第42話:帝城にて
その日の夜、帝都アデルハイドの別邸にて
「リリーの準優勝を祝って、乾杯」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
今回リリーは見事帝王祭で準優勝に輝いた。帝王祭でいい結果を残せば成績にも反映されるので、このまま順調に勉学に励めば来年は特待生間違いなしだろう。本戦に出場したオリビア、ルーカス、エドワードの三人もたぶん特待生になれると思う。エドワードは元々特待生だが。
「ふっ。まさかこの私があそこまで追いつめられるとはな」
「そうだね。ソフィが優勝できたのは嬉しいけど、試合の間僕はずっと冷や冷やしていたよ!」
ちなみになぜかソフィアと兄貴もこの打ち上げに参加している。
ここでリリーが
「あの~...なんでソフィア先輩と生徒会長まで参加しているんですか?」
「だって僕とソフィアは婚約者だよ?」
「「「えっ」」」
「ちょっとアルテ!聞いてないわよ!」
「言うの忘れてた」
「はぁ...」
「だから生徒会長はあんなにソフィア先輩を応援していたのね」
「俺も婚約者欲しいな!」
エドワードはもちろん知っていたので
「皆知らなかったんだね。あはは!」
「あははじゃない!!」
「いてっ」
リリーがエドワードを殴る。一応この国の皇子様なんだけどな。
と、そこへ
「ブルルル」
さっきまで屋敷の裏庭で寝ていたエクスが飯の匂いに誘われてやってきた。もちろんエクスも誘ったのだが、夕食を早めに食べたらしく断られたのだ。でも飯の匂いに我慢できず、今更やってきた。この食いしん坊馬め。
「おお、これが噂の『深淵馬』か。やはりSランクは格が違うな」
「ほら、一応エクスの分も取っておいてあるからな。食え」
ガツガツ
エクスは家族以外にあまり興味を示さないので、皆の視線をガン無視して食べ始めた。
皆もテーブルに戻り、楽しそうに会話をしながら食事を進める。案外リリーとソフィアは相性が良かったらしく、戦闘の話で盛り上がっている。他の三人も生徒会長である兄貴に聞きたいことが山ほどあったようで、会話に花を咲かせている。
「俺は邪魔だな」
「ブルルル」
ちょっと離れた場所で横になっているエクスの腹に背中を預ける。エクスは飯をたらふく食べたようでお腹がポヨポヨしていて気持ちが良い。前世でいう低反発マットレスのようである。眠くなってきたな。エクスも寝てるし俺も寝るか。
それから一時間ほど経ち、リリーとソフィアが寄ってたので起きた。
「なんか二人とも可愛いわね///」
「ん?何か言ったか?」
「何も言ってないわよ!」
ここでソフィアが急に
「寝起きにすまんなアルテ。こことバルクッドの侯爵邸は転移の魔法陣で繋がっていると、この間ロイドに聞いたのだが」
「そうだな」
「そういえばあたしも前にそれを聞いてから少し気になってるんだけど!」
「ダメ元で頼むのだが、うちの別邸とランパード公爵邸も繋いでくれないか?」
「ランパードならいいと思うぞ」
「え、本当にいいのか!?嘘じゃないよな?」
「ああ。うちとランパードの仲だしな。それに防犯もバッチリだろうから」
「恩に着る!」
打ち上げ後、二枚の写しをソフィアに渡した。ランパードの魔法師団は優秀なので、あとは勝手にやってくれるだろう。リリーとオリビア、ルーカスにも頼まれたのだが、それは親父に相談してからだと伝えた。
この魔法技術はアルメリアが発端である。そのため天龍山脈の向こう側では、あと数百年もすれば人の移動や物資の移送手段として普及していくだろう。ずっと秘密にしておける魔法技術なんて存在しないし、何より勿体ない。
だから今のうちにカナンで普及させることで、ずっと先に訪れるであろう高度経済成長や魔法科学技術の進歩に乗り遅れる可能性をグッと減少させることができる。
「別大陸の国と貿易する際に結局この魔法は公開しなきゃいけないしな」
やっぱり今のうちに普及させるべきだろう。この後陛下に進言しておこう。この魔法陣を持って帰ったのは俺なんだし。
実はこれ以外にも陛下に進言したいことがあるし、明日帝城にでも行くか。
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というわけで、翌日俺は帝城を訪れていた。連絡はしていなかったが、門番に【龍紋】を見せたら大焦りで入城させてくれた。
「急に来ちゃってすみません」
「よいぞ。ちょうど暇だったのでな」
今回は、前回と同じメンバーに宰相が加わって計五人。場所も前回と同じ部屋である。
「~というわけで、すぐにこの国でも普及させるべきだと思うんです」
「なるほど。言われてみれば確かにそうだな」
ここで宰相の【ニコラス】が
「もし人や物資の移動が楽に転移で行えるようになれば、この国の経済や魔法科学技術は急速に発展するでしょうね」
「ええ。戦争も今までとかなり変わってくると思います」
この発言を聞いて、陛下が溜息を吐きながら
「もし『閃光』が転移の魔法陣を持って帰らなかったら、この国は時代に取り残されていた可能性が高いな。本当に感謝する」
「運が良かっただけです」
暫く暗い話を続けていたら、部屋の雰囲気がとても悪くなってきたので
