第73話:教皇国特殊部隊④
【天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)】
世界に顕現した災厄の剣は、瞬く間にアルメリア連邦の一部を地図から消滅させた。
なんだか頭がフワフワして非常に気分が良い。今なら何百回でもこの魔法を放てるような気がする。天上天下唯我独尊とはまさにこの事である。
「禁忌級の魔法をそんな当たり前みたいに撃たないでください」
「おぉ、生きてたか。さすがは≪音≫持ちだな」
「今ので一体何人の尊き命が失われていると思っているんですか」
「その尊き命に亜人がカウントされないのが残念だ」
「亜人はカリオス神が創造した失敗作ですからね。六聖に選ばれた我々にはそれをこの世界から排除する使命があるのです」
「へぇ」
まぁ魔法自体はルゼの森の方に飛んでいったし、たぶん大丈夫だろう。それでも何人か死んだとは思うけども。
というかよく避けたな。魔力を練ってから魔法を発動するまでのラグを見極められたっぽい。やはりこのレベルに至った奴に魔法を当てるのは中々難しいのかもな。
「で、俺に攻撃してこないのか?」
「だって貴方、全部見えてるのでしょう?無作為に攻撃してもカウンターを仕掛けられるだけなので、今どうするか悩んでいる最中です」
「じゃあその間に舞台を整えてやる」
俺は片手を天に掲げ、呟く
【光の檻】
光を上手く収束・屈折させ、俺達を中心に巨大な檻を作り上げた。
「あらら。これではもう逃げられませんね...」
「元から逃げる気なんてないだろお前」
「ですね。うふふふ」
【ソウルビート】
≪音≫持ちは謎の魔法を唱えた。すると魔力が少しずつ上昇していき、先ほどとは別人のようになった。俺の【閃光】モードみたいな感じだな。まさかバフ系の魔法だとは思いもしなかった。
「珍しい魔法を使うもんだな」
【轟砲】
「チッ」
目算、絶級以上の広範囲魔法を普通に放ってきた。あんなに言ってきたのに、結局お前も周りの被害なんて考えていないじゃないか。
≪音≫系の魔法は、簡単に言えば空気の振動を利用しているから防御できないんだよな。こいつは何度俺の脳を揺らせば気が済むのだろう。あぁ、またおかしくなってきた。
奴は間髪入れず俺に接近し、どこから取り出したのかもわからない槍で音速の突きを放ってきた。そこで俺は【星斬り】を抜き、刀身の腹で受け止める...のではなく、同じく突きを放った。
「!?」
そして槍の先端を星斬りの先端で受け止めた。≪音≫持ちは驚いた表情のまま一度後退し、再び攻撃を仕掛けてきた。
槍の間合いを利用した横薙ぎや振り下ろし、連続突きを駆使した槍術を『柔の剣』で受け流していく。相手はまったく隙を見せない上に、そもそも間合いが違いすぎるのでカウンターを放っても当たらないだろう。それに一撃一撃の重さが半端じゃない。もしかして
「気づきましたか」
「あぁ」
よく前世のSF漫画で出てきた振動剣ならぬ振動槍だな。振動剣とは、刀身を超高速で振動させることで通常の刃物を遥かに超える威力を持った武器である。恐らくこれを応用したのだと思う。でもカリオス神が~とか言ってたので、転生者ではないだろうな。考えられるとすれば、こいつの師匠が転生者ということくらいだ。
音速を超えた剣戟は数分間続き、現在俺が槍を受け止める形で膠着している。
両者の魔力や闘気がぶつかり、異様な空間が出来上がった。
そこで星斬りと槍を交わし合い、火花を飛ばしながら
「いい加減しぶといですよ。さっさと死んでください」
「じゃあ魔法戦に移るか」
「それはダメです。さすがに分が悪いので」
「だったらどうするんだ?このまま続いても俺が有利なことに変わりはないぞ」
「だから悩んでいるんです。どうすればこの状況を」
「すまん。もう限界だ」
一度槍を大きく弾き、俺はとある魔法を呟く。
【八岐大蛇(ヤマタノオロチ)】
