第74話:自由がモットー

~サイド、連邦首長サイラス・フレーゲル~


 アルテが教皇国特殊部隊と激闘を繰り広げた翌朝。

アルメリア連邦首都レクセンブルクにある城の大会議室にて。

私はドンッと円卓を叩いた。


「くそっ!教皇国め!」


何が特殊部隊だ。あれだけ調子に乗っていたくせに、まったく使えん連中だ。

≪音≫魔法の覚醒者が首都近郊の森で禁忌級魔法を行使しおったせいで、都市の一部が削られてしまった。もちろん都民ごとだ。


「何人死んだ?」


「三万人程かと」


「チッ、さすがにこの人数は誤魔化せん。戦争だ」


「承知致しました」


できれば教皇国を敵に回したくは無かったが、賠償金で許容できる範疇を大幅に超えている。最低でも宣戦布告の姿勢を見せなければ、我が強硬派の支持率が下がってしまうだろう。

その前に一番大事なことを聞きそびれていたな。


「で、【閃光】は始末できたのか?」


「軍の調査報告によると、あの魔法は禁忌級に相当するので、ほぼ間違いなく死んでいると推測できるそうです」


「不幸中の幸いだな」


「現在連邦に派遣されている、教皇国の官僚や軍人達の処遇はいかがなさいますか?」


「情報を吐かせてからすぐに処刑しろ」


「一応捕縛し、あちらに派遣されている我が国の官僚達と交換するという案もございますが...」


「二度も言わせるな。すぐ処刑だ」


「承知致しました。会議が終わり次第、指示を出します」


その後会議は暫く続き、約一時間後に解散した。

そして現在、高級馬車に乗って屋敷に帰宅している最中である。こういう時にアイツが入ると楽なのに、少し前から任務に出ているのだ。非常に運が悪い。


「教皇国のおかげで予定が大幅に狂ってしまったではないか...。カリオス神だか何だか知らんが、そんな偶像を信じてるからこうなるのだ。すぐ帝国と同様に滅ぼしてやるから待っておれ」


数分後ようやく我が家に到着した。

書斎で書類の確認をした後、自室で外国から輸入した茶を楽しんでいると、屋敷の外から悲鳴が聞こえた。だが我が屋敷内は選りすぐりの騎士と魔法師が常に巡回しており、敷地や門は信用できる高ランク冒険者達が警備している。

どうせメイドがネズミにでも驚いたのだろう。ティータイムを邪魔した罰に、後で首にしてやる。どいつもこいつも邪魔ばかりしおって...。


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 教皇国特殊部隊と激戦を繰り広げた翌朝、レクセンブルクにある宿の一室にて。

俺は通信の魔導具の着信音で目が覚めた。こっちのは確か陛下専用だったな。


「余だ。朝から悪いな『閃光』」


「いえいえ、陛下ならいつでも通話をかけてもらって大丈夫ですよ」


「そうか、ありがたい。では本題に入るが、昨日は派手に暴れたそうじゃないか」


「はい。でも俺は悪くないんですよ、ちょっとラリってただけで」


「ん?ラリってた?もう少し詳しく聞かせてほしいのだが」


「一から説明するとですね...というわけなんです」


「なるほど。一応昨日諜報部から軽く聞いてはいたのだが、そういうことだったのか」


「ええ、≪音≫持ちに関しては元SSランク冒険者の『マックス』より厄介でした。死んじゃいましたけど」


「ご苦労だったな。連邦の矛先を教皇国に向けさせた事に加え、特殊部隊の隊長とやらも捕縛できたと聞いたぞ。最高の結果だ」


「三つ巴の戦いになるなんて、俺も予想外でしたね」


「まったくだ。それで『閃光』はどうしたいのだ?」


「とりあえず連邦の首長と、教皇国の教皇を殺った後、首都の城と皇都の教会本部を消滅させたいです」


「ほう、その後は?」


「降伏を促して、それでも諦めなかったら徹底的に滅ぼしていきます。俺一人で」


「ふむ...。少々強引だが、戦争が泥沼化してこの先何十年も続くよりかはマシかもしれんな」


「それに前から思ってたんですけど、あっちは飛竜部隊で急襲とかしてくるし、戦争を吹っかける理由も意味不明じゃないですか。でも帝国は常に相手方の被害とかも考えて消極的に動いてますよね。一般人の被害を減らすっていう考えはめっちゃ好きなんですけど、正直もう面倒くさいです。連邦国民とか教皇国民よりも、カナン大帝国民の方が何億倍も大事ですし」