「まぁ最悪アルメリアをボコして、魔法技術をすべて奪い取ればいいんですよ。今回みたいに」
「「えぇ」」
アルメリア連邦は亜人が嫌いという理由だけでうちに頻繁に侵攻してくる頭のおかしな国なのだ。魔法技術のちょっとやそっとくらい奪ってもいいじゃないか。文句は言わせない。
また今後、転移の研究を今以上に進めて帝国全体で普及させることになった。しかし誰でも使えるようになれば犯罪にも利用されてしまうので、新たな帝国法を作ることが大前提である。あと陛下が俺にそれを手伝えと言ってくるもんだから、嫌々了承した。
その結果、転移の魔法陣は帝国の厳重な管理下のもと、許可を取った貴族と商会しか使えないことになった。その場に帝国軍の兵士が駐在していなければいけないというルール付きで。思ったよりも大々的に普及させることはできなかったが、今はこれで我慢しよう。少しずつでいい。焦ったら負けである。
ちなみに私用でポンポン使えるのはアインズベルクとランパードだけの特権となった。一応そのことを陛下に聞いたらアインズベルクはともかく、ランパードならいいんじゃね?という結論に至ったのである。
今更だがこの国はアインズベルクとランパードに甘すぎる気がする。まぁいいか。
それとリリー達には後で謝っておこう。
「陛下、もう一つ相談があるのですが」
「聞かせてくれ」
「現在、帝国の派閥が第一皇女派、第二皇子派、中立派の三つに分かれているじゃないですか?」
「ああ。アルメリアとの総力戦が本格的に始まる前に、どうにかまとめなければな」
「そうです」
三年後に控えるアルメリアとの総力戦の前に、帝国の派閥をどうにか一つにまとめなければいけない。うちは大渓谷から攻めてくるであろうアルメリア連邦陸軍を相手することになる。その際、背後にいる第一皇女派閥軍を気にしながら戦うなんて御免被る。
「はぁ、本人たちは割と仲が良いのだが...問題は第一皇女派閥の貴族だな」
「連邦の強硬派よりはマシなんですがね」
「そうだな」
連邦の戦争強硬派はただの亜人嫌いの集まりという、まるで小学生みたいな奴らだ。それに比べてうちの戦争強硬派は、アインズベルクとランパードが大陸で猛威を振るえるうちに他国に戦争を仕掛けたほうがいいと考える連中である。せめて自分たちが主戦力になればいいのに、なぜか帝国のビッグツーを戦争で使おうとしている。
「まさに虎の威を借る狐ですよね」
「まったくその通りだ」
「それで少し前に、俺が第一皇女派閥の筆頭貴族であるゲルガー公爵家の次期当主をぶん殴った事件があったじゃないですか?」
「覚えているぞ」
「その際にうちの諜報部をゲルガー公爵家に潜らせたんですが、いくつか怪しい情報を手に入れまして」
「なるほど、もしそれが本当であれば公爵家といえどもタダではすまんな」
「ええ。せっかく陛下に【龍紋】を頂いたので俺が現場を押さえることができれば、上手くゲルガー公爵家を失脚させられるかと」
「筆頭貴族が失脚すれば、第一皇女派閥も徐々に衰退していくだろうな」
「はい」
俺の計画ではまずゲルガー公爵家をそれで降爵させる。帝国で公爵は最大四家と決まっているので、そこにアインズベルクを上手く押し込めれば一石二鳥。そう、帝国のビッグツーが今まで侯爵に留まっていたのは、公爵家の最大数が決まっていたからなのである。アインズベルクの爵位が上がれば、帝国でもっと動きやすくなるのでぜひ成功させたい。帝国への上納金も上がるのでWINWINだ。陛下も喜ぶだろう。
「~という作戦を企んでまして」
「余もアインズベルクをいつまでも侯爵に留まらせるのはどうかと思っていたのでな。その作戦には賛成だ」
ここでニコラスが
「ではその作戦が成功した際にはゲルガー公爵家の領地を半分ほど没収し、大公家の領地としてスカーレット皇女様に治めていただければよいかと」
「その手があったか」
「スカーレット皇女なら安心ですね。そうなればエドワードは皇太子になるんですか?」
「そうだな。実はスカーレットは元々皇帝になるのに乗り気ではなかったから本人も喜んで受け入れるだろう」
「わかりました。そろそろ学園も長期休暇に入るので俺も動きます」
「頼んだぞ」
「私からも頼みますね」
「はい」
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その夜、バルクッドの侯爵邸にて
「というわけで、長期休暇はまた忙しくなる」
「なるほど、わかった。でも少しは自分の好きなことをしろ」
「いや、将来旅に出るつもりだから、その前にできることはしておきたいんだ」
「そうか...」
「でもアルテ、転移魔法陣で旅先からいつでも帰れるって言ってたじゃない」
「あ、バレたか」
「おい、俺に嘘ついたな!せっかく感動してたのに!」
ここでレイが
「ついにうちも公爵家になるの?」
「上手くいけばな」
「やったー!」
「僕も公爵家次期当主かぁ」
「そうだな」
今日もうちは賑やかである。実家と別邸を繋げて本当に良かった。
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