第75話:【天狼】
「ユ、ユートか?」
現在、連邦の首長を捕獲するためにレクセンブルクにあるフレーゲル家の屋敷に殴り込みに来ているのだが、何故かそこには知り合いのBランク冒険者パーティ【天狼】の三人がいた。
この三人の魔力は覚えていたはずなのに、敷地内だけでも二十人の雇われ冒険者がいたので、まったく気が付かなかった。助けてやりたいのは山々なのだが、いかんせん時間が無い。
何においても滑り出しは重要なので、この作戦は絶対に失敗できない。
今更だが、今光速思考で悩み中だ。目の前には【天狼】の三人がいる。
まず真ん中にいるしっかりしてそうな女がアリエットでパーティリーダーだ。
次にその左にいる柄の悪い大男がディラン。さっき俺に声をかけたのがこいつだな。現在停止した世界の中で口を開け、アホみたいな顔をしている。
最後は右にいる魔法師のローブを着た男がセオドアだな。しっかりした性格なので信頼できる。
もう二度と会うことは無いと思うが、殺すのは無しだな。一年半前に少々世話になったので、恩を仇で返すような事はしたくない。あとシンプルに良い奴らなので俺自身が気に入っているというのもデカい。
よし、決めたぞ。光速思考を解除し
「【天狼】の皆じゃないか、久しぶりだな。早速で悪いが十秒以内にここから立ち去れ。じゃないと殺す」
それを聞いたアリエットが
「な、なにを言って...」
その瞬間、俺は再び光速思考と『光鎧』を起動し、【天狼】以外の十七人の首を斬り飛ばした。
「とりあえず話を...え?」
三人は驚愕の表情をしながら固まっている。二秒ほどで状況を理解し、再び俺に視線を合わせた。
「あと七秒だ」
「ほ、本当にユートなのか?」
「今はそれどころじゃないわ、早くここから離れるわよ」
「俺も同意見だ。とりあえずさっさと逃げるぞディラン、アリエット」
「お、おう」
さすがはアリエットとセオドアだ。状況判断が早い。俺がお世話になっただけはある。
二人は動揺するディランを引きずり、すぐさま屋敷の敷地内から外に出た。
「よし、それでいい」
これが今の俺にできる精一杯の努力だ。だがそこで俺は思い出した。
「あ、やべ。肝心なこと言い忘れてた」
俺は敷地外の道を必死に走る【天狼】の目の前に一瞬で移動し
「三人とも」
「うわぁ、ビックリした!」
またディランがアホみたいな顔をしながら驚いてるが、気にせずに続ける。
「もし親しい者が今、首都の城で働いているのであれば全力で迎えに行け。そして全力でそこから離れろ。これは俺からの最後の情けだ。じゃあな」
「ちょっと待ちなさいよユート!どういうことなのか説明し...」
その言葉を無視し、俺は再び敷地内に戻った。
すまんな。ゆるりと語っている暇は無いんだ。
「アルテ様。参りましょう」
「ああ。てかまだ中の奴等には気づかれていないようだな」
「アルテ様が一瞬で十七人を殺したからですよ。外が静かになるのが早かったので、逆に問題が無かったと判断したのでしょう」
「まぁ普通はそうだよな。じゃあ中に入るか」
「ええ」
俺が玄関の大扉をぶった斬り、二人で堂々と侵入した。屋敷の中で長物を振り回すのは非効率的だからたまには魔法で戦うか。
運よく玄関には誰もいなかった。ちなみに今回は俺が首長を捕獲している間、マルコが書斎から重要書類を片っ端から盗むという作戦である。屋敷内が割と静かなので、亜人救出組も上手くやっているのだろう。やはり帝国の諜報員は優秀だな。俺は鼻が高い。
玄関を右に曲がり、一階の廊下を真っすぐ進む。すると、前から二人組の騎士がやってきた。
「お前たちは雇われ冒険者か?あれほど屋敷に入るなと...」
だが二人の額に小さな風穴が空き、ゆっくりと倒れた。
「アルテ様は最近人の言うことを最後まで聞きませんよね」
「だって面倒だし、そもそも今の敵だからいいだろ別に」
「レイ様に嫌われますよ?」
「気を付ける」
なんて会話をしているが、この間にも何人か魔法で殺している。光探知を駆使し、相手と対面する前にミニ光の矢で始末しているのだ。
そしてついに三階の書斎に到着した。
「では、私はここで別れますね」
「おう。俺は首長に挨拶してくる」
「死なない程度によろしくお願いしますね」
「ああ」
そのまま数十歩歩き、ある部屋の前で止まった。
コンコン
「誰だ」
「俺だ」
ドォン!
俺はドアを派手に蹴り飛ばし、中に入った。高価そうなものが沢山置いてあり、無駄にキラキラしている。趣味の悪いジジイだな。
「な、何者だ貴様!」
「お前は首長のサイラス・フレーゲルか?」
「そうだ!私が首長のサイラスだ!このようなことをして只で許されると思うなよ?」
「許されないのはお前だ馬鹿」
まずは右腕から
「ギャァァァ!!!私の右腕がぁぁぁ!!!」
「そのうるさい口を閉じろ」
次は左腕
「ギャァァァ!!!ひ、左腕がぁぁぁ!!!」
「黙れ」
顔面をぶん殴り黙らせる。
「ぐっ。血、血が...」
「血が何だって?」
最後は面倒くさいから両足を同時に斬り落とした。
「あ、あぁ...」
「ほら、≪光≫魔法で焼いて止血してやるよ」
と言って四肢の付け根を光で焼き、止血してやった。感謝しろよ。
「おい、何やら少し安心しているようだが地獄を見るのはこれからだぞ。『連邦が帝国に勝利した暁には、帝国の亜人共を~』みたいな文書を書いたのお前だろ?初めてそれを見た時にブチキレたの未だに覚えてるわ。しかも屋敷の地下に亜人を監禁しているよな?もう楽に死ねるとは思うなよ」
「私ではない!私は何も関係ないんだ、信じてくれ!」
「嘘つくなよ。余計惨めに見えるぞ」
するとなぜかサイラスは何かを思い出したようにハッとした。
「≪光≫魔法...。ってことは、もしかして【閃光】か?どうして、死んだはずじゃ...」
「今更かよ。てか俺があんな連中に殺されるわけないだろう。ちょっと遊んでやったら勝手に自爆しただけだぞ」
「あの教皇国の特殊部隊を、そんな赤子の手を捻るみたいに...」
と、ここで
「アルテ様、こちらは全部終わりました」
「マルコか。他の奴らは?」
「亜人達を救出した後フレーゲル家の親族を拉致し、先に転移で帰還しました」
「どんだけ優秀なんだよ。ナイスすぎだろ」
「ちょっと待て!転移は連邦だけの...」
「うるさいぞ」
ゴンッ
「アルテ様、だから話は最後まで聞きましょうよ」
「まぁいいだろ。なんか気絶したし、とりあえず俺達も帰るか」
「はい」
俺たちは無事任務を達成し、諜報部合同基地に帰還した。
「マルコ。俺はまだ仕事が残ってるから、先に帝国に帰っててくれ」
「了解です。御武運を」
「おう」
というわけで、俺は再び基地を出て仕事に向かった。
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