第72話:教皇国特殊部隊③
アルメリア連邦首都レクセンブルク近郊にある森の奥地にて
「うふふふ。私、弱者を甚振るのが大好きなんですよ。特に若い男性が...」
さっきまで戦っていた三人は後ろに下がり、今まで様子見していた三人が前に躍り出てきた。ちなみにこの三人が覚醒者なのかはまだわかっていない。
とりあえず、両手に頬を付けながら危ないことを呟いているドSお姉さんは要注意である。今までの俺の戦いを分析し、その上で俺を「弱者」と判定してきたので、相当な実力者なのではなかろうか。
「随分と綺麗な顔をしていますね...。貴方を特別にコレクションの一部にしてあげます」
すると隊長らしき男が
「そんなことを言ってないでさっさと始末するぞ。おい、予定通りに始めろ」
と言うと、命令を受けたもう一人の男が
【毒霧】
ほう、≪毒≫持ちか。六人とも外套の下に変なマスクをつけてるなとは思っていたが、あれはガスマスク的な魔導具だったらしい。肌も全員隠れているので、恐らく肌に当たってもヤバい毒だろう。草木が徐々に腐り果てていくのを見れば、あれが致死性の猛毒だということが一目でわかる。
「こりゃマズいな」
光探知を起動しても相手の位置がわからん。毒に微量の魔力を混ぜ、自分達の魔力を上手く隠している。はぁ、セレナなら余裕で打破できるのに。俺はなんと無力なのだろうか。
【爆音波】
瞬間、俺目掛けて凄まじい轟音が放たれた。あのお姉さんは≪音≫持ちなのか。どうせ蝙蝠みたいに超音波でも使って探知しているのだろう。そりゃ毒霧の中からでも正確に俺を捕捉できるわけだ。
音の振動は色々な物体・液体に伝わる。それはもちろん『光鎧』も例外ではない。爆音は俺の鼓膜を破り、脳を揺らした。あぁ、これは俗にいうピンチと言うモノかもしれん。久しぶりだな。なんて考えていると
≪音≫持ちは音速で俺の懐に潜り込み、俺の腹を蹴り上げた。まるであの時、己がタイラントにしたように。凄いスピードで空に飛ばされ、いつまで進むのだろうと思っていたら、なぜか急に停止した。
「ん?よく見れば足に糸が巻き付いているじゃないか」
じゃあ隊長は≪糸≫持ち確定だな。それにしても、教皇国の超エリート部隊とだけあって全員が大陸トップクラスの実力者である。魔法が優秀なだけではなく、魔力操作や戦闘センスがずば抜けている。あのドSお姉さんに関しては、確実に元SSランク冒険者の【マックス】よりも上だろう(≪重力≫持ちの転生者だったやつ)。
「あら、こんなところで奇遇ですね」
「奇遇も何も、お前が飛ばしたんだろうに」
「ではさようなら」
え、コレクションにするんじゃなかったのかよ。普通ここからさっきの勢いで叩き落されたら原型留めないだろ。普通は。
ドッゴォォォォン!
俺はソニックブームという死の衝撃波を放ちながら地面に激突した。周りに砂埃が舞い、地響きと共に小さいクレーターが形成された。それを確認した六人は、雑談しながらクレーターの側に集まってきた。
「姉さん。せめて原型は留めるくらいにしないと、コレクションにできないでしょ」
「失敗しちゃいました...。でもやっぱり弱者を虐めるのは興奮しますね。最高です」
「姉さん一人で良かったんじゃない?マジで興醒めだったわ。何が【閃光】だよ、あの程度で調子に乗りやがって」
そして、≪糸≫持ちの隊長が俺の死体を確認するためにクレーターの中心にある穴を覗き込むと
「おい、再び臨戦態勢を整えろ。奴の死体が無い」
「もう遅いんだよなぁ」
「「「「「「!?」」」」」」
俺は砂埃が舞っている間にとっくに穴から離脱し、それからずっと隠密モードでこいつらの後ろに立っていたのだ。さすがに光学迷彩を起動し、魔力を極限まで抑えた俺には気付けなかったようである。
すると隊長の両足から上がズレ落ちた。
「ギャァァァァァ!!!俺の足が!お前ら助け...」
目に見えない速さで斬っただけなのに、発狂して気絶してしまった。こいつは隊長っぽいので殺さずに情報源としよう。俺は一瞬で隊長を遠くに運び、再びここへ帰ってきた。
「まったく、何で油断してるんだ?さっきまでの戦いなんてお遊び以下だろ」
五人は混乱していたが、俺の言葉を合図に咄嗟に距離を保ち、≪毒≫持ちが毒霧を展開しようとした。
