第51話:内乱Ⅰ

「じゃあ行ってくる」


「こっちは大丈夫だから安心して行ってこい」


「しっかり第二皇子様を護ってくるのよ」


「こっちは私に任せてね!」


「絶対に油断だけはしちゃ駄目だよ!」


「行ってらっしゃいませアル様」


「こっちは私とムーたんに任せてくださいね!」


帝都軍&第二皇子派閥軍の出陣当日、俺は家族たちに見送られ帝城に向かった。

俺たちがタイラント大平原で謀反軍と交戦している最中、アルメリア連邦軍が攻めてくるかもしれない。そのため、内乱が終わるまでアインズベルクとランパードは厳戒態勢を敷くことになっている。諜報部からの情報だと連邦は特にこれといった動きは見せていないのだが、飛竜部隊の帝都襲撃のようなことを企んでいるかもしれないので注意しなければいけない。相手にはあの面倒くさいでお馴染みの≪転移≫の覚醒者もいるのでな。


しかしバルクッドにはSSランク級のセレナもいれば、【鬼神】の異名を持つ親父だっている。その上、陸では大陸最強といっても過言ではないアインズベルク侯爵軍がいるのである。バルクッド自体も城郭都市として護りに特化しているので、最悪時間を稼いでくれれば俺が駆け付けられる。冒険者ギルドの奴らも獅子奮迅の活躍を見せてくれるに違いない。一般的な冒険者は内乱には基本参加しないが、他国との戦争に関しては別である。


なぜかレイまで戦う気になっているが、彼女は全属性の上級魔法を習得済みなので戦場に立つ資格は一応ある。だがレイはもちろんお家待機なので安心して欲しい。


「よし、見えてきたぞエクス」


「ブルルル」


帝城の入り口に到着し門番に【龍紋】を見せて門を潜ると、すでに案内役の騎士がスタンバイしていたので誘導に従ってエドワードの元へ向かう。ノックしてから部屋に入ると、中にはいつものメンバーとエドワードがいた。またエドワードは軍服に身を包み、その上から元帥のマントを羽織っていた。


「お待たせしました」


「気にしなくてよいぞ。それよりもエドを頼む」


「はい。任せてください」


それから暫く情報のやり取りをした後、エドワードを連れてエクスの元へ向かった。


「エドワード、なかなか様になっているじゃないか」


「でしょ!?実は僕もさっき鏡で自分の姿を見てビビッときた」


「このままエクスに騎乗すれば出陣のパレードが大いに盛り上がりそうだな」


「そうだね、黄色い声援が飛び交うこと間違いなしだね!」


「そうだな」


元帥が緊張で堅くなっていると、それが周りの幹部や兵士たちに伝搬してしまう可能性があるので少し心配していたのだが、思ったよりも元気そうでよかった。本人の中で何かが吹っ切れたのかもしれない。

ちなみに内乱が終わるまで俺は別の馬に騎乗する。いつもエクスに乗っているので、できるだけ大きくて体格の良い軍馬を頼んでおいた。うちのエクスはどこかのヤンデレソードと違って嫉妬でぶちギレたりしないのである。どこかのヤンデレソードと違って(重要なので二回言った)。


なんて考えていると【星斬り】から不穏な雰囲気を感じたので、さっさとエクスと合流して帝都軍の方に向かう。


「なんというか、圧巻だね!」


「ああ」


やっぱりエクスはデカいから目立つな。騎士や魔法師達の視線が釘付けになっている。これから壇上に陛下が上がり演説を始める予定なので、横で鼻息を荒くしている諸葛亮を宥めながら待つ。すると


「アルテ様、お待たせいたしました。こちらが今回騎乗していただく軍馬になります」


「ご苦労」


エクスと比べればポニーのようだが、軍馬の中ではトップクラスの大きさを誇る白馬を騎士が連れてきてくれた。魔力の感じからしてこいつは魔物の血を引いているかもしれない。この世界では魔物の血を引く軍馬は割とポピュラーなので、なんら不思議ではない。なぜかというと、そちらの方が体格が大きく体力も多い傾向にあるので、軍馬に適しているからである。


「ブルル...」


エクスが白馬をジッと見ている。他の馬に興味を持つなんて珍しいな。確かにこの白馬はメスなのだが、まさか...これは恋の予感?

さすがにここでエクスに何か言うような野暮な真似はしない。俺の思い違いかもしれないしな。


と、そこで


「陛下だ...」


「凛々しいな」


「我らの誇りだ」


ザワザワ


ようやく陛下が壇上に上がり拡声の魔導具を用いて演説を始めたので、俺たちは真剣に耳を傾ける。ここで軍全体の士気を上げることができればこの先が楽になる。


「カナン大帝国の皇帝【ルイス・ブレア・ルーク・カナン】である。此度は強硬派筆頭のゲルガー公爵が帝位簒奪を目論見、総勢九万人に及ぶ謀反軍を結成した。そのため我ら帝都軍は第二皇子派閥軍と協力し、タイラント大平原にてこれを迎え撃たなければならない。数と質ではこちらが圧倒しているが、戦争は軍略や士気で簡単に覆るものだ。だからくれぐれも油断だけはするな」


陛下はここで一息入れて


「諸君には帝都に守るべき家族や恋人、友人がいるはず。だが敵の大将はあのゲルガー公爵。もしここを占領されれば何をされるかわからない」


さらに一息入れ、覇気を全開にして


「戦え!!!我らが守るべき者たちのために!!!!!」


「「「「「はっ!」」」」」


「出陣!!」


オオォ!


