第48話:謀反の兆し

~サイド、ゲルガー公爵~


アルテが公爵邸を脱出してから一時間後


「御当主様!大変です!」


「こんな夜遅くに騒ぐな鬱陶しい!で、用件は?」


「先ほど何者かが書斎に侵入した痕跡が見つかりました」


「なに?」


私と使用人は書斎まで足早に向かう。到着後、中に入り


「重要書類が全て盗まれているではないか!それに隠してあった金庫まで...」


きっとアインズベルクかランパードの諜報部が侵入したのだろう。

じゃあアイツは一体何をしていたんだ?昔から仕事の達成率だけは良かったから今まで飼ってやっていたのに。とりあえずアイツと見張りの衛兵は打ち首決定だな。これだから低俗な平民は嫌いなのだ。


しかも盗まれた重要書類の中には公爵家の命運を左右させるものがいくつか混ざっていたはず。これはマズい事態になった。と、そこに


「夜中に騒がしいですね。もしや何かあったので?」


「先ほど何者かが侵入し、重要書類を全て盗まれたのだ」


「それはそれは...。まさかアレも?」


「そうだ。だから作戦を前倒ししてすぐに実行する。すでに準備はできているからな」


「最後の悪足掻きというわけですか。滑稽ですね」


「黙れ!金は払っているんだからお前もさっさと動け、連邦の犬が!」


「はいはい。まったく人使いが荒いんですから」


その言葉を最後に男は書斎を出た。



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 無事バルクッドに帰還した俺たちは、早速侯爵邸に向かった。


「お帰りなさいませ。アルテ様」


「ただいま。というか、なぜこんな夜遅くまで起きてるんだケイル」


「私はアルテ様の専属執事ですから。それよりも後ろの女性は?」


「うちの新しい戦力だ。一応使用人枠で雇ってやってほしい」


「承知いたしました。では名前を伺っても?」


「私はセレナと申します。あとこの子はムーたんです。いろいろあってアルテ様に拾っていただきました。これからよろしくお願いします!」


「チュウ」


「これはこれは丁寧にありがとうございます。私はアルテ様の専属執事を務めているケイルと申します。すぐに部屋を手配しますので私に付いてきてください」


「わかりました!」


「チュッ」


「あ、ケイル。この二人には今余っている中で一番広くて良い部屋を手配してやってくれ」


「了解です。あとはお任せを」


「おう」


俺たちは一旦解散した。本当はこのままエクスに会いに行きたいが、今は先にやらなければいけないことがあるので自室へ向かう。

到着後ベッドに腰を下ろし、マジックバッグから重要書類を取り出す。沢山あるので書類を一枚一枚丁寧に確認していく。見落としが無いようにじっくりと。


ペラ...ペラ...


それから十数分、書類をめくる音だけが部屋に鳴り響いた。


書類にはゲルガー公爵が昔から秘密裏に行ってきた違法な貿易や件の奴隷売買など、様々なことが記されていた。清々しいほどのドクズである。そして俺は確認しているうちにあることに気付いた。


それは金稼ぎばかりしているということ。というか、マジでそれ以外してない。悪事に手を染めているなら他にもいろいろしてそうだが、今のところ全て違法な金稼ぎについての書類である。


「どんだけ金に執着してるんだよこいつは」


あの豚はお金大好きマンなのか?それとも何か企んでいるのか?

なんて考えながら書類をめくり続け、遂に最後の一枚を確認すると


「ん?ああ、なるほど。そういうことだったのか」


最後の一枚にはゲルガー公爵が謀反を起こして帝位を簒奪するという計画が記されていた。それも強硬派に属する、数十の貴族家のサイン付きである。

こいつらの計画としてはスカーレット第一皇女を皇帝にした後、まずは他国を攻めるという名目でカナン大帝国からアインズベルク侯爵軍とランパード公爵軍を追い出す。そしてその間に強硬派が大軍で帝都に攻め込み、ゲルガー公爵が帝位を簒奪するというものである。


