第59話:近衛騎士団

学園の訓練場で覗きをした翌朝、俺はエクスと共にアインズベルク公爵家の敷地内にある果樹園で日向ぼっこをしていた。昨日四人で都合の合う日を相談した結果、三日後にDランクダンジョン【迷いの森】に潜ることが決まったのである。


「あと三日暇だなエクス」


「ブルルル」


現在、セレナとムーたんはカミラに乗って冒険者ギルドに行っている。彼女は昔、遠い国でSランク冒険者として名を馳せていた。詳しくは聞いていないのだが、恐らく冒険者としての血が騒ぎ始めたのだと思う。一応Sランクの冒険者タグは今でも有効だし(昨日オーウェンに聞いた)。


なんて考えていた時、俺はふと思い出した。そういえば、≪通信≫の魔導具をまだ陛下に渡していない。それに以前褒美として禁書庫への立ち入り許可をいただいたのだが、それもまだ利用していない。


「エクス、ちょっと帝城まで付き合ってくれないか?」


「ブルルル」


「サンキュ」


始業式の日エドワードに、通信の魔導具についての伝言を頼んだ。そのため、陛下は今か今かとソワソワしながら待っている可能性がある。

さっきから当たり前のように通信魔法のことを語っているが、これは転移の魔法陣と並ぶ最先端の魔法技術なのだ。きっと陛下も大喜びしてくれるに違いない。


「その勢いで禁書の封印とか解かせてくれればいいのに」


悪魔召喚とか絶対面白いじゃないか。もし暴れたら適当にボコればいいだけなんだし。


「まぁ、そんなことしたら俺が魔王にボコられるんだけどな」


誰とは言わないが、例のあの人が頭をよぎったのであった。


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というわけで、俺とエクスは帝城にやってきた。俺はエクスに乗ったまま【龍紋】を見せすぐに大門を潜ると、城の中から案内役の騎士が二人やってきたので、エクスと別れ大人しく案内してもらうことにした。


「俺は何度も帝城を訪れているから、別にわざわざ案内してもらわなくても大丈夫だぞ?」


「お気遣い感謝します。ですが、これが我々の仕事ですので」


「そうか」


確かにそうだな。

それから暇潰しに会話しながら歩を進めること約五分、ようやくいつもの部屋に到着したのだが、肝心の陛下がいなかった。部屋の中で待機していた文官曰く、今陛下は会議中らしい。


「じゃあ暇だから帝城の中を散歩して待ってるわ」


「承知いたしました。案内役の騎士は同伴させますか?」


俺は隣の騎士を一瞥して


「せっかくだし、頼む」


「はっ」


そのまま俺は案内役の騎士と共に帝城内で大冒険を始めた。

やはり大陸で三本指に入る大国の城は広くて大きいし、その上設備もしっかりとしている。帝都は巨大な結界で覆われているというのを前に説明したと思うが、実は帝城自体も強力な結界で覆われている。敵がもしここを突破しようとするのであれば、まずは巨大な結界を破壊した後に、もう一度強力な結界を破壊しなければならない。


「敵からすれば悪夢だな」


「ええ。我が国自慢の結界ですから」


そろそろバルクッドにも巨大な結界を張るか。旅に出るまでにしなければいけないことが、また一つ増えてしまった。

その後、世界中の美しい花が咲き誇る中庭を見たり、エドワードの自室にイタズラ用のトラップを仕掛けたりした。案内役の騎士はさすがに禁書庫の場所は知らなかったので、大人しくいつもの部屋で茶でも飲んで休憩しようと戻っていたところ、後ろから声を掛けられた。


「『閃光』じゃないか」


「ん?レオーネとカルロスか。久しぶりだな」


「お久しぶりですね」


近衛騎士団団長と副団長に見つかってしまった。何か嫌な予感がする。せっかく最高級ソファに寝そべって、ぐうたらしようと思ってたのに。


「実はこれから近衛騎士団の訓練が始まるのだが...どうだ?見学していかないか?」


「絶対嫌だ。結局俺も参加することになるのが目に見えてる」


「まぁまぁ、そんなことは言わずに」


「たまにはいいじゃないか」


二人は怪しい笑みを浮かべながら俺に近づいてきた。そして左右から俺の両腕をガシっと掴み、そのまま二人に挟まれる形で俺は連行されたのであった。

ちなみに案内役の騎士はそんな俺を見捨て、巻き込まれないようにそそくさと逃げて行った。この野郎、後で覚えとけよ。


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 アホ二人に無理矢理連行された俺は現在、帝城の敷地内にある近衛騎士団専用の訓練場にいる。詳しく言えば、訓練場の横にある観戦席から近衛騎士たちの剣戟や魔法の撃ち合いを見学している。


「凄まじいな」


団員は四十名ほどいるが、全員が冒険者でいうAランク以上の戦闘力を持っている。その中でもレオーネとカルロスは頭一つ抜けており、恐らくその戦闘力はSランク並みだ。


「へぇ~。騎士と魔法師の混成団なんだな」


近衛騎士団っていうもんだから、てっきり上位騎士の集まりかと思ってた。しかし、その理論だと近衛魔法師団も存在することになるので、その時点で矛盾している。


暫く見学していると、レオーネがニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。


「もしかして、退屈してるんじゃないか?」


「いや、まったく」


「そうか。じゃあ私と模擬戦でもするか!」


「木剣とか持ったら【星斬り】がガチギレするんだが...」


俺は再びレオーネに連行され、模擬戦に参加することになった。

レオーネは一度大きく手を叩き、それに気づいた近衛騎士たちは模擬戦を一時中断した。


「模擬戦を中断してすまんな。だがこれから私と『閃光』が模擬戦を行うから、全員観戦席に移れ。そこで見学だ」


おぉ!


なんだかんだで皆それを楽しみにしていたらしく、喜びの声を上げながら観戦席に向かった。

それを見た俺は模擬戦専用の木剣を手に取り、重さや長さ、握り心地を確かめた。もちろん長剣型である。


「それで、レオーネはどれを使うんだ?」


「一応どれでも使えるんだが、やはり一番得意なのはこれだな」


といって俺と同じ長剣型の木剣を手に取った。内乱の時に彼女が長槍を振るっているのを見たが、凄まじい技量とセンスだった。そのため、木槍を手に取ると思っていたので正直驚いた。


「まさか万能型か?」


「ああ、その通りだ」


万能型とは、騎士においての一種の完成型である。なんとなくレオーネが近衛騎士団長に選ばれた理由が分かった気がする。

そういえば彼女は魔法も得意だと聞いた。ということは、実質レオーネが帝都軍最強というわけだ。


楽しくなってきた。




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