせていただこう。今まで省いて悪かったな。

まずカナン大帝国があるのは【エルドレア大陸】だ。一応説明しておくが、この大陸は帝国、アルメリア連邦、カリオス教皇国の三大国家+他の中小国家で形成されている。


また、カナン大帝国は大陸の西側に位置しており、北、西、南側は海に面している。

そして東側は天龍山脈という天然の防壁に囲まれているので、ほぼ独立しているといっても過言ではない。しいて言えばアインズベルク公爵領の領都バルクッドが大渓谷を挟んで、連邦と間接的に接しているくらいだな。


あとこれだけは説明しておこう。帝国で生活していれば当たり前のように亜人がいるが、これは大陸でもかなり珍しい方なのだ。この大陸で亜人を国民として受け入れているのは帝国を合わせて十か国にも満たない。そんな感じ。



 エルドレア大陸の三大国家が三つ巴の戦いを始め四日が経過した。その影響はこの大陸だけに留まらず、別大陸にまで及んでいる。特に三大国家の同盟国同士の睨み合いが続き、酷い所では小競合いが起きている。まぁ要するにこの戦争は世界中を巻き込んでいるってわけだ。前世でいう世界大戦ってやつだな。過去にも三度ほど同じ規模の戦争があったようなので、第四次世界大戦とでも名付けようじゃないか。


そんなことをボーっと考えていると、お腹辺りに重みを感じた。ちなみに現在朝である。


「...」


「アル兄様おはよー!」


「ああ、おはよう。起こしに来てくれるなんて珍しいじゃないか」


「今日はね、朝から我が家に特別ゲストが来てるの!」


「そうか。じゃあ早く準備して向かわなきゃな」


「うん!」


「そういえば、なんで俺の上に乗っているんだ?」


「なんとなく!」


「そうか」


なんだ、天使の気まぐれか。

その後とりあえずレイには降りてもらった。誰かは知らないがゲストが来ているらしいので、パジャマを脱いで冒険者の格好に着替えたほうが良さそうだな。

あとチー君はまだ兄貴の所にいる。たぶん今日中に一人で帰ってくるだろう。レイにゾッコンだし。


まずは上着を脱ぎ、次はズボンも脱ぐ。すると鍛え上げられた美しい肉体が朝日に照らされ、それっぽい空間が出来上がった。要するにパンイチだ。


「...」


ジーーーーーーーーー。


「レイ、別に良いんだが何でここにいるんだ?」


「なんとなく!」


「そうか」


なんだ、大天使の気まぐれか。

じゃあ仕方がないな。すぐに冒険者の装備に着替え、自室に備え付けられている洗面台で顔を洗った。そして細かい身支度を整える。最後に窓からエクスに『よっ』と挨拶をすれば


「お兄様、準備できた?」


「ああ」


そのまま、何故か満足気なレイに手を引かれ我が家のダイニングへ向かった。

到着後、中へ入ると


「...何してるんですか、陛下」


「帝城とアインズベルク公爵邸を転移で繋げてみたのだ(ドヤ)」


そこにはテーブルに座っている陛下の姿が。

しかも呑気に両親と朝食を食べている。本当に何をしているんだ陛下。

でも今は戦争中なので、ただ遊びに来たわけではないと思う。さすがにそういうところはしっかりしているからな、このオッサンは。


「何か計画を変更するんですね」


「ああ、その通りだ」


「ほら、アルとレイも今食べちゃいなさい」


母ちゃんの言うままにテーブルに座り、とりあえず食べながら話を聞くことにした。レイがいるから過激な発言は控えてくれるだろう。


「まずは最近の戦果からだ。教皇国の海軍艦隊は知っての通り、ロイド率いる公爵海軍が海に沈めた」


「さすがはロイドだ」


「さすがは我が息子ね。鼻が高いわ」


「ロイド兄様凄い!!!」


これには家族も大喜びである。ぶっちゃけ俺達が一番心配していたからな。


「次は教皇国の同盟国艦隊だが、これはランパード公爵海軍が跡形もなく破壊した」


「でしょうね」


普通戦艦は海に沈んでいくものだ。しかし跡形もなく破壊されたということは、沈む暇もなくバラバラにされたのだろう。誰とは言わないがたぶん魔王っぽい人の仕業である。

あと、気を使って俺が皇都と首都をめちゃくちゃにしたことは話さないでくれているみたいだ。ここでその話をすれば、まるで俺が大量殺人者みたいな雰囲気になるからな。ナイス親戚のオジサン。


