第60話:帝都軍最強の騎士
万能型とは、言い換えれば総合力が高い騎士の事だ。それはこの世界の騎士の中で最も貴重で重宝される存在。なぜかというと、騎士はいろいろな任務に従事するので、その時々によって臨機応変に対応しなければならないからである。
例えば今回の内乱でレオーネには騎馬隊を率いるという任務が与えられ、彼女は長槍を用いて大活躍してみせた。また彼女は潜入任務の時は恐らく小刀を持って行くし、魔物の討伐の時は長剣を持って行く。そして護衛の時は盾と槍を駆使すると思う。
何かあったらとりあえずレオーネを向かわせればどうにかなるだろう。要するに彼女は何でもできるスーパーウーマンなのである。
そんな奴が一番得意な長剣を手にしたらどうなると思う?正解は「ヤバい」である。
現在俺は、妙に嬉しそうな表情をしているレオーネと向き合い、互いに見つめ合っている。観客席には沢山の近衛騎士がおり、勝負が始まるのを今か今かと待っている。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「自分の全力をぶつけられる存在なんて、中々いないからな。まぁそういうことだ」
「そうか」
するとレオーネの表情がガラリと変わり、凄まじい闘気を放ってきた。
だから俺はそれに呼応するように今まで抑えていた闘気を解放した。
訓練場のド真ん中で彼女と俺の闘気がぶつかり合い、その余波が肌にビシビシと伝わってくる。
瞬間、レオーネは予備動作なしで猛スピードで突撃してきた。ちなみに模擬戦は身体強化オンリーなので、あれは魔法とかではなく純粋な技術だ。カッコいいので是非あとで教えて貰おう。
俺はまず「柔の剣」で相手の出方を窺うことにした。彼女は一体どんな剣術を駆使し、どんな猛攻を仕掛けてくるのだろうか。
レオーネは刺突の構えをしている。あれは槍術の応用だ。あの勢いで放たれたら受け止めるのに苦労しそうなので、俺は木剣の腹で受け流すことにした。
「受け流すと思ったぞ」
彼女はニヤリと笑った。そして低い姿勢のまま半回転し、刺突の勢いを全て乗せた回し蹴りを放ってきた。狙いは恐らく俺のこめかみなので、腕で受け止めるのではなく身を屈めて避けることにした。
それを避けた後、ノンタイムで拳が向かってきた。それを逆に利用しカウンターを仕掛けてやろうと思ったが、彼女はそれに気づいたようで一度拳を引っ込め、バックステップで距離を取った。
「いや、格闘術もイケるんかい」
「まぁな」
万能型とか、そういうレベルの騎士ではなかった。騎士というか「シンプルにめっちゃ戦闘力が高い人」である。
なんて考えていると再び彼女は突っ込んできた。次は純粋な剣術力を発揮して、袈裟斬り、逆袈裟斬り、横一文字斬りからの真っ向斬り、最後に斬り上げの順番で攻撃してきた。実に美しい太刀筋だ。これだけでも彼女の経験や努力が伺えるが、切り返しの速さも尋常じゃなく、何より一撃一撃が重い。
それに各分野の技術も応用し、組み込んでいる。そして一般的な剣術を、世界に彼女だけしか真似できないモノに昇華させている。いうなればレオーネ流。
「ハァハァ。もう、一つの流派だろそれ」
「ふぅ。ここまで耐えられたのは初めてだ」
レオーネは大きく口角を上げて、犬歯に光を反射させながら獰猛な笑みを浮かべた。まるで大型の肉食獣が獲物を追い詰めた時に見せるソレである。
その後俺は攻めに転じたが、彼女の鉄壁の護りに阻まれ、結果互いに体力を消耗し続けた。
再び膠着状態に入ったので距離を取った。彼女が長い髪をかき上げたので、俺も汗で濡れた前髪をかき上げた。そして彼女と目を合わせた。言葉にしなくても、その目を見ればわかる。
そうだな、次の剣戟で決着を着けようか。
俺は目を閉じて、五感を高める。己を纏う魔力がどんどん研ぎ澄まされていき、身体強化の練度が上がっていく。
足にグッと力を入れて、上段の構えを取る。
闘気を全開にし、目を開いて相手を見据える。
互いの闘気がぶつかり合い、空気が震える。
ここだけ別世界だと錯覚するほど濃い空間が完成した。
太陽が雲に隠れた瞬間
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼女は雄叫びを上げながら突撃してきた。
そして
【真閃流奥義・彗星斬り】
【獅子之牙突】
レオーネの木剣は真っ二つになり、俺の木剣はその衝撃に耐えきれず折れてしまった。
ウォォォォォォ!!!!!!!!!!