「そりゃ準備に金がかかるわけだ」


また問題はここからである。もし準備が済んでいると仮定すると、あの公爵はすぐに帝位簒奪作戦を実行する可能性がある。重要書類が盗まれたことで、公爵は自分がすぐに捕まる事を理解しているからだ。他の強硬派の貴族たちもサインをしてしまったので後戻りはできないだろう。


「最後の悪足掻きってやつか。まったく面倒な奴らだな」


これだから強硬派は嫌いなんだ。これは一応緊急事態なので、今から帝城に赴いて陛下に報告したいところ。しかし真夜中に陛下を叩き起こす訳にもいかないので、夜勤の騎士に書簡を持って行かせるか。そして明日の朝、親父を連れて陛下に会いに行こう。


「~以下の事が理由で、強硬派に謀反の兆しありと...」


カキカキ


書簡を二枚書き終えた俺は夜勤の騎士に手紙を渡し、親父を叩き起こして情報を伝えた。話し合いの結果、予定通り明日の朝二人で帝城に向かうことになった。


「ふぅ。たまにはエクスと一緒に寝るか」


俺はエクスの魔力を頼りに果樹園に向かい、いつも通り腹に背を預けて目を閉じた。エクスの腹は心地よい感触で温度も丁度いい。例えるなら天然湯たんぽである。控えめに言って最高。


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 翌朝、俺と親父はエクスに乗って帝城を訪れた。【龍紋】を見せて門を潜り、エクスと別れてからいつもの部屋に向かう。


コンコン


「入れ」


「「失礼します(する)」」


ガチャ


今回のメンバーは陛下、宰相、近衛騎士団団長と副団長、俺、親父の六人である。


「久しぶりだな二人とも」


「ああ。ルイスも久しぶりだな」


「陛下、お久しぶりです」


ちなみに親父と陛下は親友なので、普通にタメ口である。もちろん公の場では敬語を使っている。余談だが、転移でバルクッドと帝都を繋げてから親父はちょくちょく帝城に遊びに来てるらしい。どんだけ仲良いんだよ。


あとレオーネとカルロスは親父が近衛騎士団に勤めていた頃、親父の直属の部下だったらしい。


ここで陛下が開口一番


「朝起きてすぐに書簡を確認させてもらった。まずは『閃光』に礼を言いたいところなのだが、いかんせん時間が無いのでな。早速対策会議を始めたい」


どうやらここにいる全員がすでに事情を知っているようである。そもそも皆帝国の重鎮なので当たり前と言えば当たり前だが。


「そうですね、それが得策かと」


「俺も賛成だ。さっさと始めよう」


まずは俺が昨日盗んできた重要書類をテーブルに広げる。とりあえず陛下と宰相にざっと目を通してもらう。数分後


「こんなに悪事を働いていたとは...ゲルガーめ」


宰相も怒り心頭の様子で


「あの豚は帝国貴族としての誇りは無いのでしょうか」


言いたい放題である。ここで親父が


「レオーネ。強硬派の兵力はどのくらいの規模なのか教えてくれ」


「はっ、まずは三万五千人に及ぶゲルガー公爵軍が強硬派軍の要です。また帝都への行軍中、ドミトル侯爵軍とレイブン伯爵軍を含めた他貴族軍と合流し、最大で九万人まで膨れ上がると考えられます」


「なるほど。しかし逆に数が多い分、行軍にはかなりの時間が掛かる。帝都軍が準備を整える時間は十分に確保できそうだな」


すると陛下が真剣な目で


「『閃光』にはエドの護衛を頼みたいのだが、引き受けてくれるか?」


ん?なんでここでエドワードの名前が出るんだ?ああ、エドワードをお飾り元帥として参加させるつもりなのか。確かに元帥として戦いに参加し、謀反軍を撃退したという実績を手にすればエドワードが皇太子になることに反対している奴らを黙らせることができる。


「わかりました。ぜひ引き受けさせてください」


「恩に着る」


その時、衛兵がドアを叩いた。


「陛下、ランパード公爵様をお連れしました」


「入れ」


ドアが開くと、そこにはランパード公爵家当主【フレイヤ・フォン・ランパード】が立っていた。昨晩、俺は念のためランパード公爵家にも書簡を届けたのだ。さすがに今回はビッグツーの両方が参加するべきと考えて。


