第77話:教皇国潜入①
アルメリア連邦から帰還した日の翌朝
「アル様、朝です。起きてください」
「おお、ケイルか。今起きる」
俺は頑なに開こうとしない瞼を無理やりこじ開け、ベッドから起き上がった。
とりあえず朝ごはんを食べなければ仕事をする気になれん。
窓から心地よく朝の日差しが照り付けている。外を見ると、誰とは言わないが食いしん坊な黒馬が朝飯をモグモグ頬張っていた。俺は窓を開け
「よっ」
「ブルル」
よし。今日も元気そうで何よりだ。
エクスは俺と一緒にいない時は基本的に皆から引っ張りダコにされるので、別に一日中ダラダラ過ごしているわけではない。いや、たまにダラダラしているときもあるな。
要するに人気者というわけである。俺と違って。
「ケイル。今日の朝飯は何だ?」
「バルクバイソンのワイン煮と季節野菜のサンドイッチです。残りは普段通りですね。ちなみにバルクバイソンは先日、レイ様が狩ってこられたものです」
「よし。急ぐぞ」
『レイが狩ってきた』という響きだけで涎が滝のように出てしまう。一応言っておくが俺は変態ではないぞ。まぁそれよりも一刻も早く向かわなければな。
その後すぐに我が家のダイニングに到着。するとそこには噂の大天使...ではなく、いつも母ちゃんの尻に敷かれている情けないオッサンがいた。
「おお、アルじゃないか。おはよう」
「チッ。おはよ」
「ん?今舌打ちしなかったか?」
「気のせいだろ」
せめて母ちゃんか兄貴が良かったな。なんて思いながら着席し、早速朝食をいただくことにした。ワイン煮を掬い口に入れると、旨味が舌の上でバイソンの如く暴れまわった。控えめに言って最高である。その後、時間を忘れ絶品料理に舌鼓を打った。食後のデザートは果樹園で採れた新鮮フルーツである。その柑橘系の果物を口に放り込む前に
「そういえば、アインズベルク公爵領の防衛はどうよ」
「あと数年間はバルクッドの駐在兵を増やすことにしたんだ。あとオストルフに関しては、ロイドが新たにアインズベルク公爵家海軍と陸軍を建軍したから大丈夫だな」
「なるほど。てか兄貴の軍が何気に一番凄くないか?」
「ああ。ある意味ランパードとアインズベルクの混成軍のようなものだからな」
「トップが兄貴なら尚更ヤバいな」
「そうだな」
以前にも説明したが、兄貴の頭脳は帝国随一と言っても過言ではない。
兄貴は昔からアインズベルク侯爵軍を間近で見て学んできたのだ。また、婚約者であるソフィアも同様である。そんな夫婦が軍事に手を出せばどうなるかなど、赤子でも理解できるだろう。
「帝国はもう心配なさそうだな」
「その通りだ」
ランパード公爵軍にはSSランク冒険者【氷華のエリザ】が付いてるし、帝都は言うまでもない。
他の貴族領に関しても陛下が色々と手を回しているので、これもまた心配はない。
それに各地の冒険者も奮闘してくれるに違いない。当たり前だが、攻める側ではなく守る側なのでほとんどの冒険者が力を貸してくれるだろう。誰でも故郷は守りたいからな。
唯一不安なのが、俺のように一人で戦局を左右させられるようなイレギュラーな存在。
一番わかりやすい例は覚醒者だな。
結局連邦の隠し玉も未だに判明していないし、教皇国もまた然りである。
だが運よく俺の周りにはそれに対抗できる存在がいる。それはセレナ、エクス、八岐大蛇である。偶然か必然かはわからん。たぶん必然だろ。
もし帝都がヤバければ、このうちの一人を転移で援軍に向かわせればどうにかなる。
ちなみに大蛇は昨夜からレイにべったりである。俺が創ったんだ。そりゃ俺に似るだろうよ。
「じゃあうちの隠し玉の指示は頼むわ」
「おう、任せとけ」
その後、俺は自室に戻り冒険者の装備を着てから公爵軍諜報部へと向かった。
エクスはすでに不在だったので、誰かに連れていかれたんだと思う。
===========================================
バルクッドの諜報部にて
「アルテ様、転移される前に伝えたいことがありまして」
「ん、なんだ?」
「実は転移先は皇都ではなく、その隣にある都市なんです」
「もしかして、皇都は警戒されすぎて諜報部基地が作れなかったとか?」
「その通りです。皇都は隅々まで監視の目が届いてまして、少しでも怪しい動きをすれば、すぐに異端審問所に連れていかれます。もちろん警備の数も他とは比になりません。それに住民のほとんどがカリオス教徒なので、現地のルールを守ってくださいね。でないと通報されますので」
「俺冒険者として潜入するつもりなんだが、大丈夫なのか?」
「皇都には冒険者ギルド本部があるので大丈夫です」
「ああ、言われてみれば確かにそうだな」
「私からは以上です。御武運を」
「おう」
魔法陣に乗ると、一瞬で視界が切り替わった。
ということで、現在俺は教皇国の皇都...の隣に位置している都市「マルシャラ」の街中を散策している。こちらのルールに関しては転移後に、諜報部合同基地の職員に聞いたので安心してほしい。
「へぇ。予想はしていたが、意外と綺麗じゃないか」
都市内の建物は全て白色で統一されている。皇都も同じだと聞いた。
めっちゃどうでもいいが、白色はカリオス教にとって神聖な色らしい。落書きし放題である。
「ついに俺の中の画伯が火を吹く時が来たな」
なんてアホな事を言いながら、のんびりと東へ向かう。
まずは馬車に乗って皇都に入らなければ何も始まらないからな。
見た感じ半分くらいが白い民族衣装のような服装をしているので、住民の半分以上はカリオス教徒なのだと推測できる。洗濯大変そう。
大通りを暫く真っすぐ進むと、東門が見えてきた。諜報員の話によれば、あそこら辺に行けば馬車に乗れるらしい。
あと自慢じゃないが、皇都に到着してからの作戦は何も決めていない。
「まぁ行きゃなんとかなるだろ、たぶん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます