第79話:教皇国潜入③

コンッコンッ...


「ああ、やっぱりか。どんだけ金かけてんだよ...」


現在俺は大教会の外壁を左拳で叩いている。大教会はヴェラ・ガルシュテラの防壁外から普通に見えるほど巨大である。一応結界は張ってあるものの、皇都全体を覆っているのでそこまで防御力は高くない。結界は大きく張るほど防御力が落ちていくものだからな。そのくらい難しく複雑な魔法技術なのである。

そのため俺のような覚醒者が現れ絶級以上の遠距離魔法で狙い撃ちすれば、大教会は防壁外から破壊されてしまうだろう。しかし、教皇国上層部もそれがわからないほど馬鹿ではない。だから何かしらの対策が練られているのではないか。

これが、馬車から初めて大教会を見た時に考えた仮説である。


というわけで、光学迷彩&身体強化を起動し大教会の屋根までよじ登った後に色々と調べてみたのだが、予想通り外壁に細工がしてあった。

簡略的に説明すると、何かしらの固有魔法で外壁がめっちゃ強化されていた。たぶん帝都の城に張ってある結界よりも数倍は防御力が高いと思う。

外壁自体も特殊素材で覆われており、しかも固有魔法で強化されている。

どうせ信者から巻き上げた金で造ったのだろう。良いご身分だな。

何の素材かも知らないし、どんな固有魔法なのかも知らない。


「まぁ、ぶっ壊すことには変わらん」


でもぶっちゃけ【天照】で破壊できるかわからん。大教会は残ったが、その周りの地面は消滅させることができた。みたいな珍百景が出来上がる可能性もある。


「じゃあ、あれやるか...」


ここまでダラダラと説明をし続けたが、もう少し付き合って欲しい。

皆は俺がタイラント戦でぶっ放した神話級魔法【絢爛の光芒】を覚えているだろうか。

結構命がけで発動したのが今でも懐かしいな。

あの後、実はそれを実用的に改良したのである。

威力としては


【天照】(終焉級)<【件の魔法】<【絢爛の光芒】(神話級)


といったところだろうか。

ちなみに名前はまだ決めていない。絶賛募集中である。

あと魔法自体は常時発動可能だ。


「でもどうせなら実験に付き合ってもらおうじゃないか」


と独り言を呟きながら俺はマジックバッグに手を突っ込み、あらかじめ魔法陣を記した一枚の紙を取り出した。一応説明しておくと、俺が例の魔法を基に作った魔法陣である。

以前これを作ったはいいものの、いかんせん威力が高すぎて発動実験ができなかったのだ。


まずは紙をペタリと屋根に貼り付ける

そして魔法陣に手をかざし、膨大な魔力を込めた。

すると魔法陣が輝き出した。これは成功した証拠だ。

そのタイミングで中が少し騒がしくなった。バレたか。

たぶん沢山の猛者たちに護られているのが教皇だろう。

でも、もう遅い。あと五秒で魔法が発動するからな。


「じゃあな、差別主義者ども」


俺は【閃光鎧】を起動し、一瞬で防壁の上まで移動した。


ボォン!!!!!!!!


大教会があった場所を中心に、超巨大な光のドームが形成された。

あの中では【閃光】の魔力が原子レベルで凄まじくぶつかり合い、全てを消滅させていることだろう。どんな魔法を使っても、どんな魔導具を使っても、ドーム内では意味がない。

あの狭い世界の中で生き残れるのは≪光≫の覚醒者である俺だけだ。


「任務(実験)完了」


俺は実家用の転移のアクセサリーを握りしめ、魔力を込めた。


===========================================


「ああ、ここに繋がっているんだったな。二人ともただいま」


「アル兄様、お帰りなさーい!!!」


「ブルルル」


「よしよし」ナデナデ


実家用の転移のアクセサリーは敷地内の果樹園に繋がっていることをすっかり忘れていた。

丁度レイとエクスが遊びから帰ってきたところのようで、転移で帰還した俺を発見しこちらに走ってきた。抱き着いている大天使の頭をナデリコしていると


「お兄様何してきたの?」


「ちょっとお掃除してきたんだ」


「レイもお掃除好き!大変だった?」


「そうか、レイも好きなのか。楽ちんだったぞ」


「お疲れ様!」


「ブルル」


「おう、ありがとな二人とも。そういえば八岐大蛇はどうしたんだ?」


最初からずっと気になっていたんだが、レイに預けた八岐大蛇がいない。アイツは今一体どこで何をしているのだろうか。


「チ―君は今ロイド兄様と一緒にいるよ!」


「ふむふむ。もう少し詳しく聞かせてくれるか?」


「さっきエクスと屋敷に帰ってきたんだけど、その時お母様にロイド兄様の事聞いたの。これから教皇国の海軍と戦うって。だから私が助けに行くって言ったんだけど、それはダメだって...。でもお母様はチー君ならいいよって言ったから、チー君にお願いしたの」


「そうか。それでチー君がいなかったのか」


「うん...ごめんねアル兄様」


「いいんだ。チー君はレイのお願いを聞くために預けたんだから」


「あとで謝らなきゃ」


「そうだな。俺も一緒に謝ってやるからな」


「うん!」


レイは兄貴を助けに行けない己の不甲斐無さと、チー君を戦場に行かせてしまった罪悪感を同時に受け止め苦しんでいるのだろう。だが、そんな状況でもいつもの明るい表情で俺を出迎えてくれた。ありがとうなレイ。さすがは俺の妹だ。

この感じだと、エクスも大分慰めてくれたっぽい。ナイスだ相棒。


レイにこんな表情をさせた教皇国海軍を、本当なら俺の手で直接叩き潰したい。

しかしそれは兄貴に頼むとしよう。兄貴が初めて自分だけで戦うって決意を固めたんだ。残念ながら俺の出る幕は無い。何よりチー君がいるんだ。心配はないだろう。チー君は遠距離攻撃も得意だし。


「じゃあ今から一緒にお菓子食べような」


「うん!!!食べる!!!」


「ブルルル!」


今から料理長の所へ行ってお菓子を貰ってこようか。たぶん匂いに釣られてセレナとムーたんも来るだろうしな。何かあれば陛下か両親から通話が掛かってくると思うから、それまでゆっくりさせてもらおう。あとは兄貴を信じて待つのみ。







「レイも通信の魔導具持ってるだろう?いつでも俺に通話かけていいんだぞ?」


レイとの通話より大事な仕事なんてこの世に存在しないからな。

するとレイは上目遣いをしながら


「だって、恥ずかしいんだもん///」


「グハッ」


「アル兄様!?」


俺はその破壊力に耐え切れず、吐血した。

その日、神話級など軽く超えた魔法が誕生した。


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