第50話:最高幹部会議
ムーたん夢のマイホームが完成してから数日後
「よっ元帥」
「...」
「どうした?」
「この裏切者ぉ!」
目の前でエドワードが顔を真っ赤にしてプンプン怒っている。理由は言うまでもないだろう。なぜか俺が裏切者になっているが、まぁそれは置いておこう。実は今日帝都軍の基地で最高幹部会議が開かれる日なので、現在帝城までエドワードを迎えに来たところである。
そして駄々をこねる元帥を無理やり引きずって帝都軍基地までやってきた。
「そういえばここには初めて来るんだよな」
「...」
「ほら、ビシッとしろ。そんなんじゃ皇帝になるなんて夢のまた夢だぞ」
「わ、わかったよ。さすがにそろそろ覚悟を決めないと他の皆に申し訳ないからね。よしっ!」
エドワードは両手で顔を叩き、気合を入れた。
「よし、それでいい」
案内役の騎士に付いて行き、会議室に到着。普通にドアを開いて中に入ると、すでに八人の最高幹部が円卓を囲んでいた。全員たくさんのバッジをつけた軍服を着ている。目に見えない覇気のようなものをビシビシと感じるので、それだけで全員が歴戦の猛者だということが理解できる。
うちの親父とかフレイヤさんの方が凄いけど。
メンバーは帝都魔法師団の大将三名に帝都騎士団の大将三名、それと近衛騎士団団長のレオーネと副団長のカルロスに、元帥のエドワードと元帥補佐の俺を足してちょうど十人。ちなみに今回の戦いを指揮するのは主に帝都軍の最高幹部のようなので、第二皇子派閥軍のお偉いさんは呼ばれていない。
「やっときたか」
どっかの誰かさんが駄々をこねるから少し遅れてしまったようだ。それに関してはこちらが悪いので素直に謝った後、自己紹介も無しで早速会議が始まった。俺は大将六名の名前とか全然知らないんだが、まぁいいか。あっちは俺の事知ってるみたいだし。
現在十人で円卓を囲んでいる。円卓の上には〈土〉魔法で精巧に作られた模型と複数の駒がある。もちろん模型のモデルはタイラント大草原で、駒は軍隊を表している。
タイラント大草原の両端には一応森が存在するのだが、「大」という言葉が表しているようにこの草原は非常に広い。そのためかなり見晴らしが良いので、変に奇襲部隊などを気にしなくても大丈夫のようだ。また俺たちは数の有利を存分に発揮できる。
この世界の戦争は主に魔法の撃ち合いから始まる。次に魔力が尽きた方の歩兵団や騎馬隊が突撃を仕掛け、そこから剣や槍を用いての白兵戦が始まる。どちらかの元帥が討ち取られても片方が降伏しない限り、基本的に戦いは終わらない。
そして忘れてはいけない。帝都軍には≪反射≫、≪浮遊≫、≪封印≫持ちの覚醒者がいることを。
「うちに≪反射≫持ちがいるなら最初の魔法合戦で多少は有利に運べたりしないのか?」
俺が疑問を述べると、ウサ耳を生やした巨体の獣人のおっさんが
「いや、≪反射≫持ちが張れる反射結界は精々船一隻分だから、今回のように数十万の魔法が飛び交う戦いの時はあまり期待できん」
「なるほど、≪封印≫持ちは置いといて≪浮遊≫持ちは偵察部隊に配属されるんだろ?」
「そうだ。空からの偵察は非常に有効だからな」
耳をピョコピョコしながら説明してくれた。ちょっと面白いな。後でこのおっさんの名前を聞いておこう。ちょうど帝都軍の上層部に一人くらい知り合いが欲しかったところなのだ。と言ってもウサ耳のおっさんの階級は実質トップである大将なので、この先変な厄介ごとに巻き込まれる可能性は大である。
次に帝都魔法師団大将のエルフの女性魔法師が
「強硬派軍が帝都に行軍する際には必ずタイラント大草原を通過しなければいけないから、私たちは陣を構えることになるわ」
といってすべての駒を正方形に並べた。周りの最高幹部たちも、これだと言わんばかりにウンウンと頷いている。まさかこれが陣形なのか?ありえないだろ。これだとこちら側に余計な犠牲者が増えるだけである。
今思えばこの世界の図書館には兵法について記された書籍など無かった。確かに所謂剣と魔法の世界では兵法なんかよりも、どれだけ強い魔法や剣術が使えるのかが重要なのかもしれない。その結果、数のゴリ押しが効くような正方形の陣形しか使われていないようだ。たぶん敵も正方形か長方形になって突っ込んでくるのだろう。相手の大将はあのデブだし。
前世でいう孫子のような兵法家がいれば戦いの犠牲者がグッと減るのにな。でもここで俺が提案したところで誰も理解しないしできないと思う。大人しく見守っておこう。郷に入らば郷に従えというやつである。
なんて考えていると、エドワードがジッと模型を見ていることに気付いた。
「おいエドワード、どうしたんだ?」
皆の視線もエドワードに集まる。
「いや、この陣形だと犠牲者が増えると思うんだよね」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
「エドワード、実は俺もそう思ってた」
「だよね~」
ここで先ほどのエルフの大将が
「で、ではどのような陣形にすればよいのでしょうか?」
「例えばだけど...」
エドワードは駒を動かし、陣形を作った。本人は試しに作ってみたのかもしれないが、俺はこれを知っている。前世でいうところの「鶴翼の陣」である。両翼の後ろに控える二つの塊は「魚鱗の陣」だ。これらはかの有名な武田信玄の戦国八陣の中の二つである。確かルーツは三国志の諸葛亮だったかな。