「だから遅いって。舐めてんのか、お前は」
光速思考を起動した状態で放たれた『ロンギヌスの槍』は、≪毒≫持ちの腹を貫通して彼方へ飛んでいった。ほう、これでも焦らないのか。さすが超エリート達だ。
「ふん、俺に近づけば≪減速≫で...」
「俺にとっちゃあまり変わらん」
怒り狂った【星斬り】で首を飛ばし、その首をドSお姉さんに放り投げた。それをキャッチした姉は固まっているが、気にせず次の標的を狙う。
「なぁ、本物の破壊ってのを見せてやろうか?」
「くっ、正面から叩き潰してやる」
俺は≪衝撃≫持ちの上に跳んだ。さぁ、あの時のデストロなんちゃらを撃ってこい。
【破壊の一撃(デストロブレイク)!!!】
【星芒拳(グリッターインパクト)】
二つの技がぶつかり合った刹那、奴が立っていた周囲の地面だけ、五十メートルほど陥没した。まるでそこだけ切り取られたかのように綺麗な丸い穴ができあがった。
その衝撃でダウンバースト(下降気流)が発生し、森に大きな風が吹き荒れた。木々はなぎ倒され、空には積乱雲が発生した。空は灰色に濁り、雨と雷が降り始めた。
次は≪交換≫持ちだな。こいつは割とめんどくさいのだ。どんな技を撃っても位置を交換して避けられそうである。まぁ俺の攻撃の速度を認識できるとは思わないが、そろそろヤンデレの相棒がウズウズし始めたのでな。
この嵐の中で集中力を高めるのは至難の業だ。だったら逆にやるしかない。
俺は腰に差してある【星斬り】を握り、前傾姿勢をとる。
全身から圧倒的な闘気が溢れ出す。それは世界に物理的な影響を及ぼす程で、雨や風を自然と弾く。その結果、俺の周りだけ空気・魔力・闘気が混じりあった異世界のような空間が出来上がる。
グッと足に力を籠めれば、地面にヒビが入り、空気が振動する。
【星斬り】から静かな魔力が流れ、俺の魔力と融合する。
今だ
【次元斬り】
「?」
三秒後、≪交換≫持ちは次元ごと半分に崩れ落ちた。まったく手加減をしていないので、その後ろに存在していたモノ全てを真っ二つに斬った。
いつもならもっと手加減をして、できるだけ被害を減らしているのだが、現在俺は少しハイになっているのだ。≪音≫持ちに脳を揺らされてから、気分が今までにないほど高揚している。簡単に言えばリミッターが外れている。
「ふーっ、気持ちいいな。最高だ」
「貴方、何者なんです?」
「今喋りかけないでくれ。それどころじゃない」
「私の可愛い可愛い弟をよくも殺してくれましたね。この恨みは百倍にして返して差し上げます」
「あっそ」
なんかゴチャゴチャ言ってるが、さっさと終わらせてレイをナデナデしに帰りたい。もうアルメリア連邦側の被害とかどうでもいい。こっちがその気になったら一瞬で滅ぼせるってことを、そろそろわからせてやらんとな。しつこいんだよいい加減。そもそも何で喧嘩売られてる俺たちが気を遣わなければいけないんだ?もう全部めんどくさくなってきた。
「まぁ一応最後に聞いておくか」
「何をです?」
「何で教皇国は連邦と手を組んでいるんだ?」
「そんなの決まってるじゃないですか。カナン大帝国は昔から野蛮な亜人を」
「あー、もういいわ。最後に一つだけ良いことを教えてやる」
「?」
「この後、連邦も教皇国も合わせて一週間で滅ぼしてやる。それが嫌だったら全力で俺を止めてみろ」
「本気で言ってるんですか?それ」
「さぁ、どうだろうな」
そのタイミングで≪音≫持ちの雰囲気が変わり、全身から闘気と魔力が溢れ出した。
これが戦争を吹っかける側の気持ちなのか。別に俺は好きじゃないが、どうせ両国の上層部はこれを楽しみ、厭らしい笑みを浮かべながらカナンに喧嘩を売ってきたのだろう。
なんかムカついてきたから、とりあえず明日は両国で一番偉い奴を始末しに行くか。最悪首都ごと消滅させてしまえばいっか。
「まずはこれを避けてみろ」
【天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)】
世界に災厄の剣が顕現した。
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