彼女の見た目は青の長髪でおっとりとした美女である。だが俺は知っている、この人の異名を。それは


【憤怒】


である。

この人は兄貴の婚約者で帝王祭優勝者でもあるソフィアのママンである。噂では過去に敵国の戦艦に単独で乗り込み直接ぶん殴って沈めたり、海竜をぶん殴って討伐したり、イライラして魔導大砲を握り潰したりしたと聞いた。控えめに言って超怖い。見た目がおっとりしている分、さらに怖い。


フレイヤさんは学園では親父と陛下の絶対的な先輩として君臨していたので、うちの親父はともかく、陛下まで彼女に頭が上がらないらしい。情けない皇帝である。


「遅くなってごめんねぇ、皆~」


皆が彼女に挨拶する中、フレイヤさんが初めて目を開き、俺に視線を向ける。


「あらあら、可愛い子がいるわねぇ」


「アルテです。いつも親父がお世話になっております。よろしくお願いします」


「あらぁ、私礼儀正しい子は好きよ~。よろしくね~」


基本俺は陛下以外に敬語は使わないのだが、この人は別である。理由は怖いから。


憤怒が合流後も暫く話し合いが続き、アインズベルクとランパードは内乱に参加せず他国への牽制に専念することが決まった。なお、これは俺の意見である。


なぜならいくらゲルガー公爵といえど、こんなに大規模な謀反の情報を今まで漏洩させなかったのは不自然だからである。元々陛下は強硬派の監視に力を入れていたのにも関わらず、昨日までこの情報を掴めなかったのだ。たぶん優秀な黒幕か協力者がいるのだろう。それも情報伝達を得意とした何者かが。


そのため、アインズベルクかランパードのどちらかが参加した場合、その穴を突いて他国が攻め込んでくる可能性が高い。


「では強硬派軍九万に、帝都軍十二万と第二皇子派閥軍四万の計十六万をぶつけるということでいいな」


「私もそれでいいと思うわ~」


また第一皇女派閥というよりは、完全に強硬派として独立したような動きを見せているので正式に強硬派軍と名付けられた。エドワード曰く、第一皇女のスカーレット皇女はこのアホ共を必死に押さえつけ暴走しないようにしていたらしいので、逆に被害者である。普通に良い人っぽいので、是非今度話してみたいものだ。


そして一時間後に会議が終わり、俺と親父とフレイヤさんは部屋を出た。俺たちは入り口まで雑談しながら歩く。


「そういえばアルちゃんがうちに転移の魔法陣をくれたのよねぇ?」


「はい、そうです」


「あれのおかげで出来ることが沢山増えたのよ~。ありがとね~」


「うちとランパードの仲なので、全然気にしなくていいですよ。うちもよくお世話になってますし」


「あらぁ。カイン、この子いい子じゃないの~」


「ええ。自慢の息子です」


そこでフレイヤさんはこちらを向き、目を開けてペロリと舌なめずりをしながら


「今度アルちゃんに何かご褒美をあげなくちゃねぇ~。うふふふ」


「き、期待してます」


ヒェッ



その後、エクスを迎えに行くために門の付近で挨拶をし、別れた。


「なぁ親父、あの人めっちゃ怖くね?生まれて初めて死ぬかと思ったんだが」


「そ、そんなことないと思うぞ...」


「いや、動揺隠せてないぞ」


暫く進み、厩舎に着いてエクスと合流した後


「アルよ、言い忘れていたんだがフレイヤ先輩は地獄耳なんだ」


「え?じゃあまさか...」


ワンチャンさっきの会話を本人に聞かれていたかもしれない。だから親父は動揺しながら否定していたのか。そういうことはもっと早く言ってほしかった。ヤバい、チビりそう。






その頃フレイヤ・フォン・ランパードは


「ふ~ん。アルちゃん実はそんな風に思っていたのねぇ。うふふふ」


しっかり聞かれていたのであった。



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