第53話:神話の戦い
ついに帝都軍&第二皇子派閥軍vs強硬派軍の戦いが幕を下ろした。またこの内乱の発端であるゲルガー公爵を捕らえ怪我人の処置も終わったので、現在タイラント大平原から帝都に帰るところである。
その時、俺は何か違和感を感じとった。
「?」
「アルテ、どうしたの?」
「いや、今一瞬タイラント大平原の雰囲気が変わった気がしてな」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ」
「まぁ気のせいだろ」
と言って、再び帝都の方へ振り向いた瞬間
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
タイラント大平原に地鳴りが響いた。兵士たちはバランスを崩して転倒し、騎馬でさえバランスを保つのがやっとのレベル。
「!?」
「ねぇアルテ!僕なんだかとっても嫌な予感がするんだけど!?」
「同感だ」
地鳴りは十数秒間続いた後、ようやく止まった。それと同時に地面の揺れも収まり、兵士たちが起き上がった。本来なら騒ぎになるところだが、ここにいる全員が不穏な気配を感じており逆に言葉が出ない様子。
俺は静まり返った大平原を見渡した。すると、大平原中心部の地面が盛り上がっていることに気が付いた。
そして
グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!
世界に「絶望」が顕現した。
===========================================
その瞬間、俺は光速思考を起動し世界を停止させた。
なんだあの化け物は。まだ半分地面に埋もれているが、地上に出ている部分だけでも目算百メートルはある。あれは恐らく初代皇帝が討伐したということになっていた「タイラント」だろう。タイラントはよく見れば全身が鱗で覆われている。ということはSSランクの地龍だと推測できる。
あの怪物はここから一キロほど離れた場所に出現したので、俺が相手をすればその間に軍は平原を抜けられるかもしれない。
ここで一度光速思考を解除し
「おいエドワード!俺があの化け物の相手をするから全軍後退させろ!」
「わ、わかった!そのまま大平原を抜ければどうにか...」
とその時、膨大な魔力を探知した。すぐそちらの方へ振り返るとタイラントが口を大きく開けてブレスを放ったのが見えた。また魔力の大きさは終焉級以上。
「光速思考」【閃光鎧】
俺は一瞬で怪物と軍の中間地点に移動し、唱える
【天叢雲剣】
俺の手から巨大な剣の形をした閃光が放たれた。
二つの終焉級の魔法がぶつかり合い、その衝撃でタイラント大平原が地獄と化した。
光探知を起動しているので、後ろにいるエドワード達がギリギリ無事なことは確認済みだが問題はこの後だ。これ以上魔法を撃ち合えば、大平原どころか周囲の貴族領に影響が及んでしまう。
そのため俺は腰に差してある【星斬り】を握りしめ、居合斬りの姿勢を取る。
全身を研ぎ澄ませ、五感を高める。闘気を全開にし、星斬りと己の魔力を共鳴させる。
すると星斬りから静かな魔力が俺に流れ込んできた。
勝負は一瞬。足にグッと力を込め、前傾姿勢のままその時を待つ。
今だ。
刹那、俺は地面を蹴りタイラントまで一気に距離を詰める。
【次元斬り】
ザシュッ
「!?」
一応斬れはしたのだが、タイラントの纏っている魔力が膨大過ぎてまったく手ごたえが無かった。いくら何でも防御力が高すぎる。これは打撃も効かなさそうである。
また、光速思考を起動したまま「天叢雲剣」と「次元斬り」を続けざまに放ったので、脳への負担が重すぎる。さすがに解除し、一度距離を取った方がよさそうだな。
そして俺は光速思考を解除し後ろに跳んだのだが、自分の右から怪物の尻尾が迫ってきていることに気付いた。
咄嗟に腕をクロスさせ、防御の構えを取る。
「は?」
鈍い打撃音を辺りに響かせながら俺は吹き飛ばされた。宙を飛んでいる間に何十本もの木をなぎ倒し続け、ようやく止まることができた。大体数百メートルは飛ばされたと思う。
「痛ってぇ...」
休む暇なく、再び膨大な魔力を感知した。またその魔力は空に向けて放たれた。
「今度は何をするつもりなんだ?」
俺は青く澄み渡った大空を見上げた。あいつが一体どこに魔力を飛ばしたのかは知らないが、空に向かって放ったのだから、どうせ空から何かが降ってくるのだろう。
「まさか隕石が降ってきたりはしないよな?...」
いや、終焉級の魔法を操るSSランクの地龍ならあり得る話だ。超上空に巨大な岩を生み出し、落下させるくらい普通にしてきそうである。
約二十秒後
「はぁ...やっぱり」
現在俺は全力で周囲の光を吸収しているところだ。遠くから見れば、タイラント大平原の周辺だけ夜になっていると思う。あれが地面に直撃すれば、間違いなくここら一帯がクレーターになり、俺とエクスとタイラント以外の全生物が消滅する。
今攻撃されたらヤバいが、終焉級の魔法を連発したタイラントは疲れて暫く動けないと考えられるので、今は自分の魔法に集中する。
ついに上空五百メートルのところまで隕石が近づいてきたので
【天照】
前回は上から下に放ったのだが、今回は下から上に放つ。もちろん退避中のエドワード達を巻き込まないように計算して。
すぐに隕石は消滅し、周りに浮いていた雲も蒸発した。
グオォォォォォォォ
