第80話:ロイドの決意
~サイド、ロイド・フォン・アインズベルク~
現在僕は婚約者のソフィア・フォン・ランパードと共に、アインズベルク公爵海軍の巨大戦艦【スサノオ】に乗り大海原を突き進んでいる。まだ陸戦すら経験したことが無いのに、初めての戦争が海戦とは思いもしなかったよ。しかも総帥として指揮を執らなければいけない。でも不思議とそんなに不安じゃない。僕には信頼できる味方が付いているからね。
左を見れば愛する婚約者がいるし、右肩にはチー君が乗っている(爆睡)。そして周りを見れば、自慢の我が海兵達が堂々と舵を切っている。
僕は潮風を全身に浴びながら口を開いた。
「本当に良かったのかい?ソフィー」
「ああ。あっちには母上と姉上達がいるんだ。心配はない」
「言われてみれば確かにそうだね」
「それよりも【閃光】に連絡したほうがいいんじゃないか?」
「でも怒られそうで怖いんだよね...」
「未来の我が義弟はそんな奴じゃないさ。安心しろ」
「...じゃあかけてみるよ」
僕はマジックバッグからアル専用の通信の魔導具を取り出し、通話をかけた。
「もしもし、アル?」
「おお、兄貴か。陛下から話は聞いたぞ」
「怒ってないの?」
「なんで俺が怒るんだよ...。天下のアインズベルク公爵家の当主を継ぐのならば、いずれは通らなきゃいけない道だろ。実際に俺はエドワードの時も何もしなかったからな。もし俺が兄貴と同じ立場なら、同じ決断をしたと思うぞ」
「なんか余計な事をずっと心配してた自分が情けないよ」
「まぁ兄貴が指揮を執るなら大抵どうにかなるだろ。ソフィアとチー君も付いてるし」
「うん、心強い味方だよ。ちなみに今何してるんだい?」
「今レイとエクスの三人でお菓子食べてるところだ。あ、匂いに釣られてセレナとムーたんもこっち来た」
「思ったよりものんびりしているね、少し安心したよ」
「まぁ、皆それだけ兄貴を信頼してるってことだ。こっちは俺に任せて存分暴れてきな」
「うん、わかったよ。朗報待っててね」
「おう、期待してる。あとレイも応援してるからな」
〈ロイド兄様頑張れー!!!〉
そこで通話が切れた。隣では一緒に通話を聞いていたソフィーがニヤリと笑い
「ほらな、言っただろう?」
「うん...」
悩んでいたのは僕一人だけだったみたい。
これは小さい頃からずっと悩んでいたことなんだけど、二人の弟妹が優秀過ぎるんだ。
アルは覚醒者、SSランク冒険者、聡明、【龍紋】持ち、異名持ち...と上げ始めたらキリがないほどの完璧超人。
レイも全属性持ち、神童、頭脳明晰、傾国の美女、笑顔が可愛い、天使、大天使...と、この世界で最も尊い女神のような存在。
それに比べて僕は少し学問に精通しているだけなのに長男だからという理由で、世界に名を轟かせるアインズベルク公爵家次期当主の座を二人から奪ってしまった。恐らく世間も同じことを考えていることだろうね。
アルもレイも気を使って『そもそも当主とか面倒くさいからやりたくない』と言ってくれるが、それでも罪悪感は拭いきれないんだ。両親も僕に継がせる気満々だし。
だがそんな家族達が応援してくれるんだから、僕も死ぬ気で頑張ろうと思う。僕が舐められたらアインズベルク公爵家が舐められてしまう。それはすなわち家族達が舐められていることと同義だからね。こんな僕でも、それだけは許せないから。
「ねぇソフィー。気合を入れたいから背中をバシッと叩いてくれない?」
「いいぞ」
バッシィィィン!
「痛っ!!!死んじゃうよ!!!」
「こんなので弱音を吐くんじゃない。また私が直々に鍛え直してやる...夜にな...」
「ヒェッ」
これは余談だけど、我が弟のアルはまごうことなき世界最強なんだよね。まぁ本人は『治癒魔法すら使えないし、隠密や索敵もセレナの方が断然上だから最強とか言うのやめてくれ。マジで恥ずかしいから』と言っているけども。
でもそういうところが謙虚で素晴らしいと思う。もし悪徳貴族の子女が同じ力を手に入れていたら間違いなく帝国は滅んでいただろうね。絶対に手に入れることは無いと断言できるけど。
それは何故かって?そりゃアルが小さい頃から死ぬほど努力してきた事を知っているからだよ。才能だけであそこまでいけるのは神様の生まれ変わりくらいだと思う。本人は最近エクスと一緒にダラダラしているけどね。
もう今だから言えるけど、アルが十歳から十二歳までの二年間は毎日全身泥と汗と血まみれで屋敷に帰ってきて、母さんに怒られていたんだ。その上魔力も使い果たして欠乏症一歩手前だったしね。毎回ケイルにおんぶしてもらって帰ってきてたのが今でも懐かしいよ。そのままアルは母さんの自室でこっぴどく叱られながら治癒魔法をかけて貰うんだ。でも懲りずに次の日も、また次の日も全身ボロボロになって帰ってきたね。
僕やレイと違って家庭教師や魔法・剣術の師範も断り、全部一人でやっていたのにも関わらず世界最強まで上り詰めて、大陸中で吟遊詩人に謳われるようになったアルは本当に凄いよ。自慢の弟だ。そんな【閃光】を含めた家族達に僕の情けない姿は見せられないよね。
「ソフィー。頑張ろうね」
「お、急に顔つきが変わったな。何を考えていたんだ?」
「いやぁ、僕の弟妹はやっぱり凄いなって。だからこそ、二人に負けちゃいらんないよ」
「まぁ決意が固まったようで何よりだ」
バッシィィィン!
「痛いって!!!まって本当に死n」
「夜」
「ヒェッ」
ちなみに僕はベッドの上では最弱だよ。
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