「ぶっちゃけ余もそう思う」


「この前一緒にお酒飲んだ時に、陛下も似たようなこと愚痴ってましたよ」


「それは忘れてくれ。もう一度聞くが、本当に一人で大丈夫なんだな?」


「はい、余裕です」


「頼もしいな。では帝国の護りは余と二大公爵家に任せてくれ。すぐに動く」


「了解です。あと念のため、敵の同盟国も警戒しておいてください」


「わかった。そちらは後は任せたぞ。存分に暴れてくれ」


「はい。連絡だけはこまめにしますね」


「ああ、では通話を切るぞ。武運を祈る」


「ええ。失礼します」


陛下の言質ゲットだぜ。

通話が切れてからすぐに身支度を整え、宿を飛び出した。隠密モードは起動していない。

今までは考える事が多すぎて慎重に行動せざるを得なかったが、今回は陛下のお墨付きなので思う存分暴れられる。俺のモットーは自由なんだ。これが本来の姿である。


そのまま俺はレクセンブルクにある諜報部合同基地へ向かった。

到着後


「マルコ、サクっと首長を殺りに行くぞ」


「え、話が急すぎませんか?とりあえず準備するので少々お待ちください」


「わかった。詳しいことは進みながら伝える」


「了解です」


現在俺はマルコと諜報部員数名を引き連れ、首長サイラスの屋敷へ向かっている。

全員に陛下との会話の内容を簡潔に説明しながら歩を進める。

ちなみに皆変装しているので、特に怪しまれることも無い。


「アルテ様、奴が今不在だったらどうするんですか?」


「たぶんいるから大丈夫だ」


「なにを根拠にいってるんですか、それ」


「勘」


「えぇ。ていうか、始末する前に尋問して情報を搾り取りたいんですけど...」


「面倒くさいからやだ」


「わがまま言わないでくださいよ」


なんて会話していると、ちょうど目的地が『光探知』の範囲内に入った。


「門に二人、敷地内に約二十人、屋敷内に約五十人だ。あとは地下に何人かいるのだが...」


ん?何か違和感がするな。ああ、なるほど。


「亜人の魔力だ」


「この国に、しかも首長の屋敷地下にいるってことは、恐らくそういうことでしょう」


「マルコ、気が変わった。首長は生け捕りにして情報を搾り取った後、できる限り苦しめてから殺す」


残念だが、俺はそんなに甘くないんだ。甘いのは身内にだけ、である。


「わかりました。使用人もそれを知っている上で働いていると思うので、容赦しなくて済みますね。あと情報を搾り取る前に自害されては困るので、家族も人質用に攫いましょう。念には念を、です」


「そうだな。俺とマルコが正面突破するから、お前らは敵が混乱しているうちに裏口から侵入し、まずは地下に捕らわれている亜人達を救出してくれ」


「「「「「「はっ」」」」」」


数分後、フレーゲル家の屋敷に到着した。うちの実家には遠く及ばないが、そこそこ大きいな。


「止まれ!お前達何者だ!」


「騒ぐな」


俺は門番二人の首を一瞬で飛ばした。たぶん雇われ冒険者だろう。すまんな、俺も仕事なんだ。

そのまま強引に門を開き、マルコと二人で敷地内に突入する。その時たまたま門の近くにいたメイドが叫び声を上げたが、無視して進む。別にお情けをかけているわけではなく、単純に非戦闘員を殺しても時間の無駄なだけである。


すぐに騒ぎを聞きつけた警備員達が駆け付け、俺達は屋敷に入る前に、大勢に囲まれてしまった。見た感じ、ほとんどが高ランク冒険者だな。まったく、こんな依頼を受けなければ死なずに済んだものを。


だがその中に







「ユ、ユートか?」


知り合いのBランク冒険者パーティ【天狼】の三人がいた。


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