第52話:内乱Ⅱ

~サイド、ゲルガー公爵~


斥候からの情報では、帝都軍と第二皇子派閥軍はこの先にあるタイラント大平原に陣を構えている。奴らは総勢十六万の大軍。それに比べて我々強硬派軍は数も質も圧倒的に不利。しかし勝算が無いわけではない。それは何故かというと来るべき決戦の時の為に、多額の資金をつぎ込んで他国から輸入したアレを全て持ってきているからである。


数時間後我が軍はタイラント大平原に到着し、すぐに敵陣が視界に入った。


「ん?あの陣構えは一体何なのだ?」


敵の元帥、又は大将が誰なのかは知らんが、もしかして気でも狂ったのか?こちらから見るとV字型の不思議な陣を敷き、その後ろには二つの小さな陣が構えている。


「おい、騎士団長。あの陣形を知っているか?」


「いえ、知りません。それにしても相手の大将は相当頭が弱いようですな。あんなの端から崩すか、もしくは中心目掛けて全軍で突撃を仕掛けるかすれば余裕で破壊できますよ。防御力も攻撃力も低そうな陣形なんて逆によく思いつきましたね」


「くくく、まったくだ」


どうやら勝利の女神はこちらに微笑んだようである。やはり皇帝に相応しいのはこの私であって、ルイスとかいう凡人などでは無かった。


「さて、どうやって弄んでやろうか」


と呟いたとき、帝都魔法師団大将の号令がタイラント大平原に響いた。


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「撃てぇぇぇい!!!!!」


ドォォォォン


その号令により、飛翼の陣の両端から数千数万の上級魔法が放たれた。よく見れば超級魔法もチラホラと混ざっている。

敵軍の魔法師達も魔法を放つが、相殺しきれず普通に被弾している。見た感じ今ので結構敵の数を削れたようだ。


「よし、開幕の魔法合戦は上手くいったね。でもなんで敵軍は射程内に入った時すぐに号令をかけなかったのかな?」


「俺たちの陣形をみて困惑してたんじゃないか?いや、でも余裕ぶっこいて号令が遅れた可能性も捨てきれん」


「なんだか後者な気がするよ。相手の大将はあの髭デブだし、どうせ『どうやって弄んでやろう』とか言ってたんじゃないかな?」


「それだわ」


「でも本番はこれからだよ!」


強硬派軍はそれでも怯まず、今度はあちらから魔法を放ってきた。狙いは恐らく両翼の端。どうやら端から崩していく作戦にしたらしい。

しかし、それは罠である。なぜならうちには船一隻分の反射結界を貼れる覚醒者がいるからな。こちら側の本陣から見て左端に≪反射≫持ちを配置し、右側には防御力の高い〈土〉魔法の魔法師を大量に配置してある。


【反射結界】


「「「「「アースウォール!」」」」」


左端では数千数万の上級魔法を跳ね返し、右端では強硬な土の壁で防御をし続ける。俺の予想だと、このまま暫く拮抗状態が続けば相手は痺れを切らし作戦を変更してくるはず。


数十分後ついに敵の魔法が止み、


「アルテ!ついに敵が全軍で中心部に突撃してきたよ!」


「よし、今のところは作戦通りだな。後は二本の矛に任せるしかない」


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~サイド、レオーネ近衛騎士団長~


「そろそろ合図があるはずだ!お前ら気を引き締めろ!」


「「「「はっ」」」」


私が近衛騎士団に入ってからもう十年以上戦争に参加していない。戦争なんて起こらない方が良いということは理解しているのだが、それでも退屈な日が続けば自然と身体は疼いてしまう。だが今回は元帥であるエドワード第二皇子様に龍鱗の陣の先頭を任じられた。あの夜、自室で狂喜乱舞したのを今でも覚えている。


私はギュッと長槍を握りしめ、突撃の合図を待つ。

この戦場を共に駆けるのは信頼できる部下たちと、長年ともに歩んできた愛馬だ。これ以上に求めるものはない。


そして、本陣の上空に合図の〈火〉魔法が撃ち上げられた。


ドォン!


その瞬間、目の前の兵士たちが左右に移動し陣に大きな隙間が空いた。


「突撃ぃぃぃぃ!!!」


オォォォォォ!


敵軍には我が魔法師団の魔法が次々と浴びせられ、順調に進軍速度を落としている。この陣形を考えた第二皇子様は本当に凄いお方だ。

敵軍はすぐさまこちらに気付き、苦し紛れで魔法を放ってきた。


「右に曲がって避けろ!!!」


我が軍の騎馬隊は鍛え上げられているので、戦場を風のように駆け抜けながら魔法を避けた。すでに敵の魔法師団はジリ貧なので追撃は警戒しなくて大丈夫だろう。目算で敵軍まであと三十秒と言ったところか。このまま駆けて突撃を仕掛けたほうがいいな。


三十秒後


「喰らいつくせぇぇぇ!」


ウォォォォォォォォォォ!!!!!!


