第76話:久しぶりのあの魔法
~サイド、アリエット~
アルテとマルコがフレーゲル家の屋敷内で暴れまわっている頃、【天狼】の三人は首都にある城に向かって必死に走っていた。
「はぁ、はぁ。あんな依頼受けなければよかったわ」
「ハァ、ハァ。依頼内容の割に報酬が高かったから受けたけどよ。結果大ハズレだったな。なんかユートにも殺されかけちまったし!てか怖すぎだろアイツ!」
「はぁ...はぁ。結局ユートは何者なんだろうな?あそこにいた奴らは全員殺されたが、なぜか俺達は見逃してくれたから、良い奴なのか悪い奴なのかイマイチわからん。それに一年半前と比べて別人のようだったぞ。魔力も覇気も雰囲気も全てが段違いだった」
そうなのよね。なぜ屋敷が襲撃されたのかは分からないし、これ以上掘り下げる気も無いわ。
でもユートがあそこにいた理由だけは知りたい。私たちの可愛い弟分みたいなものだしね。
ちなみに今私たちは城に向かっているわ。ユートの言葉を信じて。
「二人とも、本当に来なくていいのよ?無理しないで先に逃げなさいよ」
「そんな水臭ぇこと言うなよアリエット!」
「そうだぞ。お前の家族は、俺達の家族も同然なんだ。見捨てるわけがないだろうが」
「ほんっとに馬鹿ねぇ、あんたたちは。あとで後悔しても知らないわよ?」
と言うと、二人ともニヤリと笑った。本当に馬鹿なんだから。
私たちが城に向かっている理由はたった一つ。それは現在城に勤務している私の姉を迎えに行くこと。姉は連邦軍に所属していて、丁度半年前から城に勤務しているの。だからきっと今も城にいるはずよ。
私はあの時のユートの言葉がどうしても嘘だとは思えなかったから、一人で迎えに行くと言って別れようとしたんだけど、なぜか二人とも付いてきたの。まぁ逆の立場なら私も同じ行動をしたと思うけどね。それがBランク冒険者パーティ【天狼】よ。
数分後、私たちは無事城に到着した。首長サイラスの屋敷が比較的城に近い場所にあったのが幸いね。そしてすぐ門番に冒険者タグを見せ
「ノエル・アージュを呼んで欲しいの!」
「ふん。なぜそんなに急いでいるのかは知らんが、我らに呼んでくる義理はない。ギルドの書簡があれば話は別だが」
確かにその通りね。本来であればまずギルドに書いてもらった書簡を持ってこなければいけないの。この冒険者タグが他人の物の可能性だってあるしね。でも今は時間勝負。
私は財布から赤金貨を二枚取り出し、門番の手に握らせた。
「これでお願いできるかしら」
「ちょっと待ってろ。おい、そこのお前!ノエル・アージュを呼んで来い!」
それからさらに二分後、ようやく姉が城から出てきた。普通は二分なら早い方だけど、今の私にとってこの二分は人生で一番長い時間だった。
「アリエット!どうしたのよ、急に!」
「お姉ちゃん、いいから黙って付いてきて。話はあとでするから」
「え、でもまだ荷物が...」
「いいから!」
「はい...」
お姉ちゃんには申し訳ないけど、説明したところで意味は無いわ。まずはここから離れることを優先するべきよ。
そして私たちは城からかなり離れた場所まで来ることができた。今更だけど私たちは高ランク冒険者だし、お姉ちゃんも軍人だから移動速度は速い方なの。
でもさすがに疲れたので、歩くことにしたわ。さすがにここまで来れば大丈夫だと思う。
「はぁ、はぁ何なのよ本当に...。そろそろ話を聞かせてくれてもいいんじゃない?」
「私もなんて言えばいいのかわからないんだけど、お姉ちゃんがそのまま城にいたら死んじゃうの」
ディランとセオドアもウンウンと頷いている。
「はぁ?何言ってるの?そんな適当なこと言ってると、お姉ちゃんおこ...」
瞬間、城の方角の空が激しく光輝いた。四人全員でそちらを振り向くと...
遥か天空から巨大な光柱が降り、轟音を響かせながら城を飲み込んだ。
「「「「…」」」」
不思議とアリエットの頭の中に、あの日聞いた吟遊詩人の詩が思い浮かんだ。
〈かの冒険者は【閃光】と呼ばれ、迅雷を纏う黒馬に跨る。さらにその魔法は全てを滅し、その剣は星を斬る。又かの冒険者は【終焉の魔術師】と呼ばれ、その逆鱗に触れるべからず。さもなくば天に住まう神々が怒り、忽ち世界は終焉を迎えるだろう〉
「ユート...」
===========================================
同刻、城から一キロ離れた場所にある展望台にて
「よし、そろそろ帰るか」
あの後すぐに展望台に移動したのだが、実は城の門付近にまだ【天狼】がいた。
そのため『拡大鏡』を起動し、展望台の上からダラダラと四人組のマラソンを観戦していたのだ。四人組が良い感じの所まで離れたのを確認した後、ずっと練っていた魔力を解放し久しぶりにあの魔法を唱えた。
【天照】だ。
天照は相変わらず凄まじい破壊力を誇っており、あれだけデカかった城が跡形もなく消滅した。我ながらドン引きである。ついでに地面まで消え、城があった場所だけ綺麗に穴が開いていた。温泉とか噴き出しそうなレベルで。
「寒いな」
展望台から降り、普通に道を歩きながら諜報部合同基地へ向かう。
昨日は≪音≫持ちが禁忌級魔法で都市を削ったし、今日は首長の屋敷が襲撃された挙句、城が跡形もなく消滅させられるし、連邦は散々な思いをしているだろうな。かわいそうに(他人事)。
ちなみに、先ほど城が消滅したことで昨日に引き続き、都市内は絶賛大混乱中である。
「なんか大変そうだな」
ちょっと臭いセリフになるが、最近はどんなに人を殺しても何も感じなくなった。
それがたとえ善良な一般市民であっても、だ。
今日も今日とて数えきれないほどの人間を殺した。
「まぁ悪いのは全部連邦だからな。恨むなら俺じゃなくサイラスを恨んでくれ」
先ほどの【天狼】の件といい、俺には結構甘いところがある。だが決して立派な人間では無い。身内が幸せに暮らせれば、後は割と何でもいいとか思ってるし。
「前世の漫画だと、このまま闇落ちダークヒーローになるんだろうな」
だが俺は最後の最後まで変わらないと思う。たぶんずっとこんな感じだ。
もし期待してた人がいたらすまん。
「明日は初教皇国だ。帰ってさっさと寝るか」
目がショボショボしてきた。
「やっぱエドワードあたりにダル絡みしてから寝よう」
通信の魔導具万歳。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます