第47話:≪影≫魔法の覚醒者

キィンッ


俺の【星斬り】と相手の短剣が交差する。その時にチラリと短剣を見て


「良い剣を使っているな。アダマンタイト製か?」


「そうですけど、随分と呑気ですねッ!」


奴の返答を合図に剣戟が始まった。相変わらず暗殺者っぽくない剣術で攻め立ててくる。短剣を使っているので一撃一撃が速いのは当たり前だが、想像以上に重い。体の使い方が上手いのだろう。重心の移動がスムーズで美しい。魔法も優秀なので、オールラウンダーな冒険者と戦ってる気分である。とても楽しい。


ちなみに俺は前回の戦闘を踏まえてかなりの広範囲を光で照らしているので、相手はもう逃げられない。側から見れば、ここら一帯だけ昼のようになっているだろう。


暫く拮抗した状態が続いているので、ここで少し小細工をしてみる。

俺は奴の目に向かって強烈な光を放つ。そう、目潰しである。


「!?」


俺は一気に距離を詰めるが、奴は一瞬の判断で、外套の懐に手を入れて毒々しい色をした玉を投げてきた。俺は後ろに飛び退き、それを回避する。


そしてそれが地面に当たった瞬間、小さく爆発し周囲に強い毒の霧が発生した。

そのまま強引に突っ込むのではなく回避に専念するのは正解だったようだ。


その間に相手は目に回復薬をかけ、毒霧が晴れた頃には再び準備万端の姿で構えていた。


「目潰しなんて卑怯ですね」


「お前にだけは言われたくないわ。変なの投げてきやがって」


距離が大分離れているので、すぐさま光の矢を五十重展開しロックオンして撃つ。

結果、まったく当たらない。


「一本くらい当たってくれよ」


「うふふ、スピードだけは自身があるんですよ私。魔法に変換させる前の魔力を察知できれば、後は避けるだけですし」


その後、ロンギヌスの槍も十重展開して放ったがあっけなく避けられた。


「魔法ばっかりじゃ面白くないですからね!次はこっちから行きますよ!」


【幻影乱舞】


奴は物凄いスピードで俺に接近し、刺突、蹴り、ナイフの投擲を組み合わせて不規則かつ高速な攻撃を仕掛けてくる。それはまさに乱舞。動きが全く読めないし、右からナイフが飛んできたと思えば左から蹴りを浴びせられ、気づけば背中に剣の傷が増えていく。凄まじい技量である。


ああ、なんという強敵だろうか。久々に血が滾る。アドレナリンが身体中から噴出し、脳が興奮と歓喜で満たされていく。俺は無意識に光速思考を起動した。


奴は続けさまに


【夜の帳】


その瞬間、空から俺に向かって「夜」が降ってきた。俺の半径数メートルが一切光の無い闇に包まれ、同時に影魔法で足を地面に縫い付けられた。奴はこのまま突っ込んできて、俺に猛攻撃を浴びせるつもりだろう。


俺は徐に呟く


【次元斬り】


刹那、夜も魔法も全て斬り裂く。また数メートル先に、≪影≫持ちの姿を確認した。なにやら驚いた顔をしている。魔剣の真の力を見るのは初めてだったらしい。

しかし奴は次の攻撃に全てを賭けているようで、全速力で突っ込んできた。すでに回避のことは頭に入っていないな。奴は最悪相打ちを狙っていると考えられる。


そこで


【三日月】×四


俺は強力な四つの斬撃を飛ばし、相手の両足首と両肩を狙う。前回の戦いも含めて、斬撃を飛ばすのは初めてなので、完全な初見殺しである。


「!?」


相手は回避を捨てたことが裏目に出てしまい四つの斬撃が全て命中し、そのまま地面にダイブした。

数秒後、落ち着きを取り戻したようで


「ふぅ。ここまでですか...見事に体が動きませんよ」


「さっきは随分と驚いていたな」


「だって魔法は斬られるし、斬撃は飛んでくるし...」


「そういうこともある」


「ありませんよっ!」


なぜか倒れたままプンプン怒っているが、予定通りに勧誘を始めるか。


「ってことで、このまま死ぬくらいならうちで働かないか?」


「きゅ、急ですね...かのアインズベルクに勧誘されるなんて光栄です。しかし...」


「首輪をどうにかしないと無理だよな」


「はい」


「それなら大丈夫だ。で、うちで働く決心はついたか?」


「なにが大丈夫なのかはよくわかりませんが、お友達も連れて行っていいのであれば是非」


「よし、じゃあ早速首輪を外すぞ」


「え?」


俺は光速思考を起動し、すぐに【閃光鎧】を発動する。俺以外のすべてが止まった世界で星斬りを構え、美しく繊細な太刀筋で首輪を斬る。次にその首輪を手に取り、海の彼方へ放り投げた。


ドォォォン!