敵は盾を構えているが、そんなのお構いなしに体当たりで蹴散らし、敵の歩兵軍に穴をあける。私の後ろには続々と騎馬隊が付いてきており今のところ順調だ。


馬上から目にも止まらぬ速さで長槍を突き、次々と敵兵に穴を開けていく。たまに飛んでくる魔法を器用に避けながら一人、また一人。


己の血が沸々と滾る。全身が汗と返り血に塗れ、たまにぼやける目を擦りながら長槍を突き続ける。もう何人屠ったのかも覚えていない。そう、私が求めていたのはこれだ。荒く息を吐きながら次の敵を見据える。


「ハァ、ハァ」


とその時、副団長のカルロスが大声を上げた。


「レオーネ団長!危ない!」


「?」


何やら風を切るような音が敵本陣の方から聞こえる。反射でそちらの方を向くと、なぜか魔導大砲の弾が私に向かって飛んできているのを確認した。それは自分まであと十メートルくらいのところまで迫ってきている。このまま被弾すれば間違いなく死ぬだろう。


刹那、世界の動きがスローになった。これは近衛騎士団に入ってから何度か経験したことがある。そのまま私は流れるような動きで長槍を構え、魔導大砲の弾の横を長槍の先端で小突き、軌道をずらした。すると弾は私の兜を掠めて遥か彼方へ飛んでいった。


その勢いで兜が脱げ、真っ赤な長髪がバサッと宙を舞った。


「え?レオーネ団長今何をしたんですか?」


「気にするな。そんなことより本陣に向かうぞ」


そう言って後ろを振り返れば、騎馬隊の面々が満身創痍の状態で息を切らしていた。また我が軍の歩兵隊も到着したようなので、これ以上後ろを気にする必要もない。


「お前ら戦いながら聞け!これから向かう敵の本陣には魔導大砲が設置されている!もし仲間に被弾しても決して振り返るな!また己の手足が千切れようとも、愛馬が力尽きようとも進み続けろ!地べたを這いながら敵に喰らいつけ!」


「「「「はっ!」」」」


「行くぞ!!!帝国のために!!!」


「帝国のために!!!!!!!」


ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!


ここにきて再び味方のボルテージが一気に上がり、その勢いのまま突撃を仕掛けた。

次々と魔導大砲が放たれ、その度に味方の数が減っていく。


と、その時アードルフ大将率いる騎馬隊が右の敵軍を潜り抜け、中から飛び出してきた。


「ア、アードルフ大将!?」


「レオーネ!俺たちを盾にして進め!」


アードルフ大将達は駆けながら私たちの盾になるように陣形を整えた。


「恩に着る!」


周りからたくさん血しぶきが舞い、悲痛な叫び声も聞こえる。騎兵の数がどんどん減っていく。それでも私は決して振り返らず歯を食いしばりながら長槍を振るい続けた。


そしてついに


「ハァ、ハァ。ようやく突破できたか」


「フゥ...。ええ、やっとですね」


多くの犠牲を出しながら本陣の護りを突破することができた。そして現在目の前には腰を抜かしたゲルガー公爵と、それを護るように幹部数名が剣を構えていた。


「い、いったい何なのだお前らは!?」


「その汚い口を閉じろクズが。貴様のせいで何人の人々が犠牲になったと思ってる」


「黙れ!どいつもこいつも私の邪魔をしおって...。次はお前かレオーネ!」


「いいからさっさと降伏しろ。今降伏するなら幹部共の命は助けるように陛下に進言しといてやる。さぁどうする?」


と問いかけると幹部共は剣を地面に落とし、諦めた表情で俯いた。


「よし。ではカルロス、お前が勝ち鬨を上げろ」


「了解です」


カルロスは返事をした後マジックバッグから拡声の魔道具を取り出し


「全軍戦いをやめろ!此度の戦いは討伐軍が勝利した!もう一度宣言する!強硬派軍が降伏し、討伐軍が勝利した!!!」


ウォォォォォォォォォォォ!!!!!


直後、タイラント大平原に帝都軍&第二皇子派閥軍の兵士たちの叫び声が響いた。


内乱が終わり、すぐさま互いの医療班が怪我人の手当てを始めた。


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「思ったよりも苦戦したが、無事勝てたな」


「そうだね。魔導大砲を持ってくるとか予想外過ぎだよ」


「レオーネ団長とアードルフ大将がいなかったら犠牲者が倍に増えてたと思う」


「だよね。彼女たちには感謝してもしきれないよ」


「エドワード、今回の兵士たちの覚悟と熱意を忘れるんじゃないぞ」


「うん、もちろん」


レオーネ率いる騎馬隊は魔導大砲の被弾を受けながらも決して怯まずに敵本陣まで駆け抜けた。その前にレオーネが号令で味方を鼓舞させたのも知っている。なぜならその時の彼女の猛々しい咆哮が遠く離れたここまで聞こえてきたからだ。また、自ら盾となり魔導大砲の被弾を受け続けたアードルフ大将も素晴らしい活躍を見せてくれた。今回のMVPは彼女たちで決定である。


「まずは怪我人の手当てからだな」


「そうだね。僕たちも協力しないと」


今更だがなぜ今回俺が戦いに参加しなかったのかというと、もし俺が参加すればエドワードの功績が薄まってしまうからだ。その場合いくらエドワードが元帥として活躍しても、どうせ【閃光】がいたから勝てただけ、と思われる可能性がある。

それを避けるために元帥補佐としてジッとしていたのだが、今回犠牲になった者達のことを考えると本当は参加したほうが良かったのではないかと考えてしまう自分がいる。


「大分落ち着いてきたし、そろそろあの豚を回収して帝都に帰るか」


「うん!怪我人が多いからできるだけゆっくり帰ろうか」


「ああ」


ついに内乱が終わったので、あとは帰るだけである。ちなみに強硬派軍の兵士たちは幹部以外、このまま地元に帰らせる予定だ。


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~???~


ドクン、ドクン...ドクン、ドクン...


ピキピキ...


内乱の決着が付いて討伐軍が踵を返そうとした時、タイラント大平原の地下で何かが解き放たれようとしていた。




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