第2部〈戦争の物語〉
第6章【学園二年次編】
第57話:あれから半年後
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
俺はケイルに見送られた後別邸の門を潜り、徒歩で帝立魔法騎士学園へ向かう。
季節は春になり、帝都に心地よい温風が吹き始めた。俺はそれを全身に浴びながら街路樹の木漏れ日の中を優雅に歩いている。
「徒歩で正解だったな」
今朝早起きしたのでせっかくなら歩いて向かおうと思い、馬車を断ったのである。
ちなみに今日は学園の始業式だ。もちろん俺は今年も特待生で、SS-1クラス。
「あいつらも特待生になれて本当によかった」
約三か月前に行われた期末試験で、リリー、オリビア、ルーカスの三人はいい成績を残し、特待生枠に食い込むことができた。一応俺とエドワードも互いに一位、二位を死守できたので安心して欲しい。
「これでやっと全員で授業をサボれる」
帝王祭の時みたいにまた全員でダンジョンに潜れるし、帝都内でショッピングだってできる。この特待生という仕組みを作った偉人に感謝しなければな。あとでエドワードに聞いてみよう。
「今思えば、去年は色々あったな」
まずはアルメリア連邦に単独で潜入し暴れまわった。次に帝王祭でソフィアとリリーの奮闘を見届けた。そして最後にセレナとムーたんの勧誘に成功し、ついでにタイラントも討伐した。あとエクスの彼女であるカミラもゲットできた。
まだアルメリア連邦との冷戦は続いているが、それもあと数年でどうにかなるだろう。できれば総力戦が始まる前にケジメを付けたいところである。
「また冒険者ユートが暗躍する日も近いのかもしれん」
あと今更だがアインズベルクは陞爵され、公爵になった。その関係で旧ゲルガー公爵領の半分が与えられ、現在は兄貴がそこを治めている。約一か月前に学園を卒業した兄貴は学院に進まずに、次期当主としての経験を積むため旧ゲルガー公爵領領都【オストルフ】で修行しているのである。余談だが、兄貴の許嫁のソフィアは学院に進学した。
「でも転移の魔法陣のおかげで毎日会えるだろうし、心配はいらないだろうな」
使用人から聞いた話によると兄貴は毎朝ゲッソリしているらしいので、まぁそういうことだろう。後でキングオークの睾丸から作られた精力剤を渡してやるか。ソフィアも喜びそうだしな。
そんなことを考えている間に、俺は帝立魔法騎士学園に到着した。
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二年棟にあるSS-1クラスに入ると、皆の目線が俺に釘付けになった。
自慢じゃないが、いつもの四人とシャーロット以外の生徒の顔と名前をイマイチよく覚えていないので、誰がいなくなって誰がSS-1に上がった新メンバーなのかわからん。
「アルテ久しぶりね!あとあんた遅いわよ!」
「おはようアルテ、久しぶりね」
「アルテ!またカッコよくなったな!」
「久しぶりだねアルテ!おはよ!」
「おはよう。皆久しぶりだな」
相変わらず騒がしい友人達との挨拶を済ませ、リリーの隣の席に腰を下ろした。
「そういえばあんた、アレの研究はどうなったの?」
「ああ、アレか。バッチリだぞ」
「じゃあ今度見せてくれるわよね?」
「もちろんだ」
この半年間俺は何をしていたのかというと、筆記試験の勉強と並行して通信の魔導具の研究を進めていたのである。つい一週間前に完成したので、あとでこれを陛下に渡して量産化してもらう予定だ。もしそれが成功すれば、万が一連邦との総力戦が始まってしまった場合に帝国は大きなアドバンテージを得ることができる。
「...というわけなんだ。だからあとでよろしく」(小声)
「うん、わかったよ。いつも帝国のためにありがとうね」(小声)
コソコソ話で未来の皇帝の言質を取ったところで、教師のアグノラが教室に入ってきた。
アグノラは教壇に立ち教室内を一通り見渡した後
「よーし、皆揃っているな」
「これから二年間このクラスの担任をさせてもらうアグノラだ。よろしく頼む!」
「今年は大体十人ほど入れ替わったから、とりあえず自己紹介をしてもらおうか。できるだけ詳しく頼む。さて、誰からにしようか」
「では僕からさせてもらおうかな」
去年と同じように、エドワードが名乗りを上げた。ナイスである。
「初めまして。僕はエドワード...」
とエドワードからルーカス、オリビア、リリーの順番に自己紹介をしていき、ついに俺の番が回ってきた。
「次は俺か。俺は【アルテ・フォン・アインズベルク】。アインズベルク公爵家次男だ。≪光≫の固有魔法が使える。あと一応剣術も嗜んでいる。よろしく」
去年は≪光≫魔法と聞いて全員が頭にハテナを浮かべていたが、今年は大丈夫なようだ。皆、「ああ、あの時のアレか」みたいな表情をしている。
そんなこんなで全員の自己紹介が終わり、アグノラが特待生制度や二年次に行われるイベントの説明を始めた。もちろん二年次にも帝王祭は開かれるし、野外演習があるのは知っている。だが聞いているかんじ、その他にも様々なイベントがあるみたいだ。
「へぇ。修学旅行なんてあるのか」
「どこに行くのかは決まっていないようだけど、楽しみね!」
「もしグループを作ることになったら、このメンバーで組みたいわね」
「馬車の旅も楽しみだぜ!」
「さすがに他国には行けないと思うけど、帝国内にも観光地は沢山あるからね!」
そしてアグノラの説明が終わり、俺たちは教室を出て食堂に向かった。
まだお昼ではないので各々がお茶やスイーツを注文しテーブルに座る。
「それで、晴れて全員が特待生になったわけだが、これから皆どうするんだ?」
「それについてなんだけど、実は企んでることがあるのよね」
「そうそう!あんたが教室に来る前に、皆でまたダンジョンに潜ろうって話をしてたのよ!」
「帝王祭の前に行った小角牛のダンジョンめっちゃ楽しかったしな!」
「アルテがいれば僕も行けるからね!」
「じゃあ俺とエクスも暇潰しに参加させてもらおう」
二年も楽しくなりそうで良かった。
皆で食堂で一服した後、帰るために学園の入り口に向かっていると
「姉上ー!」
「ん?あらフィルじゃないの」
オリビアの弟らしき少年が声をかけてきた。
ここでエドワードが
「この子、もしかしてオリビアの弟さん?」
「ええ。私の一個下でブリッジ伯爵家長男のフィルよ」
「あたしはよくオリビアの家に遊びに行ってるから、知ってるわ」
「オリビア姉上の弟のフィルです。よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくな!」
「フィル君よろしくね!」
「はい!では先に馬車に行ってますね、姉上!」
「わかったわ」
フィルはそのまま駆け足でブリッジ伯爵家の紋章が付いている馬車に向かった。
「なぜか俺が挨拶した時にガンを飛ばされたのだが」
「えーっと。言いづらいんだけど、あの子ちょっと前から【閃光】をライバル視しているのよね」
「オリビアが実家でアルテの話ばかりしてるからでしょ、それ」
「確かにフィル君はどう見てもお姉ちゃん大好きっ子だもんね!」
「所謂シスコンってやつだな!」
ということらしい。別にライバル視されてること自体はどうでもいい。それよりも重要なのはフィルがシスコンということである。この世界にも本当にシスコンは存在したんだな。(自覚無し)
俺が忘れないように、あの少年をツンデレリリーと共に希少種族リストに入れておこう。
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