第90話:専属騎士オーロラ

カナン大帝国ランパード公爵領の領都【ネレウス】にて。

俺は今公爵邸の地下に転移してきたわけだが、偶然エドワードとタイミングが重なった。また、エドワードの後ろには、第二皇子専属騎士である【オーロラ・フォン・ランパード】がいた。


「エドワード第二皇子殿下の専属騎士を務めているランパード公爵家次女【オーロラ・フォン・ランパード】だ。よろしく頼む」


「こちらこそよろしく」


彼女は眉間に皺を寄せ、鋭い目でこちらを睨んでいる。美しく整えられた眉が台無しである。

それに気が付いた俺は、そそくさとエドワードに歩み寄り、耳打ちをする。


「なぁ、なんで怒ってるんだ?お前の騎士」ボソボソ


「たぶん、さっきアインズベルク公爵邸に連れて行かなかったからだと思う...」ボソボソ


「なるほど。まぁそれは置いといてだな。俺が睨まれる理由がよくわからん。普通怒るなら連れて行かなかったエドワードだろ」ボソボソ


「あー。僕と仲良いのが気に食わないんじゃないかな」ボソボソ


「えぇ」ボソボソ


もう一度彼女の方に向くと、相変わらず俺を睨んでいた。しかも歯をギシギシしてる。

今更だが実家にオーロラを連れて来ないっていうエドワードの作戦は正解だったようだな。もし俺が彼女の前でアホ皇子だの馬鹿皇子だの言ってしまえば、恐らく腰に差してある真剣でバッサリいかれてしまうだろうからな。ナイスアホ皇子。


確かに彼女からは【星斬り】に似た何かを感じる。

皇子と専属騎士の主従愛というよりは、なんかこう...ドロリとした重い愛を拗らせている。要するにヤンデレなのだ。

なぜこうなってしまったのかが少し気になるので、軍艦が集結している基地へ移動しながら聞くことにした。もちろん案内はオーロラである。


そして現在、彼女にギリ聞こえない声量で会話している。


「こうなった一番の理由は、未だに婚約者がいないからだと思う」


「しかしあのランパード公爵家の娘だぞ?婿なんて選び放題だろうに」


「僕が聞いた話によると、学園時代オーロラは何十回も告白されたらしい。恋文だって何百通も届いたと思うよ。でも...」


「『私よりも弱い男とは付き合わない』とか?」


「正解」


「そんな気はしてた」


オーロラの学園時代の事は全く知らない。でも天下のランパード公爵家の令嬢だから、どうせ文武両道で実技も座学も無双していたのだろう。座学は置いといて、実技に関しては絶対にそうだな。身体の動かし方や、溢れ出る魔力の練度で大体わかる。


「で、結局学院を卒業するまで待ったんだけど」


「納得できるような令息は現れなかったワケだな」


「うん」


ここだけの話、オーロラ精神を掲げる令嬢は割と多い。

そう考えるとソフィアは上位貴族の令嬢の中では珍しいタイプかもな。

うちの兄貴は頭脳明晰だが、腕っぷしはかなり弱い。またアインズベルク公爵家内では昔から兄貴を次期当主扱いしていたが、別にそれを公言していたわけではない。そのため覚醒者である俺か、全属性使いのレイが継ぐ可能性の方が高いと考えている他貴族は今でも多い。もちろんランパードも最近までそう考えていただろう。


そんな状況で、学園一年生の時(約三年前)に兄貴と婚約してくれたソフィアは凄いと思う。

今では相思相愛のデレデレカップルである。余談だが、夜も毎日デレデレしているらしい。

話を戻そう。


「結局男性経験の無いまま専属騎士になり、お前に沼ったわけか」


「詳しい理由はわからないけどね...」


こう見えてエドワードは器がデカくて優しいイケメン男なので、そこまで腕っぷしが強くなくても沼る要素は多い。一応学園を卒業したら皇太子になる予定だし。


「そういうエドワードはどうなんだ?」


専属騎士が婚約者になるパターンは結構あるあるなのだ。今回の場合、騎士が公爵家の令嬢なので、側室どころか后になってもおかしくない。まぁオーロラ(ヤンデレ)が后になったら側室なんて取れないだろう。絶対に殺される(エドワードが)。

するとエドワードはオーロラの方をチラチラ見ながら


「え?僕はね...えっとぉ...」モジモジ


「そろそろ基地が見えて来たぞ」


「そ、そうだね!」


エドワードもしっかり沼っていた。これ以上は何も言うまい。


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「うわー、壮観だねぇ」


「ランパード自慢の海軍基地ですので」


目を輝かせる皇子の横で、専属騎士がフフンと自慢げに鼻を擦る。ちなみに、エドワードの専属騎士兼彼女であるオーロラの機嫌は少し良くなった。

その後ろで俺は呟く。


「こんなん、絶対負けないだろ...」


俺達の目の前には巨大戦艦が停泊している。

悠々と海に浮かぶこの戦艦の名前は【リヴァイアサン】。

ランパード公爵海軍を世界最強と言わしめる、攻守ともに優れた超超巨大戦艦である。

ここでエドワードが


「主にSSランク海龍リヴァイアサンの素材で建造された、まごうことなき世界最強の軍艦...」


「うちも最近海軍できたし、このレベルの戦艦一隻ほしいな」


するとオーロラが


「アインズベルクには大分世話になってるから、設計図くらいは渡せると思うぞ。詳しいことは母上に聞かないとわからないが」


「それはありがたい」


「でも素材が足りないんじゃない?」


「俺が適当に海龍ボコってくるから、素材に関しては大丈夫だ」


「「えぇ」」


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