陛下の演説で士気が爆発した帝都軍は、その勢いのまま帝城の門を潜り行軍を始めた。大将達が軍の先頭に立ち、元帥のエドワードとその補佐である俺は最後尾についた。ちなみに第二皇子派閥軍と合流するのは帝都を出てからである。そして大通りに出れば、帝都軍を一目見ようと集まった民衆達が左右から声援を送っていた。控えめに言って大盛り上がりである。


「きゃー!エドワード様ぁー!」


「第二皇子様が乗ってるのってエクスじゃないか?ってことは...」


「おい、まさかあれ【閃光】じゃないか?」


「これで勝利は確実だな!」


「帝国万歳!帝都軍万歳!」


エドワードがめっちゃノリノリで手を振っている。エドワードはその整った顔や優しい口調、陽気な性格が相まって帝都では大人気らしい。あとうちの家族が帝都で買い物をする時によくエクスを連れていくので、最近では帝都内でもエクスは人気らしい。人気コンビ爆誕である。



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 帝都の正門を潜った後暫く行軍し、無事第二皇子派閥軍と合流することができた。このまま問題なく進めば丁度四日後にはタイラント大平原に到着する予定だ。それまで普通に暇である。


「ねぇアルテ。タイラント大平原の語源って知ってる?」


「確か昔タイラントっていうSSランクの魔物が住み着いていたから、そう呼ばれるようになったんだっけか?」


「そうそう。言い伝えだと、それを討伐したのがカナン大帝国の初代皇帝なんだよ」


「え?もしそれが本当ならもっと公に知られていても良いと思うんだが」


「実はこれ、代々皇族だけに伝えられてきた伝説なんだ」


「そんな大事なこと俺に言ってもよかったのか?」


「たぶん大丈夫でしょ!」


「そうだな」


へぇ~。カナン大帝国が興る以前にそんなことがあったのか。それにしてもなぜ秘匿されているのだろう。絵本にして売り出したら大儲けできそうなのにな。


ここでエドワードが


「なんで秘密にされているんだと思う?」


「さぁ、なんでだろうな。陛下には聞いてないのか?」


「一応聞いたことはあるんだけど...」


「知らなかったわけだな」


「そうそう」


じゃあ帝城にある禁書庫にも、それに纏わる文献は置いてないのだろう。謎は深まるばかりである。


その夜


「僕、天幕で寝るの初めてなんだ~」


「いいからさっさと寝ろ。明日も早いんだぞ」


「はいはい」


初めての野営でテンションがぶち上がりしているエドワードを無理やり寝かしつけた後、俺はいつも通りエクスの腹に背中を預け、外套のフードを深く被ってから目を閉じた。そのすぐそばでは俺がお世話になっている白馬も横になって寝ている。


今日一日を通して、エクスがかなりこの白馬を気に入っていることがわかった。佇まいも落ち着いているし、体格も十分。聡明な目をしている上に、優しい雰囲気を感じるのでエクスが気に入る理由もわかる。今回の内乱が終わった後陛下から褒美を貰う約束をしているので、この白馬を貰おう。どうやらまた果樹園の住人が増えそうである。


もしかしたら俺がエクスベイビーを拝める日はそう遠くないのかもしれない。そうと決まればこの白馬にも名前が必要だな。後で決めよう。



翌朝


「おい起きろ、寝坊助。従者が困ってるぞ」


「おはよー」


ついでに俺の朝食も天幕に用意してもらったので、お礼にうちの果樹園で収穫した果物を渡しといた。どこかの寝坊助も食べたそうにしていたので葡萄系の果物を口に放り込んでやった後、エクスと白馬の様子を見に行った。


「うむ。順調そうで何よりだ」


「もしかしてエクスに春が?」


「そうだ」


「まさかアルテが先を越されるとはね」


「そういうエドワードはどうなんだ?」


「婚約者?まだいないけど...」


「ふっ」


「なんか鼻で笑ってるけど、人の事言えないからね?」



三日後、俺たちは決戦の地であるタイラント大平原に無事到着した。相変わらずエクスは白馬とイチャイチャしている。いいぞ、もっとやれ。


偵察部隊の報告だと、強硬派軍は二日後にここに到着するらしいので、それまでは天幕の中で戦略会議という名の最終確認を行っていた。もちろんすでに陣は構えている。

現在飛翼の陣を展開し、その両翼の後ろに龍鱗の陣が構えている。二本の矛の先頭で戦うのは近衛騎士団団長レオーネとアードルフ大将なので強硬派軍が現れたらすぐに馬を走らせて陣の元に向かわなければならない。ちなみに龍鱗の陣は騎馬隊のみで構成されている。スピードが命だからな。


今回レオーネとアードルフは騎兵突撃を仕掛けるので二人とも長槍を使用するみたいだ。この二人で軽く模擬戦をしていたので見学させてもらったのだが、マジでやばかった。さすがとしか言いようがない。


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 タイラント大平原に到着し、陣を構えてから二日後の昼


「エドワード元帥!ついに強硬派軍が現れました!」


「全員配置につけ!」


この世界では宣戦布告はおろか、交戦前に大将同士が前に出て互いに降伏を促すようなことはしない。まぁ簡単に言えば、魔法の射程内に入れば勝手に戦いが始まる。


ここで魔法師団大将であるエルフの号令がタイラント大平原に響いた。


「撃てぇぇぇい!!!!!」




ついに帝都軍&第二皇子派閥軍vs強硬派軍の戦いの火蓋が切られた。






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