「え...はい?ど、どういうことですか?」


彼女は一瞬の出来事に頭が追い付いていないようだが、俺は気にせずに回復薬をかけてやる。俺にも斬り傷があるのでもちろん自分にもかけた。しばらく経ち


「もう立てるだろ?」


俺が片手を差し出すと、彼女はそれを掴み


「ええ、おかげさまで」


「じゃあ行くぞ。お友達とやらを迎えに」


「はい!!!」


「いい返事だ」



===========================================


 現在、二人でのんびりと海岸を歩きながら話している。


「そういえばまだ名前を聞いてなかったな」


「セレナです」


「わかった。俺のことはアルテと呼んでくれ」


「わかりました。ではアルテ様と」


「少し堅苦しい気もするがセレナは一応使用人枠だから、別にいいか」


「うふふ、そうですね」


その後、どうやって首輪を外したのかや、最後の影魔法のことなど互いに気になっていたことを説明し合いながら歩を進めた。そして


「なぁ、そういえば初めて俺の顔を見た瞬間少し固まってたよな。あれは結局なんだったんだ?」


「実は何十年も昔に別れた可愛い弟分の顔にそっくりだったんです。アルテ様のお顔が」


「でも俺はまだ十五歳だぞ?」


「ええ、だから余計に驚きましたね。さすがに他人の空似だと思います」


ほほう。確かに俺はハーフエルフだが、それはさすがに他人の空似だろう。問題は、俺がその弟分の子供かもしれないということ。でもこのことをこれ以上突き詰めても意味はないと思うから、話を変えよう。まだ俺はセレナに聞きたいことが山ほどある。