光の魔力で創り上げられた巨大な八岐大蛇は困惑している≪音≫持ちに狙いを定めた。八つの頭が次々と襲い掛かり、奴は回避するのに精いっぱいである。『光の檻』があるので逃げることも不可能だ。
あと別に俺の体力が限界なのではなく、以前開発した新魔法を発動したくてウズウズしていただけなので安心してほしい。ラリっているので、我慢できんのだ。
「くっ。槍で頭を潰しても、魔法で破壊しても一瞬で再生してすぐ襲い掛かってきます」
「そいつ口からブレス吐くから気を付けろよ」
「え!?もう少し早く言ってくださいよ!」
ちなみに目の前でハッスルしている八岐大蛇は、俺が操作しているわけではない。以前、エクスやレイと一緒に光で色んなものを作って遊んでいた時に、たまたまこいつを作ったのだが、なぜか自立して動き始めたのだ。当たり前だが他の植物や動物、魔物を作っても操作しなければ動かなかった。しかし、八岐大蛇だけ自立して動いた。理由はわからんが、今となっては可愛い家族みたいなモノである。今度レイの護衛役を任せてみよう。レイに一番懐いてるし。
「偶然【光の精霊】的な何かを創ってしまったのだろうか」
あと俺の魔法にたまたま光の精霊的な何かが宿った可能性もあるな。
今思えば【星斬り】も意思を持っているし、この世界は不思議だらけである。
なんて考えていると八岐大蛇が、ボロボロで息も絶え絶えな≪音≫持ちを咥えて持ってきた。
「ご苦労さん」
「完敗ですね...。こうなったら、もう最後の手段です」
瞬間、≪音≫持ちの魔力が今までにない程高まった。
【滅びの歌】
「うふふふ。数秒後に私もろとも、全てを破壊しつくして差し上げます」
先ほどまで脳を休ませるため、一時的に光速思考を停止させていたので再び起動する。奴は命がけで禁忌級の魔法を発動したのだと思う。恐らく数秒もすれば本当に滅びが訪れるだろう。命を懸けてでも、教皇だか神だかのために禁忌級を発動したのは賞賛に値する。
俺は一瞬で八岐大蛇を回収した後、【閃光鎧】を起動した。そのまま光の速さで遠くにいる隊長を拾う。
「この時間でアイツを殺すこともできたし、撤退することもできたのだが...」
せっかく禁忌級を発動してくれるのであれば、全部≪音≫持ちのせいにできる。
それに、命を懸けた魔法を見てみたいじゃないか。
あ、そういえばアイツに言い忘れていたことがあった。俺は再び、魔力を使い果たして倒れ込む奴の前にやってきて
「言い忘れていたのだが、一応俺も亜人だぞ。ハーフエルフだ」
「...」
声を出す余力も残っていないのか。こいつが今どんな気持ちなのかは知らないし、別に知りたくもない。知ったところで俺のやることはもう変わらないしな。
俺は隊長を抱えたまま首飾りを握りしめ、魔力を込めた。
そして目を開ければ、俺が泊まっていた宿屋の個室に転移していた。
隊長を放り投げ、窓を開けて森の方向に顔を向けると
「これが≪音≫の禁忌級か...」
滅びの波動は物凄いスピードで森を消滅させ、レクセンブルクの端を少し飲み込んだ後に止まった。
「あそこら辺には確かカリオス教の教会があったはずだ」
カリオス教徒の魔法で消滅するなんて、なんという皮肉なのだろうか。
同時にマジックバッグから音が鳴ったので、取り出すと
「アルテ様!大丈夫ですか?」
「おお、マルコか。大丈夫だぞ」
「まさかあの魔法はアルテ様が?」
「いや、違うぞ。始めから詳しく説明するとだな...」
マルコに長々と説明し、それを陛下に伝えるように頼んだ。
「なるほど。では諜報員に、隊長と思わしき男を回収しに行かせますね」
「頼んだ。あと言うまでも無いが連邦は教皇国を糾弾するだろうから、三つ巴の戦いが始まるぞ」
「ええ。我が国にとっては朗報ですね」
この禁忌級の魔法を皮切りに、カリオス教皇国VSアルメリア連邦VSカナン大帝国の戦争が本格的に始まったのであった。
「とりあえず酒飲んで寝よ」
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