「この陣形だと、一見防御力が低そうに見えるんだけど、中に進めば進むほど魔法の密度が高くなって敵の進軍スピードが落ちていくんだ。でも両端から崩していこうと思っても普通の三倍は時間が掛かるから、その間に魔法で狙い撃ちすれば大丈夫だと思う」
「なるほど、言われてみれば確かにそうですね。ところで両方の後ろに控えている三角型の陣はどのような役割なのでしょうか」
「これはね、二本の強力な矛だよ。別にジワジワ削ってもいいと思ったんだけど、相手はこの陣形を見るのは初めてでしょ?だからどこに魔法を撃っていいのかもわからずに混乱すると思うんだ」
ここで俺が
「そして相手が混乱して陣形を崩し始めた時、両翼に隙間を開けて二本の矛を突撃させ、敵の戦意をへし折るわけだな。相手には大義名分も無いし、うちと違って嫌々戦っている奴が多いだろうから、すぐに敗走し始めると思うぞ」
「両翼ってなんかカッコいいね!確かに翼に似てるから、こっちの陣形を『飛翼の陣』、こっちの陣形を『龍鱗の陣』とでも名付けようか」
陣の名前まで前世とほぼ一緒である。これからはエドワードを諸葛孔明と呼ばせてもらおう。こんなところに軍略の天才が潜んでいたとは驚きだ。
続いてエドワードが
「レオーネ団長とアードルフ大将には『龍鱗の陣』の先頭を任せていいかな?」
「はっ」
「喜んで」
そう、龍鱗の陣は先頭が強ければ強い程勢いが増すのだ。さらに最強の武人が先陣を切れば、後ろにいる兵士たちも安心できるし士気も上がる。ちなみにウサ耳のおっさんが返事をしたので、彼がアードルフだろう。今回の戦力を最も生かせる戦略を短時間で考えたエドワードは本当にすごいと思う。
するとレオーネが
「しかし近衛騎士団の面々は今回、元帥である第二皇子様の側に控える予定だったのですが、よろしいのでしょうか」
「何かあったら全部僕が責任を取るから安心していいよ。それに内乱中はずっと世界最強と名高い【閃光】の冒険者に護衛してもらうからね。皆も後ろは気にしなくていいよ」
エドワードはこちらを見たので、俺はコクリと頷いた。
「天幕の中にいる時以外はずっとエクスに乗っていてもらう約束だしな」
「そうそう!エクスにずっと乗らせてもらうんだ!」
俺に護衛してもらう上に、いざとなったら伝説の『深淵馬』に乗って退避できるとはなんて運が良い奴なのだろうか。また諸葛孔明の鼻息が荒くなってきたので、さっさと次の話に移る。
その後も暫く内乱に関する細かい情報の確認や話し合いを続けた。ここにいる最高幹部たちは腕っぷしだけではなく全員超賢いので、話が分かりやすいし俺が質問をした時に簡潔に答えてくれた。それもあって開始してから二時間程で会議は終盤を迎えようとしていた。
そのため俺は最後に、ずっと気になっていたことを声に出した。
「最後に変なこと言って悪いんだが、強硬派軍の情報伝達速度って少しおかしくないか?」
「ん?どうしてそう思ったんだい?」
「本来の計画だと強硬派はスカーレット皇女を皇帝にした後にアインズベルク侯爵軍とランパード公爵軍を国外に追い出して、その直後に謀反を起こす予定だったろ?」
「確かに、今回強硬派の貴族達たちがゲルガー公爵軍の行軍するスピードに合わせられるのはおかしな気がするよ」
「そうなんだよ。今回ゲルガー公爵軍は前触れもなく急に行軍を始めたろ?ゲルガー公爵軍はともかく普通の貴族軍は連絡が届いてから、まずは兵士を集めたり兵糧をどうにかするのに結構時間掛かる。だから全部の貴族家が内乱に参加できている時点で少し変だと思ったんだ」
「最低でもゲルガー公爵軍が行軍を始めた日には、全員に連絡が届いていたと考えられるね」
「そんなことができるのは俺が知る限り≪転移≫の覚醒者ぐらいだな」
「じゃあやっぱりこの内乱の裏には連邦がいるとみて間違いないね」
「相変わらず面倒くさいやつらだ」
「まったくだよ」
強硬派の貴族達には転移の魔法陣の使用許可は下りていないので、考えられるのはやはり転移持ちぐらいだ。どうせ髭デブ公爵とグルになってやりたい放題しているのだろう。金も沢山貰っているんだろうな。あと俺の予想だと転移持ちは顔を見られる前に連邦に転移して逃げると思う。
でも転移持ちが暗躍しているからといって俺たちにできることは特にないし、これからやることも変わらない。そのためこの会話を最後に会議は終了し、各々が迅速に動き始めた。
そして現在、エクスに乗ってエドワードを帝城に送っている最中である。
「自分たちの事でいっぱいになりすぎて、敵の情報伝達速度がおかしいことに全然気づかなかったよ。やっぱアルテは凄いね」
「いや、そんなことよりも即興であの完璧な陣形を考えたエドワードの方が中々ヤバいと思うぞ。正直に言わせてもらうと、ちょっと引いた」
「褒めるのか貶すのかどっちかにしてほしいんだけど...」
「我儘いうな」
「ええ」
「ブルルル」
===========================================
その頃、強硬派の某貴族領にて
「ふぅ。私の仕事はこれで終わりですね。あとはゲルガー公爵に精々頑張ってもらいましょう」
シュンッ
白い外套を着た男は、その言葉を最後に一瞬でどこかへ消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます