第83話:その頃、連邦と教皇国では

~サイド・アルメリア連邦の元穏健派筆頭公爵【ダント・バスター】~


 連邦首都の城が消滅した二日後の夜、某貴族領のスラム街地下にて

私はカナン大帝国皇帝の印が付いた書簡をテーブルに広げていた。


「まさか、今更我が穏健派にもチャンスが回ってくるとは...諦めずに粘った甲斐があった」


「カナン大帝国の懐の深さには脱帽せざるを得ませんな」


「ああ、ルイス陛下には感謝してもしきれんよ。このチャンスをふいにすれば連邦は滅んでしまう。絶対モノにしなければ...」


「ダント様の仰る通りです」


首都に放った密偵の報告によると、一昨日連邦首都レクセンブルクにある城と首長サイラスの屋敷が何者かに襲撃されたらしい。城に至っては周りの土地ごと消滅させられたので、恐らく【閃光】の仕業だろう。この世界であんなことができるのは彼ぐらいしか思い浮かばない。私...いや、穏健派にとって救世主だな。今度会ったらサインを貰おう(隠れファン)。


実は彼が城を消滅させる少し前に、城の大会議室にて強硬派上層部の会議が開かれていたのだ。そのため強硬派の上層部もついでに消滅させられたと報告が届いた。あとサイラスも今帝国に捕らわれているらしい。直に処刑されるだろう。自業自得だな。

と、その時


コンコン


「なんだ?」


「ダント様。例の魔導具が届きました」


「なに!?」


私はすぐに扉を開け、元公爵家騎士から件の魔導具を受け取った。使い方は書簡に記してあったので、その通りに起動する。

すると


「余だ。ダントか?」


「ルイス陛下ですか?ダント・バスターです。まずは書簡だけでなく、通信の魔導具まで送ってくださりありがとうございます」


「久しぶりだな。約二年前に消息不明の報告が入って以来、連絡も途切れていたからてっきり死んだと思っていたぞ。生きていてよかった」


「申し訳ないです。実は強硬派との争いに敗れてから連邦各地にある隠れ家を転々としておりまして...。一応何回か書簡を送ったのですが、残念ながら届かなかったようですね」


「もし一昨日、うちの諜報員が偶然お前を発見していなければ、この後連邦は【閃光】の手によって滅亡していた可能性が高いぞ。一応降伏を促す書簡を送るつもりだが、その様子だと意味は無いと思うからな」


「そうですよね。私もそう思ってました。今は無き我が公爵家の先祖が導いてくれたのかもしれません」


「ああ、まったくだ」


我が公爵家は昔、連邦や教皇国で迫害されていた亜人達を不憫に思い、帝国を含めた他国に移住する手助けをしていたのだ。それをきっかけに穏健派という勢力を作り上げたのだが、二年前に強硬派に敗れてしまった。主に≪転移≫持ちのせいで。

ちなみに、移住支援の時に帝国と協力したことで仲が深まり、それから連絡を取り始めたのである。

ここで陛下が


「ところで家族は無事なのか?」


「はい。連邦には最小限の戦力を残し、それ以外は信頼できる他国に避難させました」


「なるほど安心した。あと、それは『革命』を起こせる最小限という意味か?」


「もちろんです」


「ほう。では頼めるか?」


「任せてください。この二年間逃避行をしていたのは、この時のためですから」


「そうか。書簡にも記したが、成功しても属国扱いになるぞ」


「はい。どうせこのままでは【閃光】に滅ぼされるか、他国に少しずつ領地を削られ飲み込まれていくかの二択です。これでカナン大帝国の属国になれるなら連邦にとって本望ですよ」


「相分かった。また何かあれば通話をかけてくれ」


「了解です。最後に一つだけ聞きたいのですが、書簡と魔導具が届くの早すぎませんか?もしや帝国の諜報部は特別な移動方法を駆使しているのですか?」


「それは余の口からは言えんな。想像に任せる」


「ふふふ、大体想像がつきます。その力には大分苦汁を飲まされましたから」


「では切るぞ。武運を祈る」


「はい。失礼します」


ここで通話が切れた。なんとしてもルイス陛下に勝利をお届けしなければ。連邦のためにも、そして帝国のためにも。


「よし、早速動き始めるぞ。まずは味方をかき集めろ」


「はっ」


今、連邦の時が動き始めた。


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~サイド、カリオス教皇国大司教【レジーナ】~


同時刻、カリオス教皇国皇都ヴェラ・ガルシュテラにある某教会にて。

私はテーブルの隅に置いてあった花瓶を地面に叩きつけた。


「なんで!なんでなのよ!せっかく私がトップになれたのに!」


「お、落ち着いてくださいレジーナ大司教様」


「黙れ!」


私は親指の爪を噛みながら、今の状況を整理する。

まず、謎の魔法により大教会が消滅した。そのおかげで教皇、枢機卿三人、大司教九人が死んだ。普段から偉そうにしていたくせに、なんて情けないのだろうか。

それでたまたま外回り礼拝をしていた私が生き残ったわけね。

教皇と枢機卿だけでなく、私以外の大司教が全員死んでくれたから、運よくトップになれたわけだけど、問題はここから。


「もう一度報告しなさい」


「は、はい。特殊部隊【六聖】が全滅しました」


「それで?」


「先ほどハウゼン大将率いる海軍艦隊からの通信が途切れました」


「はぁ...。チッ、ふざけるんじゃないわよ!!!」


「ひぃぃぃ!」


よりにもよって教皇国三大戦力のうちの二つが落ちるだなんて予想できるわけないじゃない。六聖は【閃光】の暗殺に失敗し、返り討ちにあった。海軍艦隊は時間的にオストルフ近郊の海域辺りで、アインズベルク公爵海軍に沈められたんでしょうね。


「亜人とかいうゴミ種族を匿っているくせに...」


帝国は属国にするつもりだったけど、やっぱり皆殺しでいいわね。いや、亜人は皆殺しで人間は奴隷として売りさばこうかしら。

私は少し離れた場所にいる神聖騎士団長に目を向ける。


「あとは貴方達だけが頼りなの。ちゃんとわかってるのかしら?」


「はい、わかっております」


と、ここで


「レジーナ様!帝国から書簡が届きました!」


「ふん。よこしなさい」


封をビリビリと雑に破き、内容を確認する。

一分後、書簡を地面に叩きつけ


「降伏なんてするわけないじゃない!!!」


「いかがいたしましょう」


「全面戦争よ!ありったけの戦力を集めなさい!」


「はっ」






余談だが、その頃アルテは風呂でのぼせ上っていた。


「レイが覗きをやめてくれないと動けん...ブクブク」


ジーーーーーーー。


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