「重要なのはここからだな。本来であれば、両国に降伏を促す書簡を届ける予定だった」


「そうですね」


「だが連邦には届けないことにした。理由としては、二年前に消息不明になった元穏健派筆頭公爵と連絡が取れたからだ」


「ああ、前に晩酌会で陛下が言ってた奴ですか。確かダント・バスターでしたっけ?」


「そうだ。連邦のトップをダントにすげ替え、そのまま帝国の属国にすることにした」


「信用できるんですか?そいつ」


「余が最も信頼している中の一人と言っても過言ではない。過去には大陸中の亜人たちがお世話になった公爵家の末裔だ。特にバルクッド周辺に住んでいる長寿系の亜人達はバスター家を覚えている者も多いだろう。本人もかなりの人格者だ」


「陛下がそこまで言うなら大丈夫そうですね」


教科書には載っていなかったが、バルクッドにある大図書館の書籍にそんなことが書いてあった気がする。以前、陛下から話を聞いたときは自分も絶妙に酔っていたので、今言われてやっと思い出した。俺もハーフエルフなのに。


「ルイスよ、教皇国には書簡を届けたのだろう。それはどうなったんだ?」


「返事は来ていないが、諜報員の報告によれば帝国に全面戦争を仕掛けるべく、国中から戦力をかき集めているらしい」


「懲りない連中ですね。ちなみにトップは誰になったんですか?」


「大司教のレジーナという女が教皇になり、全体の指揮を執っているようだ」


ここで母ちゃんが


「また海から攻めてくるのでしょうね」


「俺もそう思う。さすがに連邦内を堂々と横切って大渓谷に入るわけにも行かないし」


「もし入ってきても我がアインズベルク公爵軍が叩きのめしてやる」


「レイも戦う!」


「「「「それはダメだ(よ)」」」」


「えー!」


教皇国はオストルフの海域ルートを避けたいはずだから、きっと大陸の逆側(南側)から回ってくる。同盟国と言う名の奴隷国だけは多いから、定期的にその港で物資を補給する計画だろう。途中でSSランクの海龍にでも襲われればいいのにな。


「実際に潜入した感じ、連邦の亜人嫌いは大体全体の半分程でした。それにどちらかと言えば『見たことないから怖い』とか『親が近づくなって言ってた』とか、そんなもんです。でも貴族は徹底的に教育されているみたいですので、属国になり次第入れ替えればいいと思います」


「ふむ」


「しかし教皇国は国民のほとんどがカリオス教徒です。カリオス教は教義で『亜人は絶対悪』ってのを掲げているので、もう無理ですね。帝国が睨みを利かせていたから良かったものの、もしそれが無ければ天龍山脈の向こう側にある多種族国家はとっくに滅ぼされてますよ」


「その中には我が国の同盟国もチラホラあるからな。我らが護ってやらねばならん」


「結構ズブズブの関係ですよね。俺結構好きですよ、そういうの」


「アル兄様ってそういうの好きなんだ...ボソボソ」


またここで母ちゃんが


「少し話がズレちゃったけど、要するに連邦はまだセーフで、教皇国は救いようがないってことよね?」


「そんな感じ」


ナイスだ母ちゃん。まとめるとそんな感じの事が言いたかったのだ。

陛下が暫く何かを考えた後、口を開いた。


「では連邦は一旦放っておき、教皇国&同盟国軍とは全面戦争をするぞ」


「「「了解」」」


あ、そういえばもう一つ聞きたいことがあった。


「陛下、連邦の隠し玉はどうなったんですか?」


「一応諜報部やダントが情報を集めているが...すまん」


「何もわかっていないんですね。じゃあ≪転移≫持ちはどうです?俺の勘だとアイツも関わっていると思うので」


「それが暫く強硬派側にも姿を見せていないらしいのだ」


「城任務の時に消滅したとは考えにくいので、ちょっと怪しいですね」


「そうだな」


「もう少し連邦を探ってみますか。今なら諜報員も動きやすいでしょうし」


「話を通しておこう」


親父も腕を組みながら口を開いた。


「アインズベルクの諜報員にも探らせた方が良さそうだな」


「じゃあ親父言っといて」


「わかった」


少し暗い話が続いてしまったので、陛下が気を使って話を逸らした。


「レイは今年帝立魔法騎士学園に入学するんだったな」


「そうです陛下!」


「戦争が終われば、同盟国から沢山留学生が来る予定だから楽しみにしていてくれ」


「やったー!!!」


マジか。同盟国ってことは、ワンチャン珍しい種族の亜人を見れるってことか?


「それって学年ごとですか?」


「ああ、学年ごとに最低三、四十人は留学してくる予定だ」


「おお。じゃあこんな戦争さっさと終わらせちゃいましょう」


「そうだな。頼りにしているぞ、アインズベルク」


「おう」


「ええ」


「はい」


「はい!」


ここで会議は終了し、各々動き始めた(レイは入試のお勉強である)。








とりあえず俺は、エクスと昼寝をしに果樹園へ向かった。日向ぼっこ万歳。

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