「そうだな。急に話を変えるがなんでゲルガー公爵なんかに仕えていたんだ?」


「話すと長くなりますが、私は昔遠い国でSランク冒険者として活動してました」


「もう実力は確実にSSランクだけどな。まぁそれは置いといて続きを聞かせてくれ」


「はい。その活動を始めて十数年経ったある日、悪い貴族の罠にハマってしまったんです」


「それは運が悪かったな」


「その時に首輪を付けられ、ゲルガー公爵家に売られたんです」


「そうだったのか。もし冒険者に未練があったり、故郷に帰りたかったりするのであれば無理にうちで働かなくてもいいぞ」


「本当にアルテ様は優しいですね、どこぞの豚貴族と違って。でも私は孤児院出身なので実の家族はいないんです。可愛い弟分には会いたいですが」


「そうか。じゃあ、時間が欲しくなったらいつでも言ってくれ。それが数年単位でもいい。うちの門はいつでも開いてるからな」


「うふふ。わかりました」


じゃあ旅でセレナの故郷に寄ってみるのも面白そうだ。ついでにセレナを連れていくのもアリだな、エクスとの相性もよさそうだし。あとで料理とかできるか聞いてみよう。


そんなこんなでゲルガー公爵領領都【オストルフ】に到着したのであった。



「では私は影に潜んでますので、あとは予定通りに」


「ああ、了解した」


俺は光学迷彩を起動し魔力を抑え、隠密モードになる。ちなみに俺は、基本的に夜は「暗視」を起動している。


砂浜で戦ったことはバレてないようだ。その証拠に都市全体が静まり返っている。相変わらず酔っ払いと衛兵がチラホラ歩いているが。


大通りを抜け、暫く夜の道を進む。ショートカットのために身体強化で川や建物を飛び越えれば割とすぐに目的地に着いた。


「到着か。道案内ご苦労」


すると影の中からセレナがヒョコッと顔を出し


「ええ、ここら辺は私の庭ですから」


スッと顔を引っ込めた。真面目にやってるところ非常に申し訳ないのだが、ちょっと面白い。もしかして素でやってるのか?改めてうちに勧誘してよかったと俺は確信した。


またセレナに案内してもらい、抜け穴のような場所から簡単に侵入できた。

仮にも公爵家の敷地なのでとても広い。暗い道を数分間歩き続けると、敷地の端っこの方に小さいボロ小屋?というか物置小屋が見えた。


「なぁ、セレナん家ってもしかしてあれじゃないよな?」


「え?あれですけど...」


「そうか」


ということは、セレナは何十年もあの小屋で過ごしてきたということになる。よし、うちに来たら使用人の中で一番広くて豪華な部屋をプレゼントしてやろう。

もちろんボロ小屋に鍵なんて付いていないので、ドアを押して中に入る。


「もう出てきていいぞ」


「はい。あと今更ですが別に私は隠れなくてもよかったのでは?一応ここでは使用人という名目で働いていましたし」


「たしかに」


それは盲点だった。まぁそんなことは気にせずに、早めに用事を済ませよう。確かお友達も連れて行くんだよな。


セレナはテキパキと荷物を整理し、俺が渡したマジックバッグに詰め込んでいる。


「そういえば、お友達はどこにいるんだ?まさか公爵邸にはいないよな?」


「そのうち来ると思いますよ」


「そうか。わかった」


マジか。でも海岸で歩いてるときに、公爵家の使用人からは嫌われているって言ってた気がする。じゃあ一体誰なんだろうか。なんて考えていると


「チュウ」


「あ、ムーたん!来てくれたんですね!」


「チュッ」


ネズミだったかぁ。セレナがお友達っていうもんだから、最低でも人間だと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、お友達はネズミのムーたんだった。確かに賢そうだな。普通なら俺を警戒するところだが、ムーたんは俺とセレナが知り合いということがわかっているようなので、特に騒いだりもせずに俺を観察している。そこで


「ほら、食うか?」


「チュッ!」


俺が実家の果樹園で収穫した葡萄っぽい果物をマジックバッグから出して見せたら速攻で飛びつき、一心不乱に貪り始めた。どうやらこの後うちの果樹園の住人が一匹増えそうである。是非エクスのメシ友になってくれ、ムーたんよ。


「私も食べたいです...」


というのでセレナにも渡し、二人がモグモグ食べているのを眺める。似た者同士だな。


「まだ言ってなかったが、実はうちの庭には巨大な果樹園があるんだ。だからうちに来れば毎日色んな種類の超美味い果物が食べ放題だぞ。最近は収穫しても食べきれなくて、近所の孤児院に配ってるくらいだし」


「「!?」」


やはりムーたんは賢いな。俺の言ってることをほとんど理解しているようだ。果物を食った後、二人で何やらボソボソと話し始めた。


「...ということなんです。もしよければムーたんも来てくれませんか?」


「チュッ!」


どうやらムーたんも来てくれるようだ。じゃあさっさと仕事を済ませて実家に帰らなければな。


「セレナ。早速作戦に取りかかるぞ」


「はい!」


ムーたんはセレナの外套に潜り込み、一緒に影に沈んでいった。なるほど、セレナ以外も影の中に入れるのか。やはりとても便利な魔法である。


その後、セレナに書斎の場所も教えて貰ったのでジャンプして外側から直接侵入し、重要書類を根こそぎ奪った。あと金庫の中に高価な宝石やアクセサリーがあったのでついでに貰っておいた。もちろん追跡の魔法がかけられていないかは確認したので安心してほしい。これはセレナの日常品や必需品を買う時の足しにさせてもらおう。


そのまま俺たちは順調に公爵邸から脱出し、現在アインズベルク侯爵軍諜報部の旧基地内にいる。


「こ、これが例の転移の魔法陣ですか...」


「そうだ」


一応到着する前にセレナに説明しておいたのだ。最近は転移が当たり前のようになってきているが、これは超最新の魔法技術だということを忘れてはいけない。


「二人とも心配だろうから、まずは俺、その次にムーたん。最後にセレナの順番で魔法陣に乗ってくれ」


「わかりました」


「チュウ」


そして俺たちは無事にバルクッドに到着したのであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る