するとタイラントが咆哮を上げながらこちらに突進してきた。どうやら何度魔法を撃っても俺に相殺されてしまうことに気付いたのだろう。ちなみに星斬りで斬った傷は完治している。凄まじい再生能力を持っているようだ。
「いいぞ。お前の我が儘に付き合ってやる」
俺はニヤリと笑い、星斬りを抜刀した。生まれて初めての全力戦闘に心が躍っている。全身からアドレナリンがドバドバと溢れ出し、自然と「脳」が魔法から近接戦闘に切り替わっていく。
タイラントに急接近し、四本の足首すべてを斬る。しかし、傷が浅かったようですぐに再生されてしまう。次は両目に「三日月」を飛ばしたが避けられ、前足の一振りで吹き飛ばされた。
俺は口から血を吐きながら地面に片膝を突き、顔を上げて、突進してくるタイラントを見ながら呟く。
「ゲホッ。まったく...回復薬を飲む暇さえ与えてくれないとは」
なんて楽しいのだろう。
俺は再び急接近し、タイラントの猛攻を避けながら隙を見て反撃を続ける。時には「柔の剣」で受け流し、時には「攻めの剣」で攻撃を仕掛ける。
この怪物は歩くだけで地面を陥没させ、大木をなぎ倒す。まさに歩く災害である。魔力量も桁違いで、表現するなら「小さい星」である。文字通り、他の生物とは格が違う。
俺は何度も吹き飛ばされながら、諦めずに反撃を続ける。もう戦闘が始まってからどのくらい経ったのかも覚えていない。意識が朦朧とするが何とか踏ん張り、血反吐を吐きながら星斬りを振るい続ける。タイラントはすぐに傷を再生させているが、たぶんダメージは溜まっているはず。その証拠に初めと比べて動きが鈍くなっている。
訳あって光速思考は使えないし、光探知でエドワード達を確認する余裕もない。頼れるのは【閃光鎧】のみ。
震える手で星斬りを持ち、タイラントと睨み合う。
ここで俺が負ければ、こいつは帝国中で暴れまわり沢山の人々が犠牲になる。だから絶対に殺さなければいけない。この怪物は終焉級の魔法をすでに二回撃ち、先ほどの近接戦でもかなり魔力を消耗したはず。これなら俺の魔法が効くかもしれない。
星斬りを鞘に納め、闘気を全身から放つ。タイラントもそれに気づいて次の一撃に備えている。俺はあえてゆっくりと接近し、相手の攻撃を誘う。
タイラントが前足の大振りで俺を吹き飛ばそうとした瞬間、【閃光鎧】を全開にし光の速度で懐に潜り込む。
怪物は姿勢を崩したままの状態なので、俺は【閃光鎧】を全開にした状態で思いっきり足を振り上げた。足の筋肉が悲鳴を上げ、骨にヒビが入ったがそんなことは気にせず、そのままタイラントを上空へ吹き飛ばす。
俺は血だらけでボロボロの身体に鞭を打って、地面を蹴った。
そして空中で光速思考を起動し、全力で魔力を練り上げる。しかし、どの魔法を放っても仕留められる気がしない。どうする、どうすればいい。
俺以外が完全に停止した世界で考え続けていた時、パッとあることを思い出した。それは前世で少しだけ学んだことのある知識で「光」の中で最も「光度」の高い物理現象。
その名は「ガンマ線バースト」。ガンマ線バーストとは膨大なエネルギーがガンマ線として数秒から数時間に渡って閃光のように放出される現象である。この破壊力は、かの超新星爆発と並び宇宙最強クラス。「小さな星」くらいなら跡形も無く消滅させることができるだろう。
やるしかない。俺は周りに影響が出ないギリギリのレベルに調整するために光速思考で魔法の演算を続ける。もしこのレベルの魔法を放つことになった場合、光速思考を限界まで駆使しなければならないので、先ほどまでの近接戦闘では光速思考を使わずに脳を休ませていたのだ。
脳が焼けるように熱い。先ほどから頭痛が止まらない。停止した時間の中で歯を食いしばって魔法の演算をする。今回の戦いでは魔力も節約していた上に戦いの最中ずっと光を吸収し続けていたので、この魔法を実現できるかは演算結果と俺のセンスで決まる。
数時間後、やっと演算が終わった。
俺は今まで練り続けた魔力を両手に集め、タイラントに向ける。イメージするのは前世テレビで見たガンマ線バースト。魔力操作で光をありったけ収束させ、準備完了。
放つ前に大切な家族や友人たちを思い浮かべる。絶対に失敗するわけにはいけない。
そして
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
【絢爛の光芒(ケンランノコウボウ)】
その日、終焉級を超えた「神話級」の魔法が世界に誕生した。
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タイラントを消滅させたはいいものの、魔法を撃った勢いで現在上空数百メートルから落下中である。かろうじて「光鎧」は起動できているが、このまま地面に激突すれば間違いなく気を失ってしまうだろう。
「よく見たら血まみれだし足の骨は折れてるし、身体中ボロボロだな」
俺は意識を失わないように堪えるが、だんだん視界がボヤけていく。
「まだ婚約者を決めてないから死ぬわけにはいかん」
今まで黙っていたが、俺だって普通に結婚とかしてみたい。前世では二十五歳で事故死したので、結婚はしてないはずだし。
なんて考えていると、従魔契約のパスのおかげで下にエクスがいることがわかったので、安心して意識を手放した。
「あとは...頼んだぞ...エ..クス...」
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