パチパチ
「楽しかったぞ『閃光』」
「こちらこそ」
二人で勝負の余韻に浸っていると、近衛騎士達が観客席から訓練場に雪崩れ込んできて、レオーネに質問攻めを始めた。彼らは今まで彼女の本気を見たことがなかったのだろう。もう大興奮である。
またなぜか俺まで質問攻めにされた。ローガンからパクった真閃流や「柔の剣」「攻めの剣」のことをしつこく聞かれ、気づけばその日の訓練は終了していた。
「なぁレオーネ。あの予備動作なしで、猛スピードで突っ込むやつどうやるんだ?」
「私と結婚するなら教えてやらなくもない」
「えぇ。というか独身だったのか」
「私より強い男を探して三千里、やっと今日見つけたんだ」
「まぁとりあえず教えてくれ」
俺はレオーネに詳細を教えて貰った後、光学迷彩を駆使して逃げた。
まぁ頑張って俺以外の男性を見つけて欲しい。
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「という経緯で訓練場に連行されました」
「ハッハッハ!それは災難だったな!」
というわけで、今陛下に愚痴っている最中である。ちなみに今はこの部屋にレオーネとカルロスはいない。たぶんシャワーでも浴びているのではなかろうか。
もちろん、代わりの騎士はいるから安心してくれ。
「その話は一旦置いといて、これが件の魔導具です」
「ほう。これが言伝で聞いた≪通信≫魔法の魔導具か」
「はい。この両方に同じ魔法陣を刻んであります」
「なるほど。どのくらいの距離まで通話できるんだ?」
「まだ実験途中ですが、一応帝城からアインズベルク公爵邸くらいまでであれば、ほぼラグ無しで通話できます」
「それは凄いな。もしこれを我が帝国で量産できれば...」
「飛竜部隊と転移の魔法陣に次いで戦争の概念を変えるような、三つ目の劇薬になります」
「その通りだ。また戦争や諜報だけでなく、様々な事に応用できそうだな」
「いつかは一般化したいですね」
「ああ。最低でも連邦とのケジメをつけた後になるがな」
「そうですね。そのために、あと二年は頑張る必要がありますね」
「もちろん余も力を尽くすが...」
陛下は顔を上げて俺と目線を合わせ
「頼んだぞ『閃光』」
「はい、任せてください」
また暫く通信の魔導具の量産と利用について話合った後、俺は陛下と二人で禁書庫へ向かった。
「ここだ」
「え?禁書庫って陛下の自室からしか行けないんですか?」
「そうだ。そもそも皇帝以外の利用は許されていないからな」
「確かに言われてみればそうですね」
そして俺は陛下の自室にお邪魔した。すると陛下はポケットから鍵を出し、棚の隙間にある小さな穴にそれを突っ込んで回した。
ゴゴゴゴ
「隠し扉ですか、ロマンですね」
「ハッハッハ!同感だ」
と笑いながら陛下はランプを持ったので
「陛下、俺が光で照らすので大丈夫ですよ」
「そうであったな。では頼んだ」
こうして俺たちは下に続く階段を下りて、魔法で結界の張られた書庫へ到着した。どうやら皇族の血を引いている者にしか開けられないように魔法が掛かっているようだ。
陛下が手をかざすと、予想通り魔力が共鳴して結界が解除された。
すぐに扉を開いて中に入ると
「うわ、怪しい本だらけですね」
「絶対に開けるなよ?」
「はい、たぶん」
と返事をして、まず気になる本が無いか探してみることにした。
「陛下、これが読みたいです」
「やはりそれを選んだか。もちろんよいぞ」
この本のタイトルは〈別大陸調査報告〉である。恐らく、昔カナン大帝国から部隊を派遣し別大陸を調査させた時のものだろう。よく本にしてくれたものだ。是非感謝しなければな。
速読は得意なのでこれをさっさと読み終え、別の本を探すことにした。
まだまだ時間はあるので、じっくりと堪能させてもらおう。
それから俺は陛下にジト目で見られながら好きなだけ禁書を読み漁ったのであった。
「これ、鎖解いたら面白そうじゃないですか?」
「通信の魔導具が量産できたら、まずソフィアに渡さなければな